宮崎杉大径木の黒心材の新しい用途を提案・検証する「ひむかブラックシダープロジェクト」「ひむかブラックシダープロジェクト」は、市場では価値が低いとされているスギの黒心材の新しい活用法を提案。さらに、大きくて使いづらいと言われている大径木から、芯去りにして柱や梁を製材することで有効に活用する取り組みです。環境が異なる2ヵ所のこども園に大型外構設備を建設し、長期間にわたり耐候性・耐久性などを検証します。プロジェクトに取り組んでいる堀正製材・建設の堀内義美さんとお二人の園長先生にお話をお聞きしました。 目次 大径木の黒心材を外構に用いる実証実験赤心材と黒心材の違いを科学的に検証大径木を活用した大型外構設備を2ヵ所に建設夏の強い陽射しを和らげる大型パーゴラとデッキ子どもたちの冒険心も満たす空中デッキとサークルベンチ黒心材の外構利用を全国に拡げたい
大径木の黒心材を外構に用いる実証実験 「ひなたほいくえん」の波打つ大きな屋根を持つパーゴラ 一般的にスギは辺材が白く、心材が赤味を帯びた色をしています。白い部分を「白太」、赤い部分を「赤身」、「赤心」などと呼びます。しかし、生育した環境等によって心材が黒っぽい色になることがあり、これらは黒心材と呼ばれています。黒心材は水分が多いため乾燥が難しく、見た目も黒くて色が悪いとされ、建築材としては敬遠されてきました。飫肥杉を起源とする宮崎杉は、黒心が出やすいといわれ、近年は黒心材の大径木も多く出て来てその利用法が求められています。 堀正製材・建設の堀内さんは、「乾燥させるのが大変なら、乾燥を必要としない外構材として活用できないだろうか」と考えました。「雨にさらされる屋外で使うなら、乾燥にこだわる必要はありません。黒心材は水分や樹脂分が多く耐久性があります。乾燥しづらいということは、収縮も遅くなり、干割れや変形も起こりづらいはずです。保存処理をしっかりやれば、黒心材は外構材として利用できるのではないかと思いました」。堀内さんは、黒心材活用の取り組みを「ひむかブラックシダープロジェクト」※と名付け、外構材としての商品化に向けて様々な事前実験を行い、海岸近くと山寄りの、環境が異なる2ヵ所に黒心材を使った外構施設を建築しました。 ※ひむか:古代、宮崎県は日向国(ひゅうがのくに)と呼ばれ、日向は「ひむか」とも読まれる。 ※ブラックシダー:スギ黒心材を指す造語。杉は英語で ジャパニーズシダーと言うので、黒っぽいスギ材と いうことから堀製材・建設さんがプロジェクト名にしています。 スギの黒心 スギの赤心
赤心材と黒心材の違いを科学的に検証 「三名こども園」の空中デッキとサークルベンチ このプロジェクトを始めるにあたり堀内さんは、宮崎県木材利用技術センターと協力してスギの赤心材、黒心材の加圧注入処理における薬剤の含浸率を調べる「湿潤度測定試験」、強度を調べる「小試験体強度試験」、「動的ヤング係数測定試験」、さらに木材腐朽性を調べる「木材腐朽測定試験」を行いました。その結果、含浸率と強度は赤心材も黒心材もほとんど同じような数値になりましたが、木材腐朽測定試験では大きな違いが見られました。 木材腐朽測定試験では、何も処理していない白太材、赤心材、黒心材とK4相当の薬剤加圧注入をした赤心材、黒心材、高温熱処理(サーモウッド処理)を施した赤心材、黒心材の7種類を試験体としてJIS規格で指定されているオオウズラダケによる腐朽測定試験を行いました。その結果、無処理材では白太と赤心、黒心に大きな差が現れ、黒心材は白太材や赤心材よりも耐腐朽性に優れていることが確認できました。また、K4相当の加圧注入処理と高温熱処理を施した赤心材と黒心材では顕著な差は出ませんでしたが、比較すると黒心材の方が腐朽しづらいことがわかりました。 「黒心材は赤心材に比べて腐朽に強いことはわかりましたが、同じ木からとった試験体でも腐朽具合にばらつきが見られたため、黒心材といえどもK4相当の薬剤加圧注入処理や高温熱処理を施した上で外構に使用するのがよいと確信しました」。 ※割角材:芯去り材のこと。芯を持たない角材。 「三名こども園」の空中デッキのデッキを支える太い梁
大径木を活用した大型外構設備を2ヵ所に建設 「ひなたほいくえん」のパーゴラの太い柱 「ひなたほいくえん」と「三名こども園」の園庭に建てられた外構設備は、構造材に黒心材の大径木から、芯去りにして製材した柱や梁を使用しています。柱は黒心材と赤心材の両方を用意し、交互に配列して時間経過による劣化の違いを見られるようにしています。いずれもK4相当の薬剤加圧注入処理をした上で表面保護のための自然塗料を塗り、防腐防蟻対策は万全です。地際は根巻コンクリートにして頑丈な造りとし、土壌と木材が接することを避けています。デッキ等につかう板材は寸法安定性のいい高温熱処理加工にし、黒心材と赤心材を交互に組み合わせて使用しています。 木材は、断熱性が高いため、夏は暑くなり過ぎず、冬は冷たくなり過ぎないという利点があります。とくにスギ材は感触が柔らかく、子どもたちが遊ぶ施設に適しています。いま日本各地の森林は伐期を迎え、直径30cm、50cmを超える大径木がたくさん産出されるようになりました。しかし、市場では、大径材は使い道がないとされて敬遠され、大きな問題になっています。このプロジェクトでは、黒心材の大径木から太い柱や梁材、板材をとり、時間のかかる乾燥工程を経ずにプレカット加工し、薬剤加圧注入や高温熱処理をして施工するので、時間やコストを削減できるのも大きな魅力となっています。 冬でもはだしで遊ぶ「ひなたほいくえん」の園児たち
夏の強い陽射しを和らげる大型パーゴラとデッキ 宮崎市芳士の「ひなたほいくえん」は、海から3kmほどのところに立地し、0歳時から就学前の5歳児まで6クラス、約120名の子どもたちを預かっています※。園長先生の石本由美子さんは、「ここは海から近く、夏は陽射しがとても強いので園庭に日陰をつくれたらいいなと思っていました。そんなときにパーゴラとデッキのご提案をいただきました」と話します。 「ひなたほいくえん」に設置したのは、波打つようなフォルムの屋根が特徴的なパーゴラとその下に設置されたウッドデッキ、園舎とウッドデッキをつなぐ階段部分のウッドカバーです。パーゴラの柱は210×210mm、屋根を支える梁は150×300mmの太い芯去り材です。デッキやウッドカバーは高温熱処理を施した50mm厚の板材を使っています。 「設備が出来上がって、最初に子どもたちがしたのはデッキに寝っ転がることでした、パーゴラの太い柱にぎゅっと抱き付く子もいました。木のやさしさを子どもたちは五感で感じとったようです。今は冬なのでデッキで日向ぼっこしながら絵本を読み聞かせています。夏になったら隙間のあるパーゴラの屋根から木漏れ日が入り、ちょうどいい日陰ができると思います。一年を通じて、保育の中で子どもたちに木の良さを感じさせてあげられます」。 ※「ひなたほいくえんは」、令和2年4月1日に保育所型認定こども園に移行しています。 子どもたちの遊び場になるパーゴラの下のデッキ 堀内さんと園長の石本さん
子どもたちの冒険心も満たす空中デッキとサークルベンチ 宮崎市から少し内陸に入った国富町にある「三名こども園」は、広い園庭にクス、サクラ、メタセコイア、センダンなどの大木があり春夏は緑豊かな環境ですが、冬は九州山脈から強い風が吹き下ろしてくることもあります。この園に設置されたのは、元からある砂場の上を覆う大きな空中デッキと築山の周りを囲むサークルベンチです。 空中デッキの柱は180×180mm、大梁は150×390mm、梁は150×300mm、荷重がかかるデッキ部は強度を重視してK4相当の加圧注入処理をした50mm厚の板を使用しています。サークルベンチは50mm厚の高温熱処理した板を台形カットし円形に並べた構造です。 園長先生の間所あゆみさんにお話をお聞きしました。「子どもたちに、思いっきり身体を動かして遊ばせてあげたいというのが私たちの園の願いです。自然は人工物と違い、いろいろな面を持っているので、そこでの体験は子どもたちにとってとても大切だと思います。木の施設があると子どもの目がいきいきしてきます。サークルベンチは、子どもをお迎えに来た保護者の方が腰かけるためにつくってもらったのですが、子どもたちは遊具のような丸いベンチの上を元気よく走り回っています。空中デッキは桜の木を間近に観ることができるので春が来るのが楽しみです」。 築山を囲む円形の木製ベンチ 堀内さんと間所園長
黒心材の外構利用を全国に拡げたい 黒心、赤芯、白太のサンプル 堀内さんは。環境が異なる2カ所に建設した黒心材と赤心材を併用した外構施設を、長期的に観察し、環境や保存処理の種類の違いによる耐久性の違いを検証していく予定です。価値が低いとされていた黒心材を、防腐処理をしっかり施すことで外構材としての用途を見出し、価値高く利用するこのプロジェクトは、日本中で大きな問題になっている大径木利用促進にも貢献します。 「この実証実験に興味を持って賛同してくれる方がいらっしゃったら、ぜひその地域で黒心材の外構材活用に取り組んでいただければと思います。宮崎ではひむかブラックシダーと名付けましたが、鹿児島なら薩摩ブラックシダー、熊本なら肥後ブラックシダーのように名前を変えると面白いと思います」。 木材業界では黒心材は、見た目が悪いと言われてきました。しかし、今回、こども園の先生や保護者の方々に黒心材、赤心材などを見てもらった上でアンケートをとったところ、黒っぽいから嫌だと言う声はなく、むしろ」かっこいい」とか「丈夫そう」という回答もあったそうです。黒心を嫌っていたのは業界の人間だけなのかもしれせん。「乾燥しにくいのであれば、乾燥が不要な外構で使う」という堀内さんのある種の逆転の発想が、黒心材の大径木の利活用につながっていくことを期待します。 黒心材活用を全国に広げたいと話す堀内さん
令和5年度 外構部の木質化支援事業(企画提案型実証事業) ひむかブラックシダープロジェクト(杉の黒心材を使った外構材の提案、異なる環境での耐候性の比較検証) ひなたほいくえん https://hinata-miyazaki.com/ 三名こども園 https://www.sanmyou.com/
Story 古くて新しい?国産木材をふんだんに活用できるCLTログハウス構法で建てた「上滝(かみだき)こどものもり」 外構・外装木質化による新たな木材利用の可能性 地場産スギ材でつなぐ、家族の思いと地域林業の未来 長野県産スギ材で建てた、住み心地のいい木造住宅 おすすめ記事 はじめてのウッドフェンス&ウッドデッキのメンテナンス 木を使うことで、日本の自然と社会が豊かになる。子供たちへのメッセージ カテゴリー SDGs エクステリア 木の家 木の街づくり タグ ウッドデッキ ウッドフェンス オフィスビル グランピング 開発秘話 学校・保育園 古民家 公園 公共スペース 雑誌掲載 対談 木の家具 木の雑貨 木の中高層建築物 木造住宅 遊具 JAS構造材 エリア 全国 北海道・東北地方 関東地方 中部地方 近畿地方 中国地方 四国地方 九州地方