落ち葉を堆肥に変える「コンポストの塀」と伝統構法を活かした組立て式「薪の棚」一見、シンプルでモダンな印象の木の塀。実は落ち葉や草を堆肥に加工する機能をもったコンポストの塀なんです。この塀のある「のぼの職人村」には、この他にも伝統構法の技を活かした薪の棚が設置されています。アイデア満載の塀と棚を企画した「のぼの職人村」の亀井俊博さんと造家工房・亀井の設計士 森下未沙紀氏にお話を伺いました。
手に技を持った職人たちが集まる「のぼの職人村」 造家工房の他にカフェ、パン屋も名を連ねる「のぼの職人村」 「のぼの職人村」は、平成29年に亀井さんが、大工や職人たちが集まり助け合って楽しく仕事をできる場所を作ろうと考え設立しました。ベテランが若手と一緒に仕事をすることでの技術や知識を次の世代に伝承することも目的の一つです。 現在、敷地内には伝統構法による家づくりを得意とする工務店の社屋・作業場の他にパティシエがいるカフェ「kumu」とパン職人がいるパン焼き小屋「土の香」が軒を連ねています。来年は家具づくりの職人も参加するそうです。 また、地域の人たちとの繋がりを大切に考えていて「家守りよろず相談」や「防災に役立つ釜戸づくり」ワークショップなど様々な活動を繰り広げ、地域の住民たちが気軽に立ち寄れる場所となっています。 敷地と隣接する畑の境にコンポストの塀が設置されている
落ち葉の処理に困りコンポストの塀を考案 落ち葉は板と板の間に入れ、土を混ぜておけば堆肥になる 「コンポストの塀をつくろうと思ったのは、敷地の植栽に広葉樹が多くて秋になると落ち葉が積り、また夏は雑草が伸びてきて、落ち葉や草の処理に困ったからなんです」と話す亀井さん。 以前、造園家の方が塀の板と板の間に落ち葉を入れ堆肥づくりをしていると話していたのを思い出し、大工の技術を活かして、見た目も使い勝手もいいコンポストの塀をつくろうと思いついたそうです。 「大工が作るのだから、シンプルで使いやすいものにしよう」と設計士の森下氏と話し合いを重ね、H鋼を支柱にして、厚さ30㎜のスギの足場材を5枚ずつ落とし込み、中央に間柱を入れ、両側の板を抑え込む構造を考案しました。 アイデア満載の塀と棚を企画した「のぼの職人村」の亀井さん
手に入りやすい材を使ったシンプルな構造 H鋼と足場板を組み合わせたシンプルな構造 設計を担当した森下氏は「最初は支柱も木にしようと考えていたのですが、耐久性や強度のことを考え規格品のH鋼を使用しました。底盤を設置し、それにH鋼を取り付けた独立基礎としたため少々手間がかかりましたが、塀の高さをきれいに揃えることができました。片側5枚の板で枯れ葉を両側から挟む構造になっています。接地する一番下の板と間柱は、薬剤に漬け防腐処理を施しました。残りの板は木材保護塗料を塗布しています。それと一番下の板は二分割して間柱とビス止めし、簡単に板を外して腐葉土を取り出せるようにしています」。 亀井さんは「H鋼が木の塀のアクセントになって、モダンな見え方になりました。枯れ葉や雑草を始末でき、放っておけば腐葉土ができる一石二鳥の木の塀なんです」と笑顔を見せました。 伝統構法の家づくりも手掛ける設計士の森下未沙紀氏
伝統構法の技法を活かした組立て式の薪の棚 伝統構法の「鼻栓」という技法で固定、木の栓を抜けば分解できる 敷地の中でひときわ目を引くのが薪の棚。「仕事で端材や古材がけっこう出てくるんです。うちでも薪ストーブを床暖房用に使用しているんですが、余った薪を近くの人に持っていってもらおうと思って薪棚を作りました」と亀井さん。 森下氏は「二寸角(6cm角)のヒノキの角材を使っています。角材は“鼻栓(はなぜん)”という伝統構法の技法で固定して、簡単に組み立て・分解ができます。使用しないときは物置などにしまっておくことができるので便利です。屋根は、屋根板の上に防水紙を敷き、その上から杉皮を葺き、割った竹で固定しています。この部分のみ釘を使用しましたが、本体には1本も釘を使っていません」。 亀井さんは「棚に薪を入れてみると、想像していた以上に表情がおもしろく、美しく見えます」と満足そうでした。 企画段階よりもずっといい仕上がりになったと語る亀井さん
大工がつくったシンプルで機能的な木の塀と木の棚を広めたい 薪の断面の表情がおもしろい薪の棚 出来上がった塀と棚は周囲からの評判も上々。 「コンポストの塀を見た方から電話でお問い合わせがありました。今まで始末に困っていた落ち葉や雑草を堆肥として再利用できるのがいいですね。効率よく堆肥をつくるには、後から土も混ぜ込んだ方がいいようです」と亀井さん。森下氏も「カフェにいらっしゃったお客様が薪の棚を見て、あらこれいいわね、って言われたことがあります。設計した身としてはうれしいですね」。 「コンポストの塀の板は足場材を使っているので傷んだらその板だけ交換すればいい。薪の棚も普通の角材を使っている。杉皮も伝統構法の家づくりでは普通に使う素材なので、これも手に入れるのは簡単だ」と亀井さん。見た目が美しく、シンプルな作りでちゃんと機能をもたせたコンポストの塀と薪の棚は、これから商品として販売していくそうです。
Story 落ち葉を堆肥に変える「コンポストの塀」と伝統構法を活かした組立て式「薪の棚」 地元の木で、地元の人たちが建てた木の学校 360° 子どもの力を引き出す保育を支える、無垢の地域材で建てた保育園 木のストローが、木材活用のきっかけや地域の活性化に貢献