スギ無垢材を使った屋根構造としては国内最大級規模地域材を活用した大分レゾナック武道スポーツセンターレゾナック武道スポーツセンター※は、2019年4月に完成したスポーツ施設で、多目的競技場と武道場の2つの建物で構成されています。最大スパンが70mもある多目的競技場のトラスアーチ構造の大屋根は無垢材を使用したものでは国内最大級規模のものです。県の担当者の一人として建設に関った大分県土木建築部の伊東幸子さんと木材供給を担当した瀬戸製材株式会社の瀬戸亨一郎さんにお話を伺いました。※大分県立武道スポーツセンター。2023年に愛称が、それまでの昭和電工武道スポーツセンターからレゾナック武道スポーツセンターに変更されました。 目次 スギの一般流通材を使用して約70mの大スパンを実現工期内完成のため木材調達と設計施工の発注を分離JAS相当材にすることで木材を無駄なく利用無垢材でも大規模木造建造物を実現できることを証明この経験が地域の木材業界がレベルアップさせた
スギの一般流通材を使用して約70mの大スパンを実現 多目的競技場の大屋根は、製材を使用した木造架構としては国内最大級 大分市の中心部から車で約30分の丘陵地帯に建つレゾナック武道スポーツセンターは、大小2棟の大屋根を持つ建物で構成された施設です。流れるような優美な曲面で構成された大屋根は、南からの卓越風を受け流すデザインになっています。 70×100mの広さを持つ多目的競技場は、武道競技なら8面同時に競技を行え、バスケットボール、バレーボールなどの様々なスポーツ競技にも利用できます。大屋根の架構は、上弦材・下弦材・束材ともに大分県産スギの平角材(120×240mm)を使用し、上弦材・下弦材は3本をH型に組み合わせた梁で強度を持たせ、この梁を約2.5mの間隔で約40本配置して柱のない大空間を実現しています。 柔道、剣道、空手などの武道専用の武道場は28x100mの広さで3つの道場に分けて使うことも仕切りを取り払って1つにして使用することも可能です。武道場は120×240mmの上弦材、120×180mmの下弦材、105×105mmの束柱をシンプルに組み合わせ木造トラス梁を構成。その梁を約1.8m間隔で約50本連続して並べ奥行き100mの大空間をつくっています。注目すべきことは、使用したすべての木材が一般流通サイズの無垢材であること。木造大空間は集成材でなければ難しいという常識を打ち破った画期的な事例です。 流れるような曲面で構成された屋根が印象的な外観
工期内完成のため木材調達と設計施工の発注を分離 平角材3本をH型に組み合わせた下弦材 当時、県の担当者の一人として建設に関わっていた伊東さんに、当時のお話をお聞きしました。「2015年のプロポーザル発注時点では、木造の可能性について判断がつきかねる中、県産材の活用を課題として掲げるにとどまっていました。しかし基本設計を進めていく中で、設計者から木造にすることも技術的に可能だというご提案があり、木造化の検討に入りました。検討したのは、構造的なことと木材調達、工期、コストに関する4つのポイントでした」。 約70m×100mの柱のない大空間を実現するためにアーチトラス架構を採用し、平角材を3本H型に組み合わせて使用することで構造的には木造化が可能なことがわかりました。しかし、問題は木材調達です。大分県木材協同組合連合会および県で協議を重ね、使用する木材をすべて一般流通サイズに統一すること、県産杉の強度分布に配慮することなど様々な施策を講じることで木材調達の課題をクリアできると結論付けました。また、特殊な金物は使わず市販されているものを使い、その数を減らす等設計上の工夫をすることにより、コストの課題もクリアしています。しかし、自然素材である木は、森林から伐り出し、搬出し、製材、乾燥、プレカットなど施工に使用する木材とするまで1年近い時間がかります。そのため、木材調達と施工の発注を分けて行い、先行して木材を調達することで限られた工期内で完成させる見通しを立てました。 武道場はこの大きさの道場が3つ並ぶ 武道場の大屋根もアーチトラス架構を採用
JAS相当材にすることで木材を無駄なく利用 エントランスの内装には大分県産の竹材を活用 施工者が正式に決まる前に、県が先行して木材調達をするのに際し、どの施工者に決まっても安心して木材を利用していただけるように、木材はすべて寸法、強度、含水率などの品質を担保できるJAS製材 の規格をクリアしたものである必要があると考えられましたが、当時は大分県に平角材のJAS認定工場がなかったため、JAS相当材として調達することにしました。 県は学識経験者や専門家による「木材検討委員会」を設置し、設計用基準強度等の検討のほか木材を含水率と強度(ヤング率)でJAS規格より多い4つのグループに分け、より適材適所で木材を使うことで無駄のない木材活用も実現しました。 そして製材の分野でも、限られた時間の中で高品質の木材を生産するために様々な課題に取り組みました。例えば、今回いちばん多く使用した木材は120×240mmの平角材ですが、木材の断面が大きくなると通常の人工乾燥では中心部まで乾燥させるのに時間がかかります。また、表面と中心部で含水率が違うと後で割れなどが生じる心配があります。そこで高周波・蒸気複合乾燥を採用しました。高周波で木材の中心部を加熱し、従来の蒸気による熱で木材の外側を乾燥させ、中心部と外側を短時間で均一に乾燥させることができます。常識を破る大規模な木造架構を実現するためには、大分県と大分県木材協同組合連合会を中心に、設計者、施工者、製材会社など様々な関係者の綿密な連携と挑戦が必要でした。 大分県土木建築部 施設整備課の伊東さん
無垢材でも大規模木造建造物を実現できることを証明 高周波蒸気複合乾燥機 大分県は県土の約7割が森林で、その中の約半分がスギやヒノキの人工林です。スギの素材生産量は全国第3位※を誇っています。福岡県、熊本県と隣接する日田市は、古くから林業地として名を馳せ、現在でも九州の原木流通の要となっています。レゾナック武道スポーツセンターの木材調達は大分県木材協同組合連合会が中心となり、日田市の瀬戸製材株式会社などに発注しました。 瀬戸製材株式会社は、隣接する関連会社の株式会社日田十条(JAS認証工場)と連携して木材を供給に取り組みました。瀬戸製材株式会社の瀬戸さんは「日田は原木を集めるのには恵まれた土地です。課題は乾燥でした。時間をかければなんとかなりますが、限られた時間内に実現するには工夫が必要です。そこで試行錯誤を繰り返し、普通の住宅用木材ではあまり使わない高周波・蒸気複合乾燥を使って求められる品質の木材を供給することができました」と話します。このときの経験で培ったノウハウは、その後の事業にとても役立っているといいます。「無垢材で大規模な建築物を建てる場合、どうしても断面の大きな木材が必要になります。しかし断面が大きくなると乾燥が難しいというハードルがあり、やはり集成材じゃないと無理だねと言われていたのですが、やり方を工夫すれば無垢材でもできるということを証明できたことになります」。 ※令和2年度版大分県林業統計 JAS構造用製材の機械等級区分による含水率の検査
この経験が地域の木材業界がレベルアップさせた ストックヤードで出荷を待つ平角材 また、トータルで2万本を超える木材の1本1本に対して、JAS製材の機械等級区分と同等の検査を行いました。「うちの従業員たちは、こんなに大量な木材をこの工期で出せるわけないじゃないですか、と思っていたと思います。県が早めに発注してくれたこともあり、なんとか達成できましたが、できてみると同じ従業員がもう少し追加はないの?と言い出しました。こういう大きな仕事を経験すると従業員もこの地域の業界もレベルアップします。これも公共事業の一つの大きな効果だと思います」。 瀬戸さんは、レゾナック武道スポーツセンターは、木をつかうという観点でとてもいい事例になっているといいます。「一般流通材だけで、あれだけのものが建てられたということは我々の大きな自信にもなりますし、世の中の設計者の皆さんへのいい刺激になったのではないかと思います。しかし、ただJAS相当材にしただけでなく、さらにグレード分けをして適材適所にふさわしい強度の木材を用いたことが大きいといいます。「木材は一般消費者が買い求める野菜や果物とは違います。ただJASのシールが貼ってあれば安心!というのではなく、我々木材供給業者や行政、設計者、施工会社など建築に関わる人間がJAS製材の仕組みをもっとよく理解しないといけませんね。JASで木材性能を表示することで、適材適所に木材を振り分けて無駄なく木材を使っていくことができ、無駄なく木材を活用できる。そういう事例を積み重ねながら木造化が進んでいけばいいと思います」。 竣工からすでに5年近く経つレゾナック武道スポーツセンターだが、木材利活用におけるその存在意義は、まだ色褪せずに輝いています。これからの大型木造建築の一つのマイルストーンであることは間違いありません。 瀬戸製材株式会社の瀬戸さん
レゾナック武道スポーツセンター(大分県大分市) https://budo.oita-sportspark.jp/ 瀬戸製材株式会社(大分県日田市) https://setoseizai.com/index.html JAS構造材編Q&A https://love.kinohei.jp/faq_exterior/
Story 外構・外装木質化による新たな木材利用の可能性 地場産スギ材でつなぐ、家族の思いと地域林業の未来 長野県産スギ材で建てた、住み心地のいい木造住宅 鹿児島県産材をふんだんに使った木造施設で地域の未来の生き方を切り拓く小浜ビレッジ おすすめ記事 はじめてのウッドフェンス&ウッドデッキのメンテナンス 木を使うことで、日本の自然と社会が豊かになる。子供たちへのメッセージ カテゴリー SDGs エクステリア 木の家 木の街づくり タグ ウッドデッキ ウッドフェンス オフィスビル グランピング 開発秘話 学校・保育園 古民家 公園 公共スペース 雑誌掲載 対談 木の家具 木の雑貨 木の中高層建築物 木造住宅 遊具 JAS構造材 エリア 全国 北海道・東北地方 関東地方 中部地方 近畿地方 中国地方 四国地方 九州地方