人口500人の関東でいちばん小さい村の構造材から内装、外壁までスギをふんだんに使った村営住宅丹波山(たばやま)村は山梨県の北東部に位置し、東京都奥多摩町、埼玉県秩父市に隣接しています。多摩川の源流「丹波川(たばがわ)」が流れる、雲取山、飛龍山、大菩薩嶺など険しい山々に囲まれた山あいの村です。人口は約500人。離島を除く関東圏でいちばん小さな村と言われています。丹波山村では、2025年1月に3棟の高性能な木造村営住宅が新築されました。施工を担当した天野保建築株式会社の天野洋平さんと丹波山村 地域創造課の矢嶋澄香さんのお二人に丹波山村役場でお話を伺いました。 目次 定住促進住宅として高性能な木造住宅を建設人手が足りない山間地で高性能木造住宅を建てるには…建物のほとんどの部分に国産スギ材を使用県産スギ赤身材を鎧張りにしたモダンな印象の外壁住む人がほっとできる空間に公共建設こそ国産スギ材を使うべき
定住促進住宅として高性能な木造住宅を建設 新設された3棟の2階建ての村営定住促進住宅 「丹波山村の人口は、今現在で489人ですが、そのうちの約2割がここ10年くらいに移住されてきた方たちです。村では30年前から人口減少対策として移住促進に取り組んでいて、その成果が出てきているといえます。 丹波山に移住したいというご相談も多くいただいていますが、住宅のストックがとても少ないのが現状です。空き家はあるのですが断熱性や耐震性に問題があるものも多く、村では村営住宅の整備を続けてきています。 今回、取材していただいた木造住宅は、都市からの移住を目的に国の交付金を活用しながら建てたものです。しかし、丹波山村の中には工務店がありません。また、交付金を使った事業は、工期にも制約があります。そういった課題をクリアできる案をプロポーザル形式でご提案いただくことにし、木造大型パネル工法により構造的なものは他所でつくってハーフ住宅として設置し、県内の施工会社さんに内装や外装の工事をしていただく案を採用させていただきました」(矢嶋さん) 移住推進を担当している矢嶋澄香さん
人手が足りない山間地で高性能木造住宅を建てるには… 人の目に触れやすい面の窓は小さくしてあります この村営住宅は、木造大型パネル工法のハーフ住宅という手法を用いて設計をサトウ工務店(新潟)、現地での施工を天野保建築(山梨)が担当しました。 木造大型パネル工法というのは構造材、壁、床、屋根などを一体化したパネルとして事前に工場で製造し、現場でクレーンをつかって短時間で組み上げる新しい木造建築工法のことです。ハーフ住宅というのは、構造躯体や水回りだけのスケルトンの状態で建物を納品し、内装などのインフィルは建てた後に現場で仕上げていく木造大型パネル工法の施工方法のひとつです。 「夏は涼しいですが、冬は寒さが厳しく積雪もある丹波山村で快適に暮らすには、高性能な住宅が必要です。寒冷地なので3重ガラスの窓サッシを採用していますが、これはかなり重量があり現場で組み込むのは大変です。しかし木造大型パネル工法なら工場で断熱材やサッシを組み込んでおけるので現場作業を軽減し、工期も短縮化することができました。工期を短縮するには、普通は現場の人数を増やしますが、山間地では人手を集めるのが困難です。そこで人手のかかる作業を環境の整った工場で仕上げ、現場では最低必要な人数で作業を行うことで課題を解決し工期も短縮することができました。耐震等級3、建物全体の断熱性能はUA値0.24、断熱等級6という高性能を実現できたのも環境の整った工場で木造大型パネルを製造できたからだと思います」(天野さん) ※耐震等級:地震に対する住宅の強度を示す指標。1~3の3段階で示される。等級の数字が大きいほど頑丈。 ※UA値と断熱等級:どちらも住宅の中の熱の逃げにくさを示す。UA値は小さい方が高性能。断熱等級は7段階で示され数字が大きいほど高性能。 天野保建築の天野洋平さん
建物のほとんどの部分に国産スギ材を使用 スギの美しい色合いに包まれたLDK(写真提供:天野保建築) 「1棟の床面積は66.25㎡(20.04坪)です。構造材は一部の柱材にヒノキをつかっていますが、あとはすべてスギJAS構造材です。内装の造作材もほとんどがスギ材をつかっています。内装は構造材を現しにしているので木の温もりを存分に味わっていただけると思います。屋根はガルバリウム鋼板で太陽光パネルを搭載。建物自体の断熱性能の高さも相まって、光熱費を大幅に抑えることができる省エネ住宅になっています。 間取りは1階にリビング・ダイニング・キッチンとトイレ、洗面所、収納スペースがあります。テーブルとして利用できるシンプルな造作家具も備えました。窓はお隣に面する側は小さく、そうでない側は大きくとり、プライバシーに配慮しながら室内に十分に光を採り込むことができます。 2階にはメインの寝室、浴室と予備室を設けています。予備室は中央をカーテンなどで仕切れば2つの子供部屋などとして使えます。壁は天然素材からつくられた吸湿効果のあるモイスNTという壁材、床は国産スギの3層パネルです。退去時に壁のクロスや床材の貼り替えをする必要がなく、光熱費も低く抑え、住む人にご負担をかけない住宅をめざしました」(天野さん) ガラス扉から自然光が入る玄関口 (写真提供:天野保建築) 大きな窓がある広々としたLDK (写真提供:天野保建築) 収納スペースも各所に設置 (写真提供:天野保建築) 2階には寝室やレイアウトフリーの予備室 (写真提供:天野保建築) 構造現しの天井は木の温もりを感じる (写真提供:天野保建築)
県産スギ赤身材を鎧張りにしたモダンな印象の外壁 スギ赤身板材は木材防護保持剤で処理、塗装はしていません 「外壁は、山梨県産の一般流通サイズのスギ板を鎧張りにしました。白太の部分は腐朽しやすいのでスギの中心部の赤身の部分の板だけを使っています。壁板は、天然成分でつくられたウッドロングエコという木材防護保持剤にドブ漬けしています。1次製材を済ませた荒木の状態のまま漬け込むことで、木材防護保持剤が板の内部までよく浸透するようにしています。基本的にメンテナンスフリーですが、万一が傷んでも、一般流通サイズの板なので補修は簡単です。落ち着いた色合いで周囲の風景に馴染むようにしました。 玄関前には小さなウッドデッキを設けています。デッキ材は屋久島地杉※です。油分が多く、高い耐久性、耐候性、強度があるので特に防腐処理等はしていません。外壁の山梨県産のスギと同じスギでもまた違った風合いがあります」(天野さん) ※世界自然遺産の屋久島で植林された樹齢30〜60年程度の屋久島由来の杉。 玄関前には小さなウッドデッキを設置
住む人がほっとできる空間に 玄関口からLDKを眺める(写真提供:天野保建築) この村営住宅の3棟のうち1棟は「お試し住宅」として丹波山村への移住を検討されている方が一時的に利用できる住宅になっています。あとの2棟にはそれぞれ親子山村留学制度などで移住された方が入居しています。 「昨年の1月に建物ができあがって、4月にはすべての部屋が埋まりました。丹波山村は30年以上前から親子山村留学に取り組んでいます。小学校1年生から中学校3年生までのお子様とその家族が対象で、丹波山村に住民票を移して暮らしながら小中学校に通っていただきます。受入は毎年4月で、1年ごとに契約を更新します。 私は地元出身なのですが、丹波山村は長年、移住者をお迎えしてきているので外部の人たちに対してオープンで閉塞感はない土地柄です。それでも、厳しい冬の寒さをはじめ、異なる気候や文化の中で暮らすのは、慣れるまでご苦労も伴うため、移住を検討されている方にとって家は、ほっとできる場所であってほしいと思っています。冬も夏も快適に過ごせる断熱性能や木の香りがする室内が、新生活によって緊張した気持ちを癒してくれるはずです」(矢嶋さん) 矢嶋さんは丹波山村のご出身
公共建設こそ国産スギ材を使うべき 村営住宅は村の集落の中にあります 普段も木の家づくりをされている天野さんにスギの家の良さをお聞きしました。 「私は主に木造住宅の設計施工を専門にやっています。自分自身、木が好きで、木がいいと思っているので木の家をご提案しています。スギの良さはいろいろありますが、私がいちばんいいと思うのはスギの香りと柔らかさですね。とくに手触り足触りがとてもいいと思います。 その反面、傷が付きやすいということはありますが小さな傷ならスチームアイロンを当てると木がふやけて目立たなくなります。何よりもスギは日本全国どこにでもある手に入れやすい木材です。加工もしやすいしコストパフォーマンスのいい木材だと思います。 今回は、大型パネル工法のハーフ住宅という手法で公共建築物である村営住宅をたくさんのスギ材を使って建てることができました。公共の建物だからこそ日本にたくさんあるスギをもっともっと使っていくべきだと思います」(天野さん) 丹波山村村営住宅は、大工さんがいなくなった山あいの村でも、新しい木造建築工法等を駆使することで、スギ材をふんだんに使った高性能な木造住宅を限られた予算や時間の中で建てることができることを実証しています。この定住促進住宅の木の温もりのある暮らしをたくさんの人に体験していただければいいなと思います。 飾らず、強く、美しい木の家づくりをモットーとしている天野さん
Story 人口500人の関東でいちばん小さい村の構造材から内装、外壁までスギをふんだんに使った村営住宅 中庭に開くスギの家――タイムレスな素材が第二の人生を彩る 木に魅了された施主とデザイナーが共同設計したウッドフェンス 高知の山間に現れた、自然風景に溶け込む広大なウッドデッキ おすすめ記事 古くて新しい?国産木材をふんだんに活用できるCLTログハウス構法で建てた「上滝(かみだき)こどものもり」 長野県産スギ材で建てた、住み心地のいい木造住宅 カテゴリー SDGs エクステリア 木の家 木の街づくり タグ ウッドデッキ ウッドフェンス オフィスビル グランピング 開発秘話 学校・保育園 古民家 公園 公共スペース 雑誌掲載 対談 木の家具 木の雑貨 木の中高層建築物 木造住宅 遊具 JAS構造材 エリア 全国 北海道・東北地方 関東地方 中部地方 近畿地方 中国地方 四国地方 九州地方