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- 家族や仲間とDIYで仕上げる国産無垢材で建てる“焼杉”外壁の木の家
家族や仲間とDIYで仕上げる
国産無垢材で建てる“焼杉”外壁の木の家
「特定非営利活動法人北本市観光協会」や「合同会社きたもと暮らしの編集室」で、地域づくり活動に携わっている岡野高志さんは、地球に負荷をかけない暮らしが目標。いま実家の敷地内に国産無垢材を多用した木造住宅を建設中です。自分でも家づくりに参加したいという岡野さんは、外壁に使用する“焼杉(やきすぎ)”をワークショップ形式で自分たちの手でつくりました。
環境に負荷をかけない家づくり
バーナーでスギ板の表面を焼く岡野さん
埼玉県中東部に位置する北本市は、首都圏45km内で都心まで45分という立地にありながら、昔ながらの谷地や湧水、雑木林が残る自然が豊かな田園都市です。家を建てるとき、木造以外は考えなかったという施主の岡野さんに、工事中の新居でお話しをお伺いしました。「地域づくりの仕事で、1971年に竣工した北本団地の活性化プロジェクトに携わっています。団地のリノベーションをしていく中で、建築時に出るごみの問題や、循環型社会のとこなどの課題を感じました。それで自分が家を建てるときは、環境に負荷をかけない家にしたいと思い、それなら国産材を使った木造がいいだろうなと思いました。実は、実家も木造で新築していて、木の香りのする家はいいなと思っていました」。
家の設計は友人を通じて繋がりのあった“うさぎや設計工房”の一級建築士 矢野優子さんに依頼し、施工は地元で国産ヒノキ材にこだわった家づくりをしている工務店、“株式会社住マイルハウス”の棟梁 過足(よぎあし)政見さんに相談を持ち掛けました。
施主の岡野高志さん
国産材の魅力を生かし、みんなで快適に過ごせる空間に
建築中の岡野邸
設計を担当した矢野さんは、建設会社のカナヒデコーポーション株式会社の木造住宅設計部門として“うさぎや設計工房”を任されています。「名前が優子なので小さい頃から優しくあれと親から言われていて、地球にも人にも優しい家をつくるというのが私のモットーです。“うさぎや”と名付けたのは“あなたの声を耳を大きくして聞きます”という気持ちからです。岡野さんは、地域の人たちとつながる仕事をしているので、プライベートでも仲間とのつながりをとても大切にしていて、個人のスペースはミニマムで、みんなで過ごせる空間を大きくしたいというご希望でした。なので天井は、登り梁を採用して傾斜天井にし、家の中の広がりを感じるようにしています。また北側の高い位置に窓をつくり、直射日光ではない優しい光を家の中に採り入れるようにしました。木造らしさを出すために構造は現しにしています。外観もシンプルな片流れにして、も兼ねて庇を大きくだしています。建物の南面の外壁は岡野さんの希望もあって焼杉にすることにしました」。
うさぎや設計工房の矢野優子さん
国産のヒノキ、スギの無垢材にこだわった家
登り梁が現しになっている大きな庇
木材の調達と施工は、地域の工務店 株式会社 住マイルハウスに依頼しました。棟梁で社長の過足さんに使用した木材についてお聞きしました。「私のところは国産の無垢材のヒノキ、スギにこだわり、住む人の身になって、いつまでも永く安心して住める家づくりをずっと続けています。木材の調達は、北本の近郊にある東京木材総合市場の吹上市場と直接お取り引きをしています。工務店ですが、ヒノキ材を中心にかなりの在庫も持っているのが特長です。今回の建物には、土台や大引き、柱は国産ヒノキ材を使い、間柱はスギ材を使っています。横架材だけは強度をもたせるために米マツを使いました。無垢材にこだわっているので集成材は使っていません。床は構造用合板の上に国産スギのフローリング材を使いました、足触りも柔らかく木の温もりを感じます。外装は焼杉にしたいということだったので、うちに在庫していたスギ板を必要な分だけ提供しました。みんなで焼杉に加工するというのでどんなふうに仕上がるか私も楽しみです」。
左から矢野さん、岡野さんご夫婦、住マイルハウスの過足政見さん
ワークショップ形式の焼杉づくり
子どもも焼杉づくりのお手伝い
南側の外壁に用いる焼杉は、岡野さんの仲間が集まってワークショップ形式で作製しました。「仲間の一人が、以前家を建てたときに、外壁を焼杉にして、みんなでワークショップを開いて焼杉を作製したことがあったので、自分も同じようにしました。焼杉は、保護塗料などを使わなくても耐久性を高められます。もし傷んでもその板だけを交換すればいいので、とても合理的だと思います。焼杉づくりは息子にも手伝ってもらいました。バーナーでスギ板の表面を焼いた思い出は、いつまでも記憶に残ると思います。海外ではセルフビルドをする人が多いと聞きますが、その楽しさが理解できました。すべてを自分で建てるのは無理ですが、一部だけでも自分たちが手を加えて家を建てるのはとても幸せなことだと思います。これも木造注文住宅のいいところかもしれません。実は、部屋の中の壁も自分たちで漆喰を塗ろうと計画しています」。焼杉ワークショップでは、家の南面の外壁に使用する約100枚の焼杉を1日かけて作製しました。
岡野邸の焼杉ワークショップ 2023年1月29日
焼杉とは、表面をわざと焼き焦がし、炭の層をつくる外壁用のスギ板です。東日本ではあまり見られませんが、西日本の海岸寄りの地域では昔からよく用いられる伝統的な技法です。保護塗料等は使用せずに耐久性を高め、腐朽しにくくすることができます。表面が炭の層になっているので、触ると手が汚れますが、環境に優しくコストパフォーマンスも優れた外壁材です。伝統的な作り方は「三角焼き」と言って、スギ板三枚を縄で縛って三角に組み、下におが屑などを入れて火を焚く方法です。煙突効果で火が三角形の中を抜けて、内側だけが焼け焦げます。今回は、ガスバーナーで表面を焼き焦がす「バーナー焼き」で作製しています。手間がかからず、焼き加減を見ながら作製することができます。
焼杉ワークショップに集まった皆さん
暮らしていくことで家の価値を高めたい
足場の取れた岡野邸、内装工事はまだ続いています
木材は、断熱性が高く調湿作用があり、紫外線をよく吸収するため目にやさしく、音も適度に吸収しまろやかな音にする効果がある、人にやさしい自然素材です。岡野邸のようにDIYで施主が家づくりに参画できるのも、木を使うことの大きな魅力かもしれません。焼杉づくりは、子供たちにとって忘れられない思い出となって、郷土を愛する心“シビックプライド”の醸成にもつながるかもしれません。
完成後の予定を岡野さんにお聞きすると「たくさんの地域の方々に家づくりを手伝ってもらったので、みんなを招待して一緒に食事をしたいですね。日本では、家は完成したときが最高の状態で、そこからどんどん価値が下がっていくと考えられていますが、僕はそれに納得がいかないので、家族や仲間と楽しく使っていくことでどんどん価値があがるようにしたいと思っています。北本には雑木林がまだ残っているので、薪炭林として活用できなかと考えています。我が家も薪ストーブを入れる予定です。また、庭が広いのですこし時間が経ったらウッドデッキを作ろうと思っています。庭でヤギを飼うことも考えていて、ヤギを地域とつながるきっかけにできないかと思案中です」。
DIYで仕上げた木の家は、地域の仲間が集う、コミュニティの場としても活躍しそうです。家族や仲間と一緒に育っていく、そんな家になると思います。
参考:「木材は人にやさしい」林野庁ホームページ
https://www.rinya.maff.go.jp/j/riyou/kidukai/con_2_2.html 南面の外壁はワークショップで作った焼杉を使用