既存建築物への外構・外装木質化を実証実験
外壁木質化工法や耐候性、人々の心理などを幅広く検証

横浜市鶴見で1950年に創業したナイス株式会社は、住宅建築用の木材を競り売りで取引する木材市場の運営から始まり、木材製品、現在の主力事業である住宅資材、そして戸建て分譲やマンションなどの住宅事業にまで幅広く事業を展開している木材と建築資材の専門商社です。志村さんはナイスの特徴をこう説明します。「自社の木材倉庫を保有していることが大きな特長です。木材を卸していただく製材所や林業家の皆様から、責任を持って丸太や木材を仕入れ、さまざまな付加価値をつけて消費者の皆様にお届けする中間流通の役割を担っています」。

戦後の拡大造林で日本各地にたくさん植えられたスギは50年、60年を経て大径化し、大きな資源となっているにも関わらず、伐採や搬出に労力がかかることや材質が柔らかく傷が付きやすい等の理由から、住宅建築に使われなくなってきています。

「大径化したスギの付加価値の高い活用法を見つけないと、大径木を伐り出す林業家の方たちに利益を還元していくことができません。当社では大径木を有効に活用できる様々なオリジナル商品を開発しご提供しています。一方でバブル期に建てられたビルディングやマンションは築30年近くが経過しているのでリノベーションを行い、建物の価値を高める必要が生じています。内装の木質化などは既に様々な場面で取り組まれていますが、外構や外装を木質化することで、築30年超の建物の価値を高めるのが今回の実証事業の目的です」。

ビルの内装や外装の木質化に使用する木材は、傷がつきにくい硬さが求められます。スギは材質が柔らかく傷がつきやすいので今までは内装、外装にはあまり用いられてきませんでした。また外装の場合は、防腐防蟻性能がとても重要になります。さらに屋外では紫外線や風雨の影響で木材が灰褐色に変色してしまうことも外装の木質化をためらう原因の一つになっていました。灰褐色化を、好ましいと感じる風潮も最近は出てきましたが、従来は古びてみえるので嫌われていました。

「弊社の開発した表層圧密テクノロジーGywood®は、スギ板に圧力をかけて表層部分だけを高密度化させた製品です。内部はもとのスギの密度とあまり変わらないため軽くて固い木材になります。今回は、飫肥杉の大径木の赤身材を使ったObiRED®という弊社の製品を表層圧密加工した木材を主に使用することで、傷がつきにくいという条件をクリアしています。広葉樹並の硬さを持ちながら、軽いというスギの良さを併せ持っているため施工性や加工性がよく、外構・外壁材としての大きなメリットがあると思います」。
 

今回の事業で設置した外壁・外構は主に、メイン壁面、植栽部分、雁行部※壁面、柱型外装とウッドデッキの4カ所です。メイン壁面（写真Cの部分）は、意図的に節目の多い材に表層厚密加工を施し、表面の凸凹した表情を出した凸凹Gywood®というオリジナル製品にAZNを加圧注入しK4相当の防腐防蟻処理を行い、さらに表面の木材保護塗料を塗装しています。赤身材は節が多く、節のある部分は敬遠されてきましたが、あえて節をデメリットではなく、意匠上のメリットとして捉え製品化することで、丸太を無駄なく利用できます。

築30年超のビル外装を木質化するときに、既存の石材の外壁仕上げを剥してしまうと、躯体へのダメージが大きく、そこから水が浸み込み、躯体内部の鉄筋、鉄骨が痛む心配があります。そこで、外装材の取り付けは、元の外壁へのダメージを軽減できるカバー工法を採用し、ステンレス製の胴縁を元の外壁にアンカーボルトで止め、下地材を設け、パネル化した外装材を上張りしています。元の外壁と外装材の間に隙間ができ、雨水などが滞留することがないので腐朽を予防でき、万一、外壁材の張替えが必要となった場合も工事が容易になります。「外装木質化をする際、工事の簡単さや工期の短縮なども大きな課題の一つです。外装材をユニットパネル化することや金物と併せてキット化し取り付けを容易にするなどの工夫を凝らしています」。

※雁行部：雁が群れで飛んでいくときの列のように、壁面がはすかいに続いている部分

エントランスの柱は、表層圧密加工を施したフローリング形状の加工材をAZN処理し、その上から木材保護塗料「キシラデコール」を塗装しています。その奥の雁行部の壁面（写真Bの部分）は、表層圧密処理を施したフローリング材をAZN処理し、木材保護塗料「キシラデコール」を塗装しています。塗装色による耐候性の実証実験をするために奥、中間、手前でそれぞれは木材保護塗料の色を変えています。また、柱や壁は目透かし仕上げにして、平面的ではなく、なるべく立体感のある見え方になるように配慮することで、見る人に本物の木であることをアピールしています。

C（写真Dの部分）外装材は表層圧密処理とAZN処理をした上から、試験的に液体ガラス処理を行っています。「基本的に防腐性や耐久性に優れている飫肥杉の赤身材にAZNを加圧注入することでAQ1種相当またはJASのK3〜K4相当の品質性能を持たせています。それに対し木材保護塗料のウッドエイドナチュレやキシラデコールを塗装したものや、液体ガラス処理をしたもの、何も塗装していないものを使用し、長期間にわたり変化を検証していく予定です。自社ビルの外壁・外構なのでこのような試験が可能です。金物と合わせたキット化、ユニット化によるカバー工法による取り付けと併せて経年変化を検証し、今後増えていく築30年以上のビルやマンションの外壁・外構木質化により説得力のあるご提案をしていけたらと思います」。
 

この実証事業では、関係者や地域の人たちに対するアンケート調査で木質化がどのような心理的な印象をもたらすのかを調査していきます。初回のアンケートは昨年11月の竣工後に、主に関係者へ向けて実施しました。施工前と施工後の写真や、メイン外壁のライトアップ前とライトアップ後の写真を提示し7段階で評価していただきました。

「施工前の外壁は御影石だったので、高級感などには変化がありませんでしたが、木材ならではの温かさや楽しさなどの評価が高い傾向にあり、木質化がポジティブに受け取られていました。ライトアップをした凸凹Gywood®の壁面も立体的、個性的などの評価が高く、小売業、飲食業などお客様の注目を集めたい業種へのいいアピールポイントになりそうです」。

いちばん気になる経年変化に対する調査は、変化が出てくる半年後から実施する予定です。「経年変化でシルバーグレーに変色するのは木材の特徴でもありますが、このことを人々がどう捉えるのかとても関心を持っています。再塗装などのメンテナンスもその結果によって、実施する時期を検討しようと考えています。この実証事業は今後5年間続けていきますが、それ以上の年月にわたって続け、そこから得た知見を財産にして、これからの外壁・外構の木質化を進めていきたいと考えています」。自社ビルのファサードを実験場とした実証事業で、どんな結果が見えてくるのかとても楽しみです。