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- 木の街づくりTALK「都市(まち)の木造化推進法の目的と今後の展開」(後編)
脱炭素社会の実現を目指して
法改正で木材利用をさらに促進!
木の街づくりTALK ~都市の木造化推進法の目的と今後の展開(後編)~公共建築物の木材利用促進を目指した『
公共建築物等における木材の利用の促進に関する法律』が制定され約10年が経ちました。その間、さまざまな技術革新や建築基準の合理化などにより木材利用の可能性は大きく広がっています。そして2021年6月に木材利用促進の対象を公共建築物から民間建築物を含めた建築物一般に拡大するための法改正が行われ『
脱炭素社会の実現に資する等のための建築物等における木材の利用の促進に関する法律』(
都市の木造化推進法)が10月1日に施行されました。今回は木の街づくりTALKと題して日建設計 Nikken Wood Labの大庭拓也さんをゲストにお招きし、林野庁木材利用課の櫻井知さん(オンラインで参加)と井上源太さんの3人で法改正の狙いや今後の展開について意見交換をしました。
木材利用で産地とのつながりをデザイン
(大庭)
天然素材の木材は、鉄やコンクリートと違い一つひとつが違っていて、この木はどの産地で誰が育てて、誰がつくったものなのかと思うと設計が楽しくなるんです。
木造建築で都市に炭素を固定していくことも重要ですが、地域と街のつながりをデザインすることができます。それをトレーサビリティと言ってもいいですが、例えばスーパーで野菜を買う時に産地と生産者さんがわかるとちょっと美味しく感じるように、その木材はどこで、誰が育てたのだろうとか、その地域の文化はどうだろうとか、そういうことをコーディネーションして一つの建築という形にしていくことに大きな価値を感じています。たくさんの人が関わりながら、木造を推進していくことが、大事だとよく感じています。
(櫻井)
まさにそれがSDGsの17番目のゴールですよね。同じ課の井上は、小田原市出身ですが、最近、小田原市内の川上から利用の現場まで木材のサプライチェーンを見せてもらってきたところです。
現場を見たことで木の良さを体感できた
(井上)
いま自宅を新築しているところですが、視察に同行する機会があり、木材流通の川上から川下まで、木を伐って製材し建築に使われるまでの一連の流れを見ることができました。現場を見ることで、改めて木の良さを実感できました。
自宅の建設現場に行くと、木の温かみを感じますし、木の香りがとてもいいです。私が木造で家を建てようと思ったのも木の香りの良さを知ったからでした。大庭さんがおっしゃっていたように、生産地や生産者のことを知ると、木の良さがよりわかるようになると思います。
林野庁木材利用課の井上さん
木材や自然をより身近に感じてもらう。1本の木を無駄にしない工夫。
(大庭)
Nikken Wood Labは「
つな木」という小径の材木とクランプで簡単に組み立て・解体ができるユニットがあるのですが、先ほど紹介した小学校では自分たちが使うコート掛けを子どもたちに組み立ててもらいました。
中大規模木造建築でつかう木材は、1本の原木からみるとマグロのトロみたいなものです。諸説ありますが、1本の原木の半分ぐらいは建材以外になるといいます。構造材で量を使いつつも、そうではない部分も合理的に使うことをやっていかないとゴミばかり増えてしまい、後はすべてチップというのも味気ない話です。お箸にしたり、家具にしたりいろいろな可能性を広げていくのが大事だと思っています。
写真提供:Nikken Wood Lab/自分たちで使うコート掛けを、「つな木」で組み立てる
身近なところからウッド・チェンジ
(櫻井)
木づかい運動としてすすめている
ウッド・チェンジは、建物の木造・木質化だけでなく、身近なものを木製品に代えることで暮らしに木を取り入れて、それによって持続可能な社会にチェンジすることを目指しています。「
きになるところ、木のあるところ。おでかけNAVI」では、建物に木材が使われている施設・店舗や木製品を取り扱っている店舗などを検索することができます。
木材利用施設優良コンクールや
ウッドデザイン賞でもいろいろな木造建築物や木製品などを紹介していますので、気になった施設・店舗に行ってみたり木製品を手に取って木の良さに触れていただき、皆さまができるところ、関心があるところからウッド・チェンジに取り組んでいただければと思います。
(井上)
木は弱いので耐久性がないというイメージを持っている方も多いかと思います。実際に木の建物や外構を見て、触れて、ご自身でしっかり情報を集めていただければ、そんなこともないと分かると思います。私も最初は、木はメンテナンスが大変なのかなと思っていましたが、いろいろな事例を見て木の良さを知ることになり、木造住宅を建てようと決意しました。エクステリアも
木のフェンスやデッキの事例が増えていますから、参考にして作ろうと思っています。
(大庭)
2021年に『Nikken Wood Coordination』という取り組みを社内新規事業コンペに応募して、採択されました。ウッド・コーディネーションというのは、その言葉の通り、川上、川中、川下を設計者の視点でコーディネーションして無理なく、みんながハッピーになれるような木づかいをやっていくのが目的です。そのことが今回の法改正で定められた協定制度につながると思います。ただ単に木を使うだけではなく、その先の価値を創造する木材利用を目指して、コーディネーションをしながら設計にフィードバックしていきたいと思っています。
(櫻井)
木の建物は、建てる方も、使う方も、実際に触れてみるとその良さを感じていただけるものだと思います。大庭さんのお力もお借りしながら、ぜひ木材利用を促進していきたいと思います。今日はありがとうございました。
大庭拓也さん Profile
株式会社 日建設計 Nikken Wood Lab ラボリーダー。ウッドスケープアーキテクト。建築・都市の木質化に従事し、有明体操競技場、選手村ビレッジプラザ、渋谷区立北谷公園などの木質建築を手掛け、農林水産大臣賞、環境大臣賞、林野庁長官賞、ウッドデザイン賞などを受賞。
株式会社 日建設計
https://www.nikken.co.jp/ja/
※人物写真は、撮影時のみマスクを外して撮影しています。
写真(左から) 株式会社 日建設計 Nikken Wood Lab ラボリーダー 大庭拓也さん、林野庁 林政部 木材利用課 木造公共建築物促進班 課長補佐 櫻井 知さん、林野庁 林政部 木材利用課 木造公共建築物促進班 井上源太さん