願いは、思いやりのある人に育つこと国産材を使って木質化した認定こども園西若宮こども園は、大阪府東大阪市にある認定こども園。開園したのは昭和56年(1981年)で園舎が老朽化してきたため2020年に鉄筋コンクリート造で建て替え、その際に床や腰壁を国産材で木質化しました。木をつかった園舎が長年の夢だったという園長の久松幸生さんと、設計・施工を担当した大幸綜合建設株式会社の表 孝典氏にお話をお伺いしました。 目次 木の“やさしさ”と“ぬくもり”を肌で感じられる床と腰壁に吉野産のヒノキとスギを使用木に囲まれていると気持ちが穏やかに床材に節がある材を使ったその理由は?木はもの言わぬ教師、木から学べるものは大きい 360°パノラマビューで見る
木の“やさしさ”と“ぬくもり”を肌で感じられる 木材独特のやさしい雰囲気があふれる玄関ホール 園長の久松さんは、以前から子どもたちに木を使った園舎で学び、遊んでほしいと思っていたそうです。 「私たちの園は、生命尊重の保育をめざしています。どういうことかというと思いやりのある人になってほしいということです。相手の気持ちを思いやるというのは、相手の命を肌で感じられるということ。ですから、やさしい命を感じる木材が、子どもたちの身近にあったらいいなと思っていました」。 「木材は、もともと生きていた樹木。触れたときにコンクリートとは違う命のやさしさ、ぬくもりを感じます。そのことを子どもたちに頭で理解させるのは難しくても、肌で感じさせることはできます。子どもたちが大きくなったときに、あの木の床の感触って心地よかったなと思いだしてくれたら、とてもうれしいです」と木質化の狙いを話してくださいました。 西若宮こども園の園長、久松幸生さん
床と腰壁に吉野産のヒノキとスギを使用 入園式・卒園式も行われる遊戯室 設計・施工を担当した表氏は「構造は鉄筋コンクリート3階建てですが、内装仕上げにできるだけ木を使っています。木を使っているのは各保育室や遊戯室、エントランスの床、腰壁などです。床は吉野産のヒノキ材、腰壁は吉野産のスギ材を使っています。また、外回りではウッドデッキの手すりにも木材を使いました。それと園庭には園長先生からのご要望で構造にスギ丸太を使ったブランコを設置しています」。 また、大量の木材を調達するにはご苦労も多かったようです。「これだけのボリュームがあるので、一つの産地から調達するのが大変でした。幸い、奈良・吉野の製材所さんと以前からお付き合いがあったので、何とか工期に間に合わせて集めることができました。施工時も現場に木材を置いておく場所が少ないので、工事の進捗に合わせて何回かに分けて搬入するように細かい工程を組みました」と話します。 大幸綜合建設の代表取締役社長・一級建築士、表 孝典氏
木に囲まれていると気持ちが穏やかに 天井に空と雲が描かれた2歳児保育室 久松さんに木質化をして周囲からどのような声があがったかをお聞きしました。「足を踏み入れたとき床が暖かい感じがします、という感想は様々な方からお聞きしました。子どもたちも、床に寝そべっているのをよく見かけます。いちばん顕著だったのは先生たちの反応です。木の床や壁に囲まれて、以前よりも少し穏やかになったような気がします。とてもいい雰囲気です。これも木の床や壁にした効果なのかなと思っています」。 さらに「木は、傷が付きやすいという意見もありますが、私たちが気を付けてちゃんと手入れをしていけばいい。コンクリートだとそうはいかない。木は手をかけてあげれば、それに応えてくれます。そんなことを子どもたちが気づいてくれるといいなと思います」と木の魅力を語ってくれました。 あたかい雰囲気をもたらすスギ板の壁
床材に節がある材を使ったその理由は? 保育室、遊戯室の床は節がある材を使用 設計をしたときに配慮したことを表氏にお聞きしました。「弊社では、住宅も自然素材にこだわった設計をしています。今回、子どもたちが学び、育つ施設ということで、五感に訴えることに気を遣いました。塗装も安全性を配慮して自然塗料を使っていますし、腰壁の上は漆喰塗りにしています」と説明してくれました。さらに「床はヒノキ材を使っていますが、エントランスなどの共用部は節がない板を使い、保育室や遊戯室など子どもたちが常に触れる場所は、あえて節がある板を使っています」。 その理由は、とお聞きすると「一枚一枚の板が、工業製品のように同じものではなく、個性があって表情が違うことを子どもたちに感じとってもらいたいと考えたからです。節がある材は、乾燥によって節が抜け落ちて板に穴があいてしまうことがあるので、あいた穴には埋め木をして補修しています。子どもたちがそれを見つけてこれ何だろう?と思ってくれるのも教育の一環になるかと思っています」。 トイレの床にもヒノキ材を使用
木はもの言わぬ教師、木から学べるものは大きい 木の床でのびのびと遊ぶ子どもたち 久松さんは「木は傷がつきやすいというお話をしましたが、これはデメリットかもしれませんが、教育的に捉えるとメリットもあります。乱暴に扱うと傷ついてしまう弱いものに対して、どう接したらいいかが学べます。これは人間関係においても同じことです。大人が口で説明するより、木に触れる実体験の方が学べるものが大きいのではないでしょうか」。 「私たちがやっていることは、子どもたちが大人になったときにどんな花を咲かせられるか、ということです。結果はどうなるかわかりませんが、私は大きく美しい花を咲かせてほしいと思って子どもたちに接しています。木の園舎は、そのために必要な大切な体験をたくさん子どもたちに与えてくれると思います。子どもたちにとって、この木の園舎は、いちばんの先生かもしれません」と締めくくってくださいました。
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