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外構・外装木質化による新たな木材利用の可能性
建材流通大手のナイス株式会社が持続可能な木材資源の循環に貢献したいとの想いから、外構・外装木質化による新たな木材利用の可能性を探るプロジェクトを2023年より本社ビルで行っています。以前より外構木質化に力を入れており、横浜市鶴見にある本社ビルを実際に工事することで来訪者が直接見ることができる「活きたショールーム」として機能させました。施主のナイス株式会社脱プラ・木質化R&Dセンターの志村将宏さんにそのプロジェクトの詳細を伺いました。
築30年超のビルをバリューアップする外構木質化プロジェクト
御影石の外壁から木製の外装にリニューアル
1950年に横浜市鶴見の地で木材卸売業からスタートしたナイス株式会社は、木材サプライチェーンの川上から川下まで網羅する専門商社です。そんな木材のプロフェッショナル集団であるナイスが自社ビルを実験の場とし、2023年に外構の木質化をテーマにした工事を行いました。
このプロジェクトについて志村さんは、「第1期工事では、表層部が高密度化することで風化への耐性が向上する弊社が開発したGywood®の提案と保護塗料や仕様の違いによる耐候性を検証しました。また、施工性を良くするための簡易化やユニット化の検証を進めました。今回の第2期工事ではスギ以外の建材のバリエーションを広げるため、ヒノキ・アカマツの圧密材を採用。圧縮率を高めたスーパーGywood™ による床タイルやNC加工による立体的な意匠を実現した壁面仕上げなど新素材・新用途開発を行いました。その他、外壁を木質化することにより、断熱性能に与える影響を検証し、省エネ化の可能性を探りました」。
ナイス株式会社 脱プラ・木質化R&Dセンターの志村将宏さん
次世代環境配慮型コンビニ店舗の木質化を実現
内外装に木材がふんだんに使用されているコンビニ外観
1期工事の完了後に行ったアンケート結果では、木材の温かさや風合いの良さが伝わり、外構の木質化が高評価を得ました。ライトアップをした凸凹Gywood™の壁面も立体的で面白いなどの評価や環境に配慮した企業メッセージを表現する事ができるのでは?などの様々な問い合わせがあったそうです。昨年8月には、福岡県内にニューオープンしたコンビニ店舗にナイスが開発した資材が採用されました。
「省エネ・創エネ・蓄エネ設備を備えた次世代環境配慮型のコンビニ店舗に1期工事で使用した弊社の製品が採用されました。構造材、羽柄材、内外装材等の木材全般の調達及び加工に携わり、店舗全体における木材使用量は33.76㎥。外装の木製ルーバーには、宮崎県産飫肥(おび)杉の大径材のうち赤身部分を使用したObiRED®に、表層を高密度化することで強度や寸法安定性を向上させる技術Gywood®を施した製品が採用されました。外壁にもObiRED®が採用され、特殊な圧密技術によって表面に起伏をつくる凸凹Gywood™で仕上げました。福岡市産材を中心とした木材調達で地産地消に貢献することもできました」。
内装には福岡産のヒノキの羽目板
木材を圧縮する技術でスギ材が外装材へ変貌。木材利用拡大の可能性を探る!
スギ赤身の芯込材が凸凹Gywood™の技術により表面が立体的な意匠材に進化した
外構の素材に求められるのはその強度と耐候性。木材を外構に使用する場合、以前は素材そのものが硬く、腐りにくい外国産材が主流でした。このプロジェクトでは国産のスギ材を圧縮加工し、軽くて丈夫な素材へと生まれ変わらせることにより、外装材への利用が可能であることを実証する試みです。経年変化による退色の問題など懸念される事項がありますが、難しい挑戦について志村さんに伺いました。
「今回は、宮崎県産飫肥(おび)杉の大径材のうち赤身部分を使用したObiRED®という弊社の製品に表層を高密度化して強度や形状安定性を向上させる特殊技術Gywood®を施しました。これにより硬さを保持しながらも軽いため、外構・外壁材としての可能性を非常に感じています。圧縮加工した後、防腐・防蟻薬剤AZNを乾式加圧注入することでさらに耐久性を高めております。経年変化については、屋外用の木材保護塗料で塗装することで経年による木材の退色を抑え、高い撥水効果が長期にわたり続きます。この色味の変化に関しては長期間の検証が必要になると思っています」。
外壁に様々な板材が使われていて個性豊かな表情を見せています。表面が立体的に見える節有材や掘り込みが素敵な化粧板などこれらはどのような意図で製作されたのでしょうか?
「国道15号線に面した外壁はObiRED®に特殊な圧密技術によって凹凸形状をつくった凸凹Gywood™で仕上げられ、節有材の表情をさらに豊かにしてくれています。柱周りには、コンピューター制御されたルーターによって複雑な曲線や微細な加工を可能にしたNC加工技術によって掘り込まれた板材が包んでいます。面ごとにパターンを変えていますので見る角度によってが表情が変わる設計となっています。この技術により外装材だけでなく新たな木材利用拡大の可能性を探っています」。
木材で包まれた柱。面によりNC加工したテクスチャーが異なる
表層圧密テクノロジーを使った製品の樹種バリエーションを拡大
正面の木材との対比で通用口側面には色味の異なるヒノキを採用
国内の人工林の7割を占めるスギ・ヒノキ。前回のプロジェクトでは大径化したスギの新たな活用方法として、ナイスが開発した表層圧密技術を施した新素材による外構木質化の実証実験を行いました。今回新たに木質化した通用口の側面に木目が美しい清潔感のあるヒノキの壁が目を引きます。
「今回はスギ以外の人工林資源であるヒノキ・アカマツに弊社の表層圧密テクノロジーを使い、新たな製品開発を行いました。実験ではアカマツ材の一部にヤニが析出するケースがありましたが、材を選別することで対応。また施工の難しい曲線を描くR部は、寺社建築の経験豊富な菊池建設さんの施工技術により実現しました。針葉樹の柔らかくて傷つきやすい欠点を補うための技術ですが、将来的にこの表層圧密テクノロジーを各地の地域材で活用することで国産材の付加価値向上の一助になれればと思っております」。
木製のフローリングが室内で敷かれるのは一般的ですが、外部で風雨に晒される玄関アプローチに床タイルとして木材を利用するのは初めて聞きました。
「ObiRED®を高圧密技術スーパーGywood™で仕上げ、AZNを加圧注入した木板を普段使われることのない外部床タイルに採用し、外装床材での高圧縮圧密材利用の可否を検証しました。最初にモックアップを製作し、施工法を検討。その後、滑り性試験を実施し、国交省が示す建築物の出入り口に求められる推奨値0.04以上をクリアすることができ、外装床材での木材利用も十分可能性があることがわかりました」。
磁器タイルと見紛う頑強な木製床タイル
植栽のベンチは地域の憩いの場所へ。外構木質化が目指す未来
ビルを囲む植栽帯。ベンチのような垣根が印象的
実証実験の中で、植栽をぐるりと囲む板材でつくられた垣根は人が腰掛けるのに丁度良いサイズになっているように見受けられました。これはベンチとして利用されることを想定されていたのでしょうか?
「本社ビルが位置する場所は近くに区役所があり、オフィス街のため自然環境に乏しいエリアです。植栽の垣根がベンチのような役割を果たすことができればと思っていました。実際に多くの近隣の方々が利用され、休憩所のような使われ方をしています。木の温かみは人をホッとさせるようで自然と人が集まって来ますね。地域に根ざした憩いの場になればいいなと思っております」。
今後の展望について志村さんは、「まずはこれまでのプロジェクトを検証してエビデンスを蓄積し、新たな商品・素材開発に活かしたいと思っています。スギ以外の樹種やこれまで価値が低かった節有材や芯込材を圧密やNC加工などにより高付加価値化して、国産材丸太の価値を全体的に向上させることで持続可能な国産材資源の循環に貢献したいと思っています。また、圧密材による床タイルなど新たな用途提案により、木質化領域の拡大による国産材利用増加を目指したいと思っています」。