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- 木の街づくりTALK「都市(まち)の木造化推進法の目的と今後の展開」(前編)
脱炭素社会の実現を目指して
法改正で木材利用をさらに促進!
木の街づくりTALK ~都市の木造化推進法の目的と今後の展開(前編)~公共建築物の木材利用促進を目指した『
公共建築物等における木材の利用の促進に関する法律』が制定され約10年が経ちました。その間、さまざまな技術革新や建築基準の合理化などにより木材利用の可能性は大きく広がっています。そして2021年6月に木材利用促進の対象を公共建築物から民間建築物を含めた建築物一般に拡大するための法改正が行われ『
脱炭素社会の実現に資する等のための建築物等における木材の利用の促進に関する法律』(
都市の木造化推進法)が10月1日に施行されました。今回は木の街づくりTALKと題して日建設計 Nikken Wood Labの大庭拓也さんをゲストにお招きし、林野庁木材利用課の櫻井知さん(オンラインで参加)と井上源太さんの3人で法改正の狙いや今後の展開について意見交換をしました。
2021年10月の法改正の背景と目的
(櫻井)
今回の法改正の目的は、建築物での木材利用をさらに進めていこうということです。なぜ建築物の木材利用を進めたいのかといいますと、一つ目の理由が日本の森林資源の状況です。日本は世界有数の森林国で、国土の3分の2が森林で、その4割に当たる約1,000万ヘクタールの人工林があります。その人工林の多くは、戦後に植林し50年以上かけて育ててきたもので、今まさに使い時を迎えています。
なぜ建築物なのかというと、一番の需要先が建築用材ということもありますが、パルプやチップに比べると建築用材は取引価格が比較的高く、森林所有者に利益を還元し、伐った後に植林にもつなげることを期待しているからです。
オンラインで参加の林野庁木材利用課の櫻井さん
脱炭素社会の実現
(櫻井)
二つ目の理由は、今回改正された法律の名前にも入っている“脱炭素社会の実現”です。政府は2020年10月に、2050年までに温室効果ガスの排出をゼロにする『カーボンニュートラル宣言』を発表しています。森林は二酸化炭素を吸収し、光合成を行うことで木の中に炭素を固定します。街の中に木の建築が増えることは、都市が第二の森林になり、都市に炭素を貯蔵できるということです。資材製造時のことを考えても、鉄やコンクリートと比べて木材は製造時のエネルギーが少なく、木材利用は地球温暖化対策や脱炭素社会の実現に大きな役割を果たすと考えています。
SDGsと森林、木材の関係
(櫻井)
森林は水源涵養や国土保全、生物多様性など様々な機能を持っていて、森林が存在すること自体で様々なSDGsに貢献していますが、木材として利用することでさらに多くのSDGsに貢献することができます。また、地方における林業や木材産業は、地域経済に直結しているので、林業や木材産業が活発になれば地域の活性化にもつながります。SDGsの目標の一つに「パートナーシップで目標を達成しよう」がありますが、木材は様々な人の手を経て利用されるのでパートナーシップを生み出すという面でも、他の資材に比べて可能性を持っているのではないかと思っています。
ビジネス面でも、設計の工夫によってはコストを抑えることができたり、工期を短縮できたりという効果もあります。また心身への良い影響もみられ、学校や保育園などを木造・木質化することで、子どもがリラックスできて、ストレスが少ない生活を送ることができます。
林野庁では、木質化することでその空間の付加価値が高まり、施設への来客数が増え、滞在時間が延びるとか、オフィス空間をより快適にして働く人の生産性が高まるなど、実証事業を通じて効果の数値化を試みています。
林野庁の関連ページ
https://www.rinya.maff.go.jp/j/riyou/kidukai/zirei_sankou/wcn_wg_seika.html
設計者が感じる木材の良さとは
写真提供:Nikken Wood Lab/昭和学院小学校ウエスト館
(大庭)
日建設計は、大きなビル等を設計する会社ですが、僕が今所属しているNikken Wood Labという組織ができたことが、社会の方向性を示していると思います。最近になってクライアントの皆様がSDGsを体現する建物をつくりたいと思い始めています。ESG投資やカーボンニュートラルを達成するには、木材活用が大切だと気づき、クライアント様の方から木造建築で検討して欲しいというケースが多くなってきています。
設計をやっていると感じる木の良さはたくさんあります。鉄やコンクリートと比べて木は軽いので、基礎への影響が小さく、うまく使えば建設コストを削減できるし、工期も短縮することもできます。外装材や内装材に関しても、木には断熱効果や遮音効果があって熱や音に対して効果的であることは科学的に証明されています。
鉄筋コンクリート造の建築現場に行くとひんやりしていて寒いですが、木の工事現場に行くとそんなことはなく、木が熱環境上優れていることがよくわかります。木の香りにも癒されます。クライアント様も現場に来ると、木って良いな!と感じていいただけます。先日、私たちが設計した木造の小学校でも、子どもたちが自然に木を触る振舞いが生まれ、木の建築の可能性は大きいと思います。
また建物を木にしたいという相談が増えている一方で、木は、まだ中大規模の建築物にあまり使われていないので、社内のプロジェクトチームから防火や耐火について相談を受けることも多くなっています。まずは、社内に木の知識を広げてコンクリートや鉄と比較検討できるようにしていきたいですね。木を利用することが当たり前になる文化をNikken Wood Labとして育てていきたいです。
日建設計 NIKKEN WOOD LABの大庭さん
今回の法改正の主な内容
協定のイメージ(出典:林野庁)
(櫻井)
今回の法改正の主な内容は、今まで公共建築物で木材利用を進めようとしていたのを、今後は建築物全般で進めていこう!というのが大きな変更点です。そのために政府の体制を整備し、農林水産省の特別の機関として『木材利用促進本部』ができました。農林水産大臣が本部長で、総務大臣、文部科学大臣、経済産業大臣、国土交通大臣、環境大臣が本部員です。その本部のもとで、関係省が一丸となって木材の利用促進に取り組んでいきます。
それから、もう一つの大きな柱として民間の木材利用を進めるために新しい協定制度ができました。事業者等が、今後、何年間で木材をこれだけ使いますといった構想を立てた際、その構想を後押しするため、国や地方公共団体と協定を結ぶことができます。とても緩やかな制度なので、いろいろなアレンジの仕方が可能です。事業者と国、地方公共団体の二者協定だけでなく、大庭さんのように設計で関わっている会社や木材を供給する会社なども一緒に加わっていただき協定を結ぶこともできます。そうすることでお互い信頼関係を深めて、木材利用に取り組むことができます。木材を供給する側には、何年かスパンでの事業量の見通しが立ち、木材を使う側にとっては安定的な木材調達が期待できます。まだ出来たばかりの制度ですので、大庭さんにも、この協定の効果的な活用方法について、何かアイディアがあればお聞かせいただきたいです。
木材利用にはサプライチェーンが重要
(大庭)
木材産業はサプライチェーンがとても大事だと思います。単純に“木を使えばいい”という問題ではありません。その先にある産地とか生産者を理解し、設計しないとだめだということを設計者は肝に銘じておく必要があります。
先日、Nikken Wood Labで川上から川下まで木材流通のネットワーキングを、オープンプラットフォームで構築し、それを様々な方とシェアして適正な木材利用を進めていこうというプランが決まりました。どこまで川上側にコミットできるかわかりませんし、設計の領域を超えた取り組みではあるのですが、そういったネットワークとか協定に積極的に取り組んでいかないと木材の本来的な価値につながっていかないのではないかと思っています。
(櫻井)
今回の法改正では、木材利用の促進にあたっての基本理念が新しく規定されています。そこにも、ただ木を使えばいいということではなくて、その木材利用が地球温暖化防止や森林整備の促進、森林の多面的機能の発揮、山村の振興につながるかということを意識して取り組まなければならないと明記されています。