古くて新しい？国産木材をふんだんに活用できる
CLTログハウス構法で建てた「上滝(かみだき)こどものもり」

富山市の幼保連携型認定こども園「上滝保育園」に併設された「上滝こどものもり」は、生後2ヵ月から5歳児までを対象に教育･保育を一体的に行う、幼稚園と保育園の両方の良さを併せ持つ施設です。富山市の「子育て支援センター」も受託していて、施設内に地域交流スペースを設け、地域住民と子どもたちの自然なふれあいをめざす純木造2階建ての施設です。1階部分がCLTログハウス構法、2階部分は枠組み工法の小屋組になっています。施主である上滝保育園の杉森さんに建設に至る経緯をお聞きしました。

「最初は鉄筋コンクリート造で計画していたんですが資金面の問題があって鉄骨造に計画を変え、さらにCLTログハウス構法による木造に変更することで資金面の問題をクリアできました。木造は高いという先入観をもっていたのですが、実際は予算内で思い通りの施設を建てることができました」

玄関を入ってすぐのイベントホールは、天窓から日が射しこむ明るい吹き抜け大空間。このスペースは地域コミュニティのためにも利用されます。入り口左手に子育て支援センターとワークスペース、厨房、右手に浴場施設、奥に保育室が3室、そして2階部分は大型の倉庫スペースとなっています。

「竣工して1年半になりますが、玄関を入るとまだ木のいい香りがします。スタッフも木に囲まれているので気持ちが落ち着くと好評です。園児たちも木の床で気持ちよさそうに寝転がっています。当園は“はだし保育”を実践しているのですが、木の床は足触りがとてもよく、夏はひんやり、冬はあたたかく子どもが過ごす環境としてとても良いと満足しています」
 

「上滝こどものもり」の設計・施工を担った株式会社アールシーコアBESS事業本部は、ログハウス構法が強みの木造住宅メーカーです。かつては山小屋・別荘の代名詞だったログハウスを、マシンカットの導入や防火認定の取得などの技術開発を進め、ログハウスを一般住宅として普及させています。同社の建築戸数は40年間で累計2万3千棟を超えています。

CLTログハウスの広報を担当しているアールシーコアの池松さんは「この施設は当社が特許を取得※1 しているCTLログハウス構法で建てた中規模の非住宅木造建築です。ログハウスに用いられる丸太組構法とは、直交する壁面を互い違いに積み重ねた丸太でつくっていくものですが、近年は丸太ではなくマシンカットで角材に加工したログ材を使用するものがほとんどです。当社では数年前にログ材にCLTを採用する構法を開発しました。もともとログハウスは高い耐震性が長所ですが、それに加えてCLTが持つ寸法安定性や長尺部材がとれるという特長を生かし、住宅だけでなく中大規模の非住宅木造建築にも適している新しい構法として開発しています。また、木材を積み上げて壁面をつくるログハウスは、一般の木造住宅の約3倍※2 の木材を使用することから循環型社会の実現にも大きく貢献できると思います」と話します。

※1 特許・商標：CLTを用いたログ材の特許（特許7169690）/ CLTログハウスの商標（登録6202021）
※2 （株）アールシーコア調べ

 

「上滝こどものもり」の1F部分は高さ40㎝、厚さ12cmの国産ヒノキ材を使用した3層4プライCLT（JAS材）を積み上げて壁面が構成されています。一般の軸組み工法のように柱を立てて構造材として用いるのではなく、壁全体が構造材です。株式会社アールシーコアBESS事業本部商品本部の池田さんにCLTログハウスの特長をお聞きしました。

「いちばんの特長は地震に強い頑丈な構造であることです。隣接する壁と壁は、互い違いにCLTのログ材を積み重ねて組み上げています。外からは見えませんが上下のログがずれないよう金属製の通しボルトやダボを使って固定しています。2007年に日本ログハウス協会が行ったログハウスの実大振動実験※3 では、中地震レベル、阪神・淡路大震災並の巨大地震レベル、巨大地震レベルの1.5倍の強さでも外観変形は軽微で地震に対する強さが実証されています。また、接合部に金物を使用するCLTパネル工法に比べ、CLTログハウス構法は使用する金物の数がひじょうに少ないのが特長です。大断面、長尺のCLTを使うことで部材数も少なくて済み、施工時間の短縮が可能です。大断面のCLTは防耐火性にも優れていて準耐火構造60分を取得できました」

「上滝こどものもり」の施設内は、どこを見ても木材が現わしで使われているので、木材がもつ様々な良さをフルに体感することができます。
「木材は、断熱性能や蓄熱性能が高いので冬温かく、夏涼しい環境をもたらします。壁は木材100％で断熱材等は不要です。大断面CLTによる壁は、どっしりとしていて安心感を与えてくれます。天井や床にも無垢材を使用し、木の温かさや優しさをアピールするようにしました」

※3 日本ログハウス協会が2007年7月11日につくば市の土木研究所で行ったログハウスの実大振動実験。

CLTログハウスでは、積み上げたCLTログの壁がそのまま外装と内装になっています。ドアや窓などの開口部は組み上げる前にログに切り込みを入れて置き、現場で組み上げてから開口部を作るそうです。池田さんにメンテナンス等についてお聞きしました。

「この施設では、外壁になる部分には明るい色の木材保護塗料を塗布しています。内壁になる部分にも透明な保護塗料を塗布しています。これらの木材保護塗料は美観維持のためのもので防腐の効果はありません。木造建築でいちばん気になるのは腐ることですが、建物で腐朽しやすいのは雨水が当たる部分と雨水が浸み込みやすい交差部やジョイント部、木口面などです。これらの場所には定期的に防腐薬剤を塗布していただきます。当社ではオリジナルの防腐薬剤を用意しています。スプレータイプなので細かいところにも薬剤を浸透させることができます。壁面の木材保護塗料も数年ごとに再塗装をするように推奨しています。木の建物を長持ちさせるためには定期的なメンテナンスは不可欠です」

建物の正面と裏側にはウッドデッキとウッドフェンスが設置されています。屋根は鋼鈑を用い、積雪地であることから雪止めが設置されています。

「ウッドデッキは薬剤を加圧注入した国産スギ材を使っています。デッキやウッドフェンス、特徴的な三角屋根などで楽しい雰囲気を醸し出そうとしています」

一見、クラシックな手法に思えるログハウスですが、様々な技術革新やCLTの採用により、今の建築に求められる高い強度と防耐火性、断熱性や蓄熱性などを兼ね備えることができています。さらに木材をたっぷりと使用して木の良さをフルに引き出す建物をつくることができる構法として期待が集まっています。

杉森さんは「この施設は真ん中に広い地域交流スペースを設けています。厨房もあるので地域食堂や食に関する講座を開いています。そこには地域のお年寄りもいらしてくれて、子どもたちと地域の住民が自然なかたちで交流できる場となっています。浴場施設も今後は地域の方たちにも利用していただけるようにできればといいなと思い検討中です。未来を担う子どもたちだけでなく、地域のお年寄りにとっても気持ちよく過ごせる場所にしたいと思っています。私も木で囲まれたこちらで、木の香りに包まれて事務仕事をしていると大変気持ちがよく、効率が上がっていると実感しています。木造にして本当によかったなと思っています」と話します。

池松さんは「この建物で使用した木材使用量は105㎥（国産材使用は59㎥）で、炭素貯蔵量は約74トンです。スギの木に換算すると約147本分※4 の炭素貯積量になります。この敷地が147本のスギが生えている森だと想像すると興味深いですね。“こどものもり”は本当に森だったわけです」と話します。

池松さんにこれからの抱負をお聞きすると「いま非住宅の木造化が注目されていますがCLTログハウス構法はまだまだ認知されていません。CLT材を使うことで中大規模の非住宅にも対応できるので、保育園や学校、道の駅などの観光施設などに展開できると考えています。例えばマンションなどの集合住宅でも、木をふんだんに使った個性的な建物は、自然志向でちょっと面白い暮らしをしたいと思っている層にアピールできるのではないかと思います」

木材を暮らしに取り入れ利活用していく手法の一つとしてCLTログハウス構法はとても興味深いものです。様々な建物が木質化・木造化することで日本の森林や林業・木材業が活性化することで持続可能な未来の実現に一歩近づくことができればと思います。

※4 林野庁「建築物に利用した木材に係る炭素貯蔵量の表示に関するガイドライン」に従いアールシーコア調べ