県産材をふんだんに使った“野きろの杜”の小さな住まい“野きろの杜”は新潟市の南西に位置する豊かな自然に囲まれた西蒲(にしかん)区和納に、2022年に生まれた新しい住宅街です。新潟土地建物販売センターと株式会社石田伸一建築事務所、株式会社スノーピークの3社が協同でコンセプトづくりを行い、「野遊びでつながる街」、「木材の地産地消」、「アウトドアリビングのある住まい」、「景観を維持するガイドライン」など今までの住宅街にはないユニークなコンセプトを打ち立て、木造の家並みの景観を生かした木の街づくりが行われています。今回は、その “野きろの杜”の小松様のお宅を訪れました。 目次 木の家の経年変化を楽しみたい小さいことのメリットを生かし快適に暮らせる木の家地元の魚沼スギを外壁等に活用安全持続性能に配慮したユニークな間取り・設計リビングの延長のようなウッドデッキで伸びやかに暮らす
木の家の経年変化を楽しみたい 明るく開放感があり、木の温もりにあふれたリビングルーム 施主の小松亮太さんは「家を建てるなら木造で!」と最初から考えていました。「本革の製品のように、使い込んでいくと変化していい風合いになっていく、そんな木の家に住みたいなと思っていました。家とともに暮らしながらお互いの経年変化を楽しみたいと思っています」。 サトウ工務店を選んだのはコンパクトな住まいづくりに共感したから。「小さければ光熱費や維持費も安く済むし、毎日のお掃除も簡単、家電製品も最小限で済みます。あまり広い家だと、その広さに合わせて不要なモノがどんどん増えてしまう。モノが多くなくても、工夫すればちゃんと暮らしていけることは経験上、確信していたので思い切って小さな家にしました。 この住宅地を選んだのは、街並みの景観を重視した考え方に共感したからです」。野きろの杜の街区は、戸建住宅、賃貸住宅、コミュニティ広場や商業施設、ゲストハウス等のエリアに分かれています。そしてそこに建つ家は、外壁を同じような色合いの木で統一するなど、美しい街の風景が未来へ残すことを目指しています。 施主の小松亮太さん
小さいことのメリットを生かし快適に暮らせる木の家 竣工時の野きろの杜の小さな住まい(写真提供:サトウ工務店) 住宅の広さと住み心地の良さは必ずしも比例するものではありません。大きすぎる家は住む人に負担を強いることもあります。 この家は、高気密、高断熱、高耐震性、安全持続性能※に配慮し、22.8坪という決して広くはない面積の中で、快適に気持ちよく暮らしていける工夫やアイデアが込められています。 設計・施工を担当した佐藤さんは「高気密、高断熱、高耐震性は、いまできる最高の水準を実現しています。また、条件さえ合えばコンパクトな平屋の家をご提案したいと思っていますが、今回は平屋だと少しタイトだったので、平屋ベースで考えてフリースペースを2階につくりました。将来的には子ども部屋としても使えます。基本的に1階で生活できるような間取りを考えました」と話します。 ※安全持続性能:作業療法士が医療の観点から提唱している安心・安全な間取り設計の考え方。すべての年代に対して住宅内で起きる事故のリスクを減らすこと、身体だけでなく家族構成やライフステージ・スタイルの変化に対応する間取り設計を推奨するもの。 サトウ工務店の佐藤高志さん
地元の魚沼スギを外壁等に活用 ウッドデッキと一体感をもたせ、広がりを感じるリビングルーム(写真提供:サトウ工務店) “野きろの杜”の家づくりのコンセプトに「木材の地産地消」が謳われているように、この住宅には新潟県産材がふんだんに使用されています。ただし、家の性能を高めるために適材適所にふさわしい木材を使い、県産スギ材で強度が足りなければ近県のヒノキ材やアカマツ材を採用するなど工夫がされています。外壁は、街並みの統一感のために新潟県の魚沼スギの板を採用。 「魚沼スギは、黒芯※の部分が多く、見た目が黒っぽいので昔は敬遠されていましたが、私は落ち着いたとてもいい色合いだと思います。保護塗料を塗布しただけで防腐処理は施していません。傷んだら交換すればいいという考え方です。地元産のスギ板なのでいつでも入手することが可能です。天井板は、スノービーチ(雪国のブナ)と呼ばれる魚沼産ブナ材を合板にしたものです。地域の特色がある木材を積極的に採用しています。土台など強度が必要な部分にはヒノキや一部にアカマツ、室内の柱はスギ、外周部の柱はヒノキと少し手間がかかりますが適材を適所に使っています」。 ※ スギの心材は、赤味がかった色(赤身と呼びます)をしていますが、生育した環境や土壌の性質等により黒色化する場合があり、これを黒芯と呼んでいます。黒芯は含水率が高く乾きにくく、また黒い色が敬遠されてあまり利用されていませんでしたが、通常の赤身より強度があるという説もあり、その良さが見直されています。 魚沼スギの黒芯部分を使ったシックな色合いの外壁
安全持続性能に配慮したユニークな間取り・設計 寝室にも余計なモノを置かないシンプルなつくり 耐震性、気密性、断熱性など高性能な住宅に必要なスペックの他に今回注力しているのが安全持続性能という考え方です。生活をしていて、家の中で怪我をしない配慮がなされています。例えば玄関の上がり框は段差がまったくなくフラットに。階段の傾斜も緩やかになっています。 「寝室は1階に設け、基本的に1階だけで生活ができる間取りにしてあります。換気システムも通常は天井に埋め込む場合が多いですが、当社では洗面化粧台の壁に埋め込んでいます。フィルター交換などのメンテナンスのために踏み台に乗って作業しなくても、毎日朝晩に必ず使う洗面台の横に設置することでいつでも手軽にメンテナンスができます」。 また、興味深いのがトイレは使用するときだけドアを閉める仕組みになっていること。「使わないときはドアを開けておくことで奥の窓とも相まって広い玄関ホールとして機能します」。寝室にもドアがなく、リビングから連なった空間になっています。「寝室を使うときは、リビングルームに人はいないはずなのでドアは不要です」。長期優良住宅に必要なぎりぎりの22.8坪を、間取りのアイデア等で狭く感じさせず、長く快適に暮らしていける工夫が凝らされています。 狭さを感じさせない玄関口からの眺め
リビングの延長のようなウッドデッキで伸びやかに暮らす 2階の部屋はフリースペースとして活用 “野きろの杜”では、街並みの景観を美しく揃えるため外構やカーポートの設置にも基準があります。小松邸ではカーポートは設けず、車は家の脇に停めるようにしています。車のドアを開けるとちょうど上に屋根が伸びていて濡れずに家に入ることができます。 また、塀もあえて設けず、植栽の樹木が目隠しになるよう計画されています。縁側的な役目も果たしているウッドデッキは2段になっていて、アウトドアのリビングルームという位置づけです。自然石のテラスにテーブルを置いてBBQなどをするきに、低い方のデッキ面を椅子代わりに使うことができます。デッキ材も外壁と同じ魚沼スギ。こちらも保護塗料を施すだけで特別な腐朽処理は施していません。傷んだら新しい板に張り替えて使って行くという発想です。木の家の街並みが住む人とともに育ち、どんな景観の街並みになるのか、今後がとても楽しみです。 佐藤さん(左)と施主の小松様ご夫婦
Story 外構・外装木質化による新たな木材利用の可能性 地場産スギ材でつなぐ、家族の思いと地域林業の未来 長野県産スギ材で建てた、住み心地のいい木造住宅 鹿児島県産材をふんだんに使った木造施設で地域の未来の生き方を切り拓く小浜ビレッジ おすすめ記事 はじめてのウッドフェンス&ウッドデッキのメンテナンス 木を使うことで、日本の自然と社会が豊かになる。子供たちへのメッセージ カテゴリー SDGs エクステリア 木の家 木の街づくり タグ ウッドデッキ ウッドフェンス オフィスビル グランピング 開発秘話 学校・保育園 古民家 公園 公共スペース 雑誌掲載 対談 木の家具 木の雑貨 木の中高層建築物 木造住宅 遊具 JAS構造材 エリア 全国 北海道・東北地方 関東地方 中部地方 近畿地方 中国地方 四国地方 九州地方