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山形で守り続ける“スギで建てる家づくり”
創業当初から国産スギの無垢材で家づくりを続けてきた山形の工務店、株式会社ハート・コーポレーション。代表取締役の高崎和生さんに、国産スギ材の柱を標準仕様とする理由や工法へのこだわり、日本の木を生かす家づくりのポリシーをうかがいました。
「花粉症対策木材利用促進事業」現場からレポート
新しく建てられた住宅が多く見られる、山形県内の住宅街。建設途中のある木造住宅の現場におじゃましました。この住宅は、「花粉症対策木材利用促進事業」の補助金申請を行っている物件です。事業の目的は、国産のスギ材を住宅に積極的に使うことで、花粉を大量に飛散させる過齢の人工林を計画的に伐採・活用し、花粉症対策と森林の健全な循環利用を同時に進めていくことにあります。
当日は、柱や梁といった部材にどれだけ国産スギが使われているか、仕様書どおりの材が使われているかなどをチェックするため、山形県木材産業協同組合による現地確認が行われていました。その検査に同行するかたちで、この家のつくり手である株式会社ハート・コーポレーションの高崎和生社長にインタビューさせていただきました。
「今日は、事業の条件にきちんと合っているか、スギ材の利用実態を確認してもらいます。でも、実は特別なことはしておらず、これが当社の“標準仕様”なんですよ」
そう語る高崎社長の言葉どおり、現場には無垢のスギの柱が並び、国産材を前提とした家づくりに取り組んでいることが見て取れます。
株式会社ハート・コーポレーション代表取締役の高崎和生さん
補助事業だからスギを使うのではなく「もともとスギの家」
検査のかたわら現場を見学させていただいた
今回の花粉症対策木材利用促進事業への応募は、建築関連団体からの案内がきっかけだったそう。
「JBN(一般社団法人JBN・全国工務店協会)など、加入している建築会社の会から『こういう事業が始まったよ』と案内が来たので応募しました。当社は創業当初から国産の無垢材、とくにスギの柱を標準仕様にしてきたので、たまたま今回の事業の趣旨と合致した、という感覚ですね」
一般には「補助金があるから国産材に切り替える」という流れになりがちですが、ハート・コーポレーションでは逆で、もともとスギを使ってきたため、自ずと事業の要件を満たしていたという状況です。
検査では、図面・仕様書と現場の材が照合され、国産スギの使用本数や部位などが細かくチェックされていました。第三者の検査が入ることで、スギ材利用の信頼性がより一層高まります。
施主が知らない「木の話」から始まる家づくり
105ミリ角の国産スギ柱を、密な間隔で使用し耐久性を高める
高崎社長は、施主との打ち合わせの初回から、スギ材利用と花粉症対策のつながりについて触れるようにしているそうです。
「多くの方にとっては初めて聞く話のようです。残念なことに、自分の家に“どんな木が使われるか”に興味を持っておられない方が多いです」
無垢材と集成材の違い、在来工法とその他の違い、構造が何なのか。こうした基礎的な情報すら知らされない施主のほうが一般的です。
「知らないまま家を建てると、何十年か後の改修やメンテナンスの課題も見えません。スギのように昔から日本で使われてきた材料による在来木造は使い方に柔軟性があり、ノウハウが豊富で、補修やリフォームの選択肢が広いんです。一方で、外材中心の構造は時間的な耐久性が十分に実証・検証されているとは言えないと、私は考えています」
「うなぎは国産を選ぶのに、家はなぜ外材?」という歯がゆさ
JAS構造材を用いることで品質の安定をはかっている
国産材を愛し、日本の未来を考える高崎社長は、穏やかな雰囲気の中にも熱を込めて次のように話します。
「食べ物なら、国産か外国産かを気にする人は多いですよね。でも、家を建てるときにはなぜか“国産の木”を選ぶ意識が働かないのが残念です。スギは、軽くて強度があり、しなりもあり、建物の構造材として優秀な木材です。しかし、戦後の住宅ブームでは外材が大量に輸入され、十分に使われないまま放置されたスギ林が、花粉を飛ばし続けることになってしまいました」
「スギ花粉の飛散が多くなるのは植えてから20年生以降、その時点で伐って使い始めるようにすれば、花粉症の問題は起こらない。本来は“植える→育てる→使う”という循環が正しく回っていれば防げたことなんです」
高崎さんは広い視座で長年スギ材を積極的に利用してきました。そして、今回の花粉症対策木材利用促進事業も、その循環を取り戻すための大切な一歩です。
スギの柱が「ぎっしり」並ぶ構造へのこだわり
2階にもスギの柱が密に並ぶ
現場で目を引くのは、柱の本数。通常なら1間(約1.8m)間隔で配置するような場所でその間にも柱があり、社長曰く「これ以上は入れられない」というほど構造材が並んでいます。
「住宅の耐久性は“柱の総断面積”で決まると考えています。だから、間柱ではなく、柱そのものを増やす設計をしているんです。柱を太くする方法もありますが、流通との兼ね合いを考えると3寸5分(105mm角)〜4寸(120mm角)の柱が現実的です」
柱は無垢のスギ、土台はヒノキ。大スパンが必要な梁には国産集成材やドライ・ビーム(ベイマツ)も使いますが、基本は国産無垢材を中心に構成。品質の安定したJAS製品を採用することで強度を担保しています。また、金物工法に全面依存せず、在来に近い工法を守っている点も特徴です。
「金物工法はつくり手側の効率化のために生まれた方法で、必ずしも施主側のメリットを第一にした技術ではないと思っています。1400年前に建てられた法隆寺も、木を木で組む構造。長い目で見て安心感がありますね」
高崎さんの会社では現在、通し柱(建物の土台から軒までを一本で通る柱)は4寸(120mm角)、それ以外の管柱は3寸5分(105mm角)の柱が標準。しかし近い将来このスタイルを変えなければいけなくなるかもしれない、といいます。
「山のスギの木が、利用されないまま大きく育ち過ぎているので、3寸5分より4寸の柱材が多く出回ることになるでしょう。太い柱を使えばその分部屋が狭くなるので、設計をメーターモジュールに切り替えたりする工夫が、必要になってくるかもしれませんね」
山の事情が、住宅の設計にまで影響を及ぼす。高崎さんはそう考えています。
木材同士の結合部には、伝統的な木組みを採用
「美味しいご飯が食べられる家」に込めた意味
国産材住宅ラベルの取得で、CO2を削減が見える化できた
同社のキャッチコピーは、「美味しいゴハンが食べられる家」です。これは、単なる表現ではありません。
「ストレスの少ない家で暮らすことが、結果として食事も美味しく楽しむことができる余裕につながるんです。構造の安心、温熱環境の快適さ、光熱費の不安の少なさ、そうした“見えないストレス”を減らすことが大事だと思っています」
国産のスギを柱に多用した伝統的な木組みによる家づくりは、一見先進性に反するように見えますが、実際には最先端の温熱性能を有する家づくりがなされています。今回の現場も、高断熱・高気密のGXグレードで、従来のZEH(ゼロエネルギーハウス)よりもさらに厳しい基準。トリプルサッシ、付加断熱、第1種熱交換換気、基礎断熱+床下空調などを組み合わせ、山形の寒暖差にも対応できる室内環境を実現しています。
こうした省エネ性に加え、今回初めて「国産材住宅ラベル」(スギなどの国産木材をどれだけ活用しているかを「見える化」するための表示制度)を取得し、どれだけ国産材を使ってCO2を削減できたかを、数値で示せるようになりました。
「これまでも『国産材を使っています』とは伝えていましたが、具体的に何本使っているのか、どれくらいCO₂を固定しているのか数値で説明できていませんでした。今回の事業やラベル制度のおかげで、お客様により分かりやすく伝えられるようになりました。創業以来の実績を遡って算出すれば、当社が累計で何トンのCO₂を削減してきたかも見えるようになります」
この“見える化”は、地域工務店の取り組みを社会に示す大きな力になります。
日本のスギを、次の世代へつなぐために
合板も山形県産材を使用したものを採用している
「日本人は昔からスギを建材として大切に使ってきました。扱いやすく、20年ほどで再び使える“循環する木”だからです。日本固有のスギは、本来、日本人固有の特権として利用できる大切な資源なのに、その価値が十分に伝わっていないのが残念です」
「外材のほうが安い、強いといったイメージが広がり、日本のスギの本当の良さが見えなくなってしまった面もあると思います。今回の花粉症対策木材利用促進事業をきっかけに、『日本の家は、日本の木で建てる』という当たり前の感覚が広がってほしいですね」
静かな現場に立つスギの柱の列は、これから長い年月、この家に暮らす家族を支えていく骨組みです。同時に、山で育ったスギが、花粉症対策や森林環境の改善というかたちで私たちの暮らしとつながっている象徴でもあります。国産スギ材を選ぶことは、自分たちの暮らしと日本の森の未来を同時に選ぶことなのです。