木製サイクルスタンドを提案し、県産材の利用拡大につなげその利便性、耐久性の検証と製品化を目指す木の家づくり協会の挑戦徳島県は県土の4分の3が森林で、その約半分の面積にスギが植えられ※、良質な“徳島すぎ”の産地となっています。しかし近年、木造住宅需要の減少等により、せっかく大きく育ててきたスギが活躍する場を失っています。徳島県産材を活用した木の家づくりを目標に活動している“一般社団法人徳島県木の家づくり協会”(以下、木の家づくり協会)では、徳島県産スギ大径材の新しい利活用方法の開拓に挑みました。※出典:徳島県HP 徳島県の産業 林業 目次 徳島大学で木製サイクルスタンドの実証実験を実施県産のスギ大径木の新しい利用法を模索建具屋、家具屋、大工が力を合わせて製作Type1.商用施設で活用できるウッドフェンス併用サイクルスタンドType2.駐輪場がコミュニティ空間になるベンチ併用サイクルスタンドType3.既存の駐輪施設を木質化できるベーシックなサイクルスタンド今まで木を使っていなかったものを木に変えていく
徳島大学で木製サイクルスタンドの実証実験を実施 中庭に設置されたベンチ一体型のサイクルスタンド 徳島大学の理工系学部がある常三島(じょうさんじま)キャンパスの中にユニークなデザインの木製サイクルスタンドが出現し、自転車で通学する学生たちを驚かせました。この木製サイクルスタンドは、木の家づくり協会が製作し、徳島大学常三島キャンパスをお借りして実証実験をしているものです。木の家づくり協会とは、1996年(平成8年)に木材産業に携わる多様なメンバーが徳島県と連携して、山の立木から住宅まですべて顔が見える状態で提供することを目的に設立した協会です。木を守り育てる川上から木の家を建てる川下まで、林業家、製材所、工務店、設計者など木材のサプライチェーンを横断する様々なメンバーによって構成されているのが大きな特徴となっています。 今回、この木製サイクルスタンドをデザイン・設計したのは協会のメンバーである建築家の島田めぐみさん(M-STYLE設計室)と島津臣志さん(島津臣志建築設計事務所)のお二人。木材調達や施工は同じく協会メンバーの山一興業株式会社が担当しました。今回は、設計者の島田めぐみさん、施工担当の山一興業の黒澤和哉さん、実証実験の場を提供している徳島大学から、実験の調査を担当されている徳島大学大学院社会産業理工学研究部教授の小川宏樹さんにお集まりいただき、木製サイクルスタンドを考案した狙いや実証実験の内容等についてお話を伺いました。 左から、黒澤さん、小川さん。島田さん
県産のスギ大径木の新しい利用法を模索 徳島産スギ大径木からとった材を使用 デザイン・設計を担当した島田さんに、このプロジェクトのきっかけをお聞きしました。「いま60年生、70年生の木が山にたくさんあります。太い木は、芯去りの無地のきれいな白太の材がとれるのですが、最近はそれを使う住宅設計が減っていてせっかく山から伐り出しても値が付かないという状態です。しかし、伐らない事には山が循環していかないので、そこにジレンマを感じています。そこでスギ大径材からとれる白太を、外構に使おうと考えました。木の家づくり協会では、スギの内装材開発も行ってきましたが、もっと人目に触れやすい外装材や外構材で県産材の利用拡大を狙っていかなくてはいけないと思います」。 では何故サイクルスタンドを選んだのでしょう。「すでにウッドフェンスやウッドデッキ、大型遊具、ストリートファニチャーなどは世の中で様々なものが提案されているので、それ以外の新しい用途先を開発しようと考えました。自転車の利活用は、2018年に国が“自転車活用推進計画”を策定し、2019年には徳島県でも“徳島県自転車活用推進計画”が公表され、自転車を観光資源にしようという動きが始まっています。直近では大鳴門橋の自転車道が2023年度に着工され、2028年度の開通を目指すというニュースが報じられ、淡路島から自転車に乗って徳島に来ることが可能になります。こうした社会的な動きもあるので、自転車に関連する設備を木でつくってはどうかと考えました。しかし駐輪施設というと塀や屋根をつくる大がかりなものが多いので、もっと手軽に様々な施設で簡単に導入できるサイクルスタンドを提案しています」。 M-STYLE設計室の島田さん
建具屋、家具屋、大工が力を合わせて製作 ベンチ併用のサイクルスタンド 使用した木材について木材調達から施工までを担当した山一興業の黒澤さんにお話をお聞きしました。山一興業は、県産材を使った新築木造住宅やリフォームの他に不動産業も手掛けています。「今回使用した木材は徳島県産の90年生のスギ大径木からとったものです。雨水が溜まりやすい横木の部分は赤身材を使い、縦になる部分に白太材を使っています。伐採から製材、乾燥、加工まですべて木の家づくり協会の会員の会社で行っています。薬剤を加圧注入してJAS性能区分のK4相当の防腐処理を施しました。また、後から切断した面には保護塗料を塗布しています。下地がコンクリートなのでアンカーで固定し、ウッドフェンス併用のスタンドは裏側から倒れないように支柱で補強しています。笠木はガルバリウム鋼板で覆って水の侵入を防いでいます」。使用する材は、デザインをする前に林業や製材の関係者と一緒に相談をし特殊なサイズの材は使わず、すべて一般流通している規格サイズに統一することでメンテナンス時に材の交換等が容易になるよう配慮したそうです。 さらに、今回のサイクルスタンドは、地元の建具屋、家具屋、大工が力を合わせて製作したものです。「徳島は地場産業として建具作りや家具作りも盛んだったのですが、最近は仕事が減っています。そこで、建具屋さん、家具屋さんにも製作をお手伝いしてもらっています。現場では組み立てて設置するだけでよかったので、私たちの仕事は楽でした。それぞれの職人さんと相談してネジ穴を埋木で隠すなど腐朽の弱点となるところを技術で補っています」。 山一興業の黒澤さん
Type1.商用施設で活用できるウッドフェンス併用サイクルスタンド ウッドフェンス併用のサイクルスタンド 今回の木製サイクルスタンドは3タイプ4種類のデザインが提案されています。ウッドフェンス併用タイプのサイクルスタンドは、青く塗装された縦材の隙間に自転車の前輪を入れて駐輪する仕組みです。目隠し塀としても、壁面にサインボードを取り付けて屋外看板としても利用できます。商業施設やカフェ、レストランなどでの利用を想定したものです。 縦木の隙間に前輪を入れて駐輪する
Type2.駐輪場がコミュニティ空間になるベンチ併用サイクルスタンド ベンチ併用のサイクルスタンド 常三島キャンパスのイノベーションプラザ横の中庭には、2種類のベンチ併用サイクルスタンドが設置されています。この広場は、学生たちが鳥人間コンテスト用の機体を組み立てることもあるスペースです。普段から学生のたまり場になっているので、ベンチ併用のデザインとすることで過ごしやすいコミュニティ空間を創造しています。 片側はベンチとして利用でき駐輪場がコミュニティ空間にもなる
Type3.既存の駐輪施設を木質化できるベーシックなサイクルスタンド 最後は既存の屋根付きの駐輪場を利用したサイクルスタンドの提案です。従来は雨が降るとたくさんの自転車が無秩序に並び、その中の1台が倒れると、並んだ自転車全部が将棋倒しになることがよくありました。このサイクルスタンドを導入してからはきちんと整列して駐輪され、自転車が倒れることもありません。コストをかけずに街中にある既存の駐輪施設を木質化することができます。
今まで木を使っていなかったものを木に変えていく 校舎の中庭に設置されたベンチ併用サイクルスタンド このプロジェクトは、徳島大学との共同研究の一環でもあります。建築計画が専門の小川教授は、サイクルスタンドが学生たちにどのように利用されるかを調査をしています。「基本的な駐輪設備としての機能を満足しているかを調査し、実際に利用した学生たちにアンケート調査やインタビューを行って評価をまとめています。以前は駐輪の仕方もばらばらだったのがきちんと駐輪するようになったと思います。また、駐輪場でベンチを利用して友達と待ち合わせをするなど行動変容も見られます。また、私の担当分野ではないのですが、木材を長く使っていったときにどのようなメンテナンスが必要になるか、鉄などの他の素材と比較も別の先生が検証しています」。 黒澤さんは「当社でも、木造住宅の内外装以外の新しい木の利活用を検討しているので、今回の実証事業で一つの方向性が見えてきました」と新しいビジネスの広がりを予感しています。島田さんは「先日、成果報告会を行ったところ行政やまちづくり関係者の皆さんが参加してくださり、“まちなかの再生”という視点から具体的なご提案もいただきました。徳島大学での実証事業を起点に徳島の“まちなか”に木のサイクルスタンドを展開し、徳島県産スギ大径木の利活用促進に役立てばと思います」と製品化への手ごたえも感じているようです。 徳島大学の小川教授
一般社団法人 徳島県木の家づくり協会(徳島県) https://tokushima-kinoie.com/ 山一興業株式会社(徳島県) https://www.yama-1.jp/ ※人物写真は、撮影時のみマスクを外して撮影しています。
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