杉を外に使うーーー杉を外に使うのはチャレンジ?
外に木を使うなんて!
と、ブレーキを踏む人たちがいます。
ボロボロに腐った木を私たちは、確かに外で見かけることがあります。木は腐ります。それは間違いないことです。
でも、日本最古の建築物である法隆寺は木でできています。あれれ?と思いますよね。どうして法隆寺は大丈夫で私たちの身近にある木はだめなのでしょう?法隆寺には特別な良い木が使われているのでしょうか?
木を腐らせるのは細菌です。木材腐朽菌という菌が木材を腐らせます。木材腐朽菌はからからに渇いた環境では生きていけません。しっとりと湿った環境で大繁殖をします。この菌にかかったらどんな良い木でもイチコロです。法隆寺だって本当は腐っちゃうんですよ。
そうです、木にとって避けたいのは湿気。そして、日本は高温多湿で木材腐朽菌の天下です。
とある寺院の門も支える柱の足元が腐ったのでしょう、補修していました。
一方で、高温多湿は樹木の生長にもよい環境。日本は数々の樹木が繁栄しています。
以前に、タクラマカン砂漠の上を飛行機で飛んだことがあって、眼下に広がる荒涼とした風景に愕然としたことがありました。日本がたくさんの森林資源に恵まれているのは神様に感謝しなくてはいけないことなのです。
日本の建築が木で作られたのは身近に豊富な森林資源があったからです。しかし、この木は残念ながら湿気に弱い。本来ならば日本の気候風土に合わない建築材料であるはずの木。そうなんですが、この木を上手に使うことが日本の木の建築文化を培ってきたのです。
法隆寺にあるのは、雨や湿気に対する工夫です。
軒を出して雨になるべくかからないようにすること。腐ったときにすぐに取り替えられるような軸組工法の工夫。
そうした、手入れをして長く使い続ける工夫が法隆寺を代表する日本の建築にはあるのです。そうした工夫や知恵を忘れてはもったいないですよね。
雨のかかる足元は腐りやすいのですが、その部分だけ新しい木と取り替える技術も日本の大工さんが培ってきた木の建物を長く使い続けるための知恵と技術です
街とオフィスとをつなぐ。誰でも座れるベンチ。
会社をリフォームするにあたり、街との調和とつながりをウッドデッキで演出。
日本の社会の近代化に従い、日本独特の文化や手間のかかることは悪いこととして捉えられてきたようなところがあります。
木を外に使うことも賢くない選択と思われるようになってきていませんか?
そんなことはないのです。外に木を使うことは賢くて楽しい選択なのです。
ひとつ事例をご紹介しましょう。
新木場にある材木屋、榎戸材木店さんが事務所をリニューアルするということで改修工事の設計を私どもに依頼されました。
ギャラリーとして使う店内の様子です。国産材の魅力を伝えていきます。
「これはチャレンジです。杉が外で使えないと言われるけれども、本当にそうなのか実験してみるんですよ。」(榎戸材木店)
事務所ですが国産材の良さを多くの人に知ってもらうためのギャラリーや工房を併設した建物で、新しくできる場所を多くの人に使ってほしいとその材木屋さんは考えました。
設計の大事なテーマは社会に対して開かれた建物にするということです。
幸い道路と建物の間に2m20cmくらいのスペースが有りました。このスペースをもっと活かせないかと言う話になり、外に向かって広いウッドデッキをつくり、そこに誰でも座ってもらえる木のベンチを作ることにしました。
歩道にオープンなデッキとベンチは、国産材にこだわる材木屋さんなので国産の杉で作りました。
外部に杉を使うのはチャレンジですが、愉しいチャレンジです。
完成時のウッドデッキとベンチ。
その建物もすでに5年。杉でできたデッキとベンチはまだまだ現役です。当初は無塗装ではじめましたが、事務所のカラーを考えて後に黒く塗装をしています。
設計した者としては、湿気がこもらないように、デッキの床組を工夫して風通しを良くしました。デッキも雨にぬれてもすぐに水が切れるようにデッキ材の間の間隔を考えました。デッキ材はビス止めにして、もしも腐ったら腐った板だけを簡単に取り替えられるようにしています。
そして完成したデッキとベンチは、風通しがよくすぐに乾いてくれるようになり、当然ですが今でも現役です。
杉の木も使い方なんだと思います。上手に使えば外でも長持ちする。ちょっとした工夫と、使ってみようという気持ちです。みんながこんなふうに考えて、日本の木をもっともっとたくさん使っていけると良いですよね。
4年経って黒く塗装されていますが、外部に使った杉はまだまだ健在です。