伝統的な磨き丸太から、現代的な木の家具や雑貨まで 山を守り育てながら様々な銘木や木材製品を提供する森庄銘木産業奈良県宇陀市の森庄銘木産業株式会社(以下、森庄)は、磨き丸太製造販売の老舗でありながら、山守として森林管理や素材生産を行う林業事業体であり、さらに様々な木材製品の製造販売も行っています。川上から川中、川下という既存の範疇に捉われず、クロスオーバーな展開をしている森庄のユニークな事業内容を三代目の森本定雄さんと四代目の森本達郎さんからお聞きしました。 目次 磨き丸太生産工場としてスタート土壁倉庫で優しく乾燥させる高品質な製品づくり自然の摂理に合わせ、真冬に製造する磨き丸太自然と向き合うことで生産されるユニークな木材森林を調査し、伐採予定木に造林の仕方も指示木材で、森と人々の暮らしを繋いでいきたい
磨き丸太生産工場としてスタート 土壁倉庫で自然乾燥中の磨き丸太や錆び丸太 森庄が磨き丸太生産を始めたのは1927年(昭和2年)です。磨き丸太とは、スギやヒノキの樹皮を剥いで乾燥させ、表面を磨きあげた丸太のことで、主に和室の床柱などの化粧柱として用いられる日本家屋に欠かせない高級材です。 磨き丸太は、奈良、京都が主な産地で、奈良では銘木といえば磨き丸太のことを指していたといいます。現在、森庄は、磨き丸太だけでなく、錆び丸太、杉化粧皮、枝付きのシンボルツリーなどの他、様々な銘木を扱っています。他では手に入らないユニークな銘木も森庄なら手に入ると評判です。 また、森庄は磨き丸太製造販売をしながら山守として、社有林はもちろん委託を受けた山林所有者の森林の整備も行ってきました。四代目になる達郎さんが入社してからは、MORITOという自社ブランドを立ち上げ、木の雑貨や家具、建築DIY資材などの販売にも力を入れています。林業から磨き丸太等製造事業、木材製品販売事業にわたるまで設計士や大工と連携して木材をつかった空間づくりのサポートをするなど幅広く事業を展開しているのも特長です。 定雄さんは「昔から山守として林業もやりながら磨き丸太製造をしていたので山のこともわかるし、木材問屋さんとも仲良くやっていたので木材流通のこともわかるようになりました。ただ製材だけは自社では行わず、注文があったときは協力会社の製材所に出していたんです。製材設備を自社で持たなかったことが、比較的自由に事業を展開していくことができた理由かもしれません」と話します。 近所にある協力会社の吉久製材で、太いホウノキを製材
土壁倉庫で優しく乾燥させる高品質な製品づくり 土壁の倉庫で湿度を管理してゆっくり乾燥させる 森庄では、磨き丸太などを独自の天然乾燥方法で仕上げています。「天然乾燥というと普通は屋外に置いて天日にさらすだけなんですが、当社では土壁の倉庫の中で温度と湿度を管理しながら、風をまわしてゆっくり時間をかけて乾かしています。以前、どういう環境で乾かすと割れが少ないか実験したことがあるんです。スレート葺きの倉庫とか土壁の倉庫の中のいろいろな場所に温度湿度計を設置して計測してみました。私は温度変化が割れにいちばん影響していると考えていたのですが、実は湿度変化が影響していることがわかりました。土壁の倉庫はスレート葺きの倉庫に比べ湿度変化が少なく、割れを生じにくいことが実証できたので、土壁の倉庫を3棟建てて、温度変化、湿度変化を管理しながら天然乾燥をさせています」。 時間と手間がかかっても品質のいい製品をつくることが、お客様の信頼を得るいちばんの秘訣のようです。森庄には乾燥用の土壁倉庫が3棟、最長16mの磨き丸太を保管できる長尺材の保管倉庫が1棟、木材製品の展示用の倉庫が1棟用意されていて、常に豊富な在庫を持つことで、急な発注にも即応できるようにしています。 大径・長尺の磨き丸太用の保管倉庫
自然の摂理に合わせ、真冬に製造する磨き丸太 磨き丸太は冬の寒い時期に製造します。まず真っすぐできれいな木がないと始まりません。樹木の木口には年輪ができますが、春から夏につくられる目幅の大きな部分を"春材"と呼び、夏から秋にかけて形成される目幅が狭く色の濃い部分を"秋材"と呼びます。「僕らは冬目と呼んでいますが、秋に形成させる色の濃い部分が表面で固まったときに伐らないと、磨き丸太にしたときに表面の艶がでません。なので伐採するのは10月から12月頃です」。 伐採してから樹皮をざっくりと剥き、さらに水圧で余計な樹皮を剥して、丸太のきれいな表面を露出させ、背割りをいれて天日で干します。「寒い時期の空っ風に吹かせて干すので寒晒し(かんざらし)と呼んでいます。寒晒しが済んだら土壁倉庫の中でゆっくりと乾燥させて製品として出します。磨き丸太製造は、なによりも森林の木の状態や性質を知り尽くしていないと上手くいきません。素材生産における造材の大切さや伐り旬なども大事に考えるようになったのは磨き丸太製造を長年続けてきた経験が活かされていると思います」と定雄さんは語ります。最近は磨き丸太製造の技術を活かして、枝に帽子やバッグなどを掛けることができるポールハンガーや枝が脚になっている丸太のベンチなど様々な製品も製造販売しています。 三代目で社長の森本定雄さん(写真提供:森庄銘木産業株式会社)
自然と向き合うことで生産されるユニークな木材 槍鉋で表面を平滑にする職人の技 森庄ならではの製品の一つに杉化粧皮があります。杉皮(=杉の幹の樹皮を剥いだもの)は、屋根の下葺きなどに使われますが、森庄の杉化粧皮は、木の塀や外装、内装など人目につくところに用いられる化粧材です。「土用明けにスギの大径木を伐採し、現場で幹の樹皮を剥ぎます。剥いだ樹皮は重ねて積み上げて山の中に置いておきます。私たちはこれを"発酵作業"と呼んでいます。2~3カ月経ったら山から持ち出し、幅を一定に揃えてさらに1年ほど天然乾燥させてから、ベテランの職人が槍鉋(やりがんな)で表面を平滑に仕上げてから出荷しています」。 専務の達郎さんは「元々は日本建築の塀などに使われてきましたが、最近では店舗の内装や住宅のドアの装飾などにも採用されています。アイデア次第でいろいろな場所で使えると思います。人工のものでは出せない素材感が魅力です」とアピール。定雄さんは「この素材は伐り旬が大事で、木が水を吸い上げながら成長が止まる頃を見計らって木を伐ります。土用明けより前に皮を剥ぐと虫が付きやすいといいます。昔から伝わる経験則です」。 そしてもう一つの製品が「錆び丸太」です。一見、広葉樹の丸太かと思わせますが、なんとヒノキです。「錆び丸太は、梅雨時に山で伐ったヒノキの樹皮を剥いて、周りの立木に立てかけて2週間ほど放置します。そうすると蒸し暑い夜に一晩にしてカビが生えてくるんです。カビが生えたら、カビが生えたところに触れないように持ち帰り、仕上げに木蝋を塗って磨き上げ、半年ほど天然乾燥させて出荷します」。カビに覆われた部分が変色するのを利用した技法で、まさに自然が作り上げたアート作品といえます。錆び丸太も数寄屋造りの家に使われていた素材ですが、現在の建築の木質空間にアクセントを与えるユニークな素材です。 錆び丸太は一つとして同じものがない自然がつくるアート作品
森林を調査し、伐採予定木に造林の仕方も指示 森庄は、林業事業体として社有林も併せて約300haほどの森林を管理しています。そのうち素材生産ができるのは毎年約30haほど。達郎さんは「バックホウで道幅2m程度の作業道を開設し搬出間伐を行っています。チェーンソーで伐採、ウィンチで作業道に寄せグラップルでフォワーダに載せて山土場にはこびます。1人1日当たりの生産量は1.5~2㎥程度なので小規模な林業といえます。社員は6名でその他に外注の作業員がいます」。 特徴的なのは、伐採する前に定雄さんがていねいに選木をしていること。伐採する木には、エリアごとに色の違うテープを巻き、さらに樹皮を少し削って通し番号と"4 4 3"などの数字を記入しています。この数字は一番玉を4m、二番玉を4m、三番玉を3mで玉切るという意味です。こうすることで伐倒する人に、どの木を伐って、どう造材すればいいかを伝え、作業の効率化を図るとともに、無駄なく原木を活用することができます。 森林を調査し、次に伐る木にマーキング
木材で、森と人々の暮らしを繋いでいきたい 椅子やテーブルなどインテリア製品の展示場にもなる銘木倉庫 「森庄で扱っている銘木は、基本的には伝統的な日本建築で用いられてきたものです。これからの課題としては、日本建築の住宅を建てる人が減っている中、それ以外のホテルやショップの内装など非住宅の空間づくりに銘木を使っていただけるよう働きかけていかなければと思っています。銘木って聞くと和風のイメージをもたれるかもしれませんが、使い方次第でモダンな面白い空間づくりができると思います。需要を本気で発掘していく必要がありますね」と達郎さんは話します。木をもっと使ってもらうには、木を使ってくれる人たちと生産者がもっと接点を持たなければいけないという考えです。「少し先の話になるのですけど、今、事務所の前の元倉庫だった土地が空いているので、そこに地元の木材を使ってモデルハウスを建てることを計画しています。住宅性能も高性能にして、木の良さを生活の中で感じていただけるような家を建てて、お客様に公開したいと思っています」。 また、達郎さんは木材雑貨の販売にも力を入れています。「ずっと森と暮らしをつなぐということを考えています。それでMORITOというブランドを始めました。木の製品を木が好きな人に届けたいというのはもちろんですけど、木の製品を通じて森の大切さを知って欲しいと思っています。僕らは木を使う文化の中で暮らしてきましたが、今、自然界の歯車が狂っていて驚くほどの自然災害が発生しています。いい山、いい水、いい暮らしという昔からある日本の文化を取り戻し、次世代にいい山を残すことをずっと考えているんです」。 家を建てる構造材や造作材だけが木材の活用法ではありません。木造空間のアクセントになる銘木や様々な木の製品を使うことも日本の木材を活用し、ひいては日本の森林を守り育てることに繋がります。 四代目の森本達郎さん(写真提供:森庄銘木産業株式会社)
森庄銘木産業株式会社(林業家 森庄)のホームページ https://www.yamanaramorisho.com/ MORITO https://www.yamanaramorisho.com/morisho-moritostore
Story 外構・外装木質化による新たな木材利用の可能性 地場産スギ材でつなぐ、家族の思いと地域林業の未来 長野県産スギ材で建てた、住み心地のいい木造住宅 鹿児島県産材をふんだんに使った木造施設で地域の未来の生き方を切り拓く小浜ビレッジ おすすめ記事 はじめてのウッドフェンス&ウッドデッキのメンテナンス 木を使うことで、日本の自然と社会が豊かになる。子供たちへのメッセージ カテゴリー SDGs エクステリア 木の家 木の街づくり タグ ウッドデッキ ウッドフェンス オフィスビル グランピング 開発秘話 学校・保育園 古民家 公園 公共スペース 雑誌掲載 対談 木の家具 木の雑貨 木の中高層建築物 木造住宅 遊具 JAS構造材 エリア 全国 北海道・東北地方 関東地方 中部地方 近畿地方 中国地方 四国地方 九州地方