床面をDLTデッキにした朝霞たちばな幼稚園の大型木製遊具と木の塀
万全の腐朽対策を施しパネル化により工期も短縮

朝霞たちばな幼稚園は、園児たちが自然とふれあいながら身体を動かし、のびのびと遊ぶことで人間形成をしていくことを保育目標にしています。遊具のデッキ部に使われているDLTは、並べた木材に孔を開けて木ダボを差し込むだけのシンプルな仕組みで製造することができる木質素材です。接合に接着剤を使わないので環境負荷が少なく、製造に大規模な工場設備も必要としません。地域の中小規模の木材業者でも簡単に生産でき、地域材活用に貢献できるのが大きな魅力です。DLTは床・壁・屋根など木の風合いを生かした意匠材、木の素材感を活かしたインテリアなど多彩な用途に活用できます。接合に使う木ダボは、固い広葉樹を使用しますが、DLTの木ダボをつくれる工場が国内になかったため欧州ブナ材のダボを輸入して使用していました。しかし今回は国内生産に取り組み、国内で入手しやすいクリ、ヤマザクラ、ケヤキ、ナラの4樹種で木ダボを試作。外構部材として使用するため、木ダボにも防腐防蟻処理を施し薬剤浸潤試験を行っています。

「AZN乾式加圧注入とAZNA湿式加圧注入の双方で比較しました。さらに基材に打ち込んだ状態での薬剤浸潤試験も実施し、最も数値がよかったヤマザクラ材を採用しました。基材は群馬県産のスギ材なので、100％国産材のDLTとなっています」と坂口さんは話します。

木材利用で外構部材が避けて通れないのが防腐防蟻処理です。使用したDLTデッキパネルは、工場で板材を予め部品、パネル加工し、部材の先行孔等を開けた状態でK4相当の防腐防蟻処理を行っています。さらにDLTデッキパネルや手すり枠をパネル化した状態で防腐防蟻処理の上、木材保護塗料のキシラデコールを塗布し万全を期しています。工場内でパネル化することにより設置現場ではパネルを組み立てるだけでいいので、工期を短縮できるというメリットも生まれます。現場で切断加工をしないので廃棄物も少なく、周辺への騒音なども小さくてすみます。今回の朝霞たちばな幼稚園のDLTデッキ遊具、木塀の設置工事は着工から完成まで1ヵ月ほどで終りました。（土工事、基礎工事を除く）

また、木材を外構で使う際の問題が水の処理です。とくに木材が地面と接する地際には気を遣います。今回の事例ではコンクリート基礎の上にステンレスの支柱金物を採用し、木材と地面が直接触れないよう配慮しています。他にも手すりの笠木の上面に勾配をつけ、雨水が流れ落ちやすくするなど様々な工夫を凝らしています。

「DLTを外構部材として壁面などに使用する事例は増えていますが、今回の狙いはデッキなど水平面で使用することです。通常DLTは木ダボによって基材（木材）との隙間が無い状態になっています。それだと雨水などがデッキ面に滞留して腐朽の原因となりかねません。そこで当社工場の製造担当部門と協議し、基材（木材）の間にスペーサーを入れた状態で木ダボを通し、後からスペーサーを外すことで基材（木材）にデッキ目地をつくり、雨水などが滞留しないようにしました」。

隙間は6mmに設定し、子どもが指を挟まないための安全基準の8mm以下にしています。さらに木裏を上にして使うことで経年による反りが凸になるようにし、水が貯まりにくくしています。木裏を上面に使うことには、もう一つ理由があります。木表が人目に付かないデッキの裏側になるので、丸身材※を使いやすくなり、それによって1本の丸太からとれる材の歩留まりをよくすることができます。通常だと1本の丸太の中心から135角の柱を1本取り、上下左右の辺材から135×70mmのデッキ材を4枚、計5枚の材を取ります。しかし、丸身材を許容することでデッキ材をもう2枚取ることが可能となります。製材の手間は少し増えますが、1本の丸太から生産できる製品数が増え、歩留まりがよくなります。丸太を無駄なく使うことで、製材工場に利益を還元していくことが可能となります。

※丸身材：角に原木の丸みが残っている材

ウッドデッキに上がるには、ボルダリングウォールのような突起がついた2ヵ所のスロープと1カ所の階段を使え、3つの動線で子どもたちが自由に回遊することができます。デッキの高さは、何層かに分けてあり、子どもたちの探検心をくすぐります。デッキから降りるときは滑り台も使えます。

坂口さんは「園からは、全身運動ができる遊具が欲しいとのご要望があったので、子どもたちが身体を伸ばしたり、握力や脚力をつかったり、様々な遊び方ができるような遊具を開発しました。
遊具のテーマは秘密基地で、デッキの下はトンネルのようになっていて、そこも遊び場となっています。中から外を見る窓を設けていて、子どもたちが内と外でコミュニケーションをとりながら、いろいろな遊びができるように設計しています」。

今回は遊具の他にウッドフェンスも設置しています。以前は大人が跨げるぐらいの高さの鉄製の柵が設けてありました。「遊具とのイメージを統一させたかったのと、外部から園庭が丸見えでセキュリティ上の問題もあったので背の高い木の塀をつくることにしました。しかし、ただフラットに作るのでは面白くないというご意見があったので斜めにカットしたり高さを変えたりして変化をつけた意匠にしました。笠木を設けていないので木口に雨水が直接かかるため、そこをどう処理するかが課題でした。多方面の有識者様からご助言をいただき、木材保護塗料として高耐久性・水性の造膜タイプの木材保護塗料を木口に上塗りすることにしました。今後の経過を見てみたいと思っています」と坂口さんは話します。

今後の遊具や木の塀のメンテナンスは、管理維持計画書を共有し、年に２回定期検査を行い、含水率検査、打診検査、クラック検査などを行っていきます。

榎本将一先生は「以前、鉄製の遊具があったのですが、経年劣化のため取り壊しました。代わりにもう少し大きな遊具をつくりたいと考えていた時に長谷萬さんのことを知り、相談をしたところ大型木製遊具のご提案をいただき、とてもいいなと思いました。今までこの園や周辺の公園には木の遊具がなかったので、大きな魅力を感じています。普段の保育の場で、木に触れる機会が少ないので、遊びの中で木に触れて自然を感じ、木や自然を好きになってくれたらいいなと思います。保護者の方からは、園が明るい雰囲気になったというご意見をいただき、園の魅力が増えたと感じています」と話します。

長谷萬の坂口さんは「今回、大型木製遊具と木塀をつくらせていただいて、関係者の皆さまの木に対するイメージが少し変わり、木のファンが増えてくれたことがとてもうれしいです。DLTをデッキ材として活用する手ごたえも得ることができました」。DLTの魅力は製造が簡単なこと。地域の中小規模の木材事業者がDLTを一つの選択肢とすることで“地産地消”の地域材利用を促進することもできると思います。