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- 外構木質化により人々が集う居心地のいい空間を創造「海の駅あいおい白龍城」外構木質拠点づくりプロジェクト
外構木質化により人々が集う居心地のいい空間を創造
「海の駅あいおい白龍城」外構木質拠点づくりプロジェクト
兵庫県相生市は、兵庫県の南西部にある瀬戸内海に面し、緑の山々に囲まれた自然豊かなまちです。牡蠣が名産の相生湾は深く入り組んでいて、その地形を生かして明治初期に船渠(ドック)が建設され、近年まで造船のまちとして発展してきました。相生湾の静かな入江に面した「道の駅・海の駅 あいおい白龍(ペーロン)城」は、入浴施設やレストランも備えた複合観光施設です。ここに地域産材を活用した地域づくりの拠点となる大型外構施設が誕生しました。
外構の木質化で海の駅・道の駅を活性化
座って海を眺めることもできる“みはらし階段”
“海の駅”とは、“道の駅”同様に国土交通省に登録された施設で、一般利用者が利用できる船舶係留設備があるマリンレジャー拠点施設です。あいおい白龍(ペーロン)城の支配人 利根克典さんに、この施設の成り立ちをお聞きしました。
「相生市は、典型的な造船業の企業城下町でしたが造船業が構造不況に陥り昭和61年(1986年)に大規模な合理化が行われ、町がひっくり返るほどの大騒ぎになりました。その後、何とか地域の活性化を図ろうと、国、市、商工会議所、民間企業が第三セクターを立ち上げ、平成9年(1997年)に温泉施設とレストランからなる“あいおい白龍城”を開業しました。施設名の“ペーロン”は当市最大の祭である“相生ペーロン祭”が由来です。ペーロンは中国が発祥の地なので、建物も中国の王宮建築風のデザインにしています。平成13年(2001年)には“道の駅”、平成19年(2007年)には“海の駅”の登録を行い、現在は天然温泉、レストラン、直売所、テナント数軒が営業しています」。
この施設は、週末に買い物客や観光客で賑わうものの、ゆっくりくつろげる空間がないのが残念な点でした。また、空調がないテント設備の直売所も建て替えを検討していて、その相談を持ち掛けたのが内海組の棟梁、内海繁之さんでした。諸般の事情があり建て替えは少し先になりましたが、その前に殺風景で何もなかった周辺の環境を整備することになり、内海さんから外構木質化の提案がありました。利根さんは「私は目の前の入江の風景がとても好きでこの海の景観をもっと生かした施設にできないかとずっと考えていました。木の外構による整備は、相生の美しい景観にマッチすると感じ大賛成でした」。
道の駅・海の駅あいおい白龍城支配人の利根克典さん
兵庫県産のヒノキ、スギを
入江の景観を展望できる大型ウッドデッキ
内海組は、主に木造住宅の設計・施工を行っている地域密着型の工務店です。会社には内海さんを入れて5人の大工がいます。設計やプロポーザル案件には一級建築士・一級造園施工管理技士の野口志乃さんが加わります。内海さんは「木材は兵庫県宍粟市山崎町で調達しました。一部、足りない分を近県から調達しています。木材は製材後に防腐防蟻薬剤を加圧注入してJAS規格のK4相当の耐久性を実現し、施工後にも木材保護塗料を塗布しています」。
設計をした野口さんは「束柱、根太、床材など地面に近部分はヒノキ、人の手が触れるベンチや手すり部分はスギを意識的に使い分けています。木材保護塗料は、木材内部の水分蒸散を妨げない塗料を選び、ワークショップスタイルで市民の皆さまにも手伝っていただきました」。
内海さんに施工で苦労した点をお聞きすると「デッキやベンチは風雨に曝されるので、外から見えない所には特に手間をかけました。外から見える床板などは傷んだら交換することができますが、土台部分はそうはいきませんからね。木はどちらかに曲がる性質がありますが、目によってその曲がり方が違います。それを見分けて木がいちばん長持ちしそうな向きで使うようにしています。難しいけど、それが好きでずっと大工を続けていますよ」と話します。
- ワークショップで子どもたちが保護塗料を塗布
写真提供:内海組、@[mapo.] Kai Takahashi
内海組の棟梁、内海繁之さん
“ひろびろデッキ”は、人々が集い交流する場
座って景色を眺めることもできる“みはらし階段”
今回のプロジェクトで設置した木の外構は、大きく3つのエリアに分けられます。海に面した駐車場と防波堤に沿ったゾーンAには、 “ひろびろデッキ”と“みはらし階段”、40mのカウンターがある“東西メインデッキ”があります。国道に面したゾーンBには、遮音も考慮したベンチ併設の“格子ウッドフェンス”を設置し、歩道に沿って “木製サインポール”を設置しています。その隣のゾーンCには多目的に使える“サブデッキ”が用意されています。
野口さんは「入江の景観を見渡せるように少し高くしてある“ひろびろデッキ”は床板に45×120mmのヒノキ材を使っています。海側は階段状になっていて、左右の大階段では海を眺めながら腰掛けることができます。以前この場所はフェンスで閉じられた空間になっていましたが、デッキと階段ができたことで自由に出入りできるオープンな空間に生まれ変わっています。堤防の内側の通路は、犬の散歩やランニングをする方も多く、デッキに立ち寄って休憩することもでき、新しい交流が生まれます」と説明。利根さんは「港湾管理者からは、階段前のスペースをミニコンサートなどに使用する許諾も得ています。階段が観客席にもなるので、今後さまざまな方々に使っていただきたい場所です」と話します。
設計を担当した内海組の野口志乃さん
美しい景観を楽しめる40mのロングカウンター
“ひろびろデッキ”から続く東西デッキには、長さ40mのロングカウンターとユニークな形状の“木のこスツール”が備え付けてあります。「この場所も、ただ行き来するだけの空間だったのを木質化し、カウンターとスツールを用意することで人が集まり景観を楽しみながら交流できる空間にしています。40mのカウンターには船舶用照明を配置し、手すりの代わりに係船ロープを使っています。また、35×35×15cmの木のブロックを製材所に作っていただき、それを木工工場でチェンソーをつかって削り、スツールに加工しました。見た目がキノコのような形なので“木のこスツール”と呼んでいます」と野口さん。
利根さんは「ここは夕日もきれいですが、夜も船舶照明の灯りで雰囲気があるので、写真に撮ってSNSに投稿したくなる場所になると思います。今後、食べ物や飲み物のメニューも充実させていく必要があると感じています。相生は田舎なので若い人が行く場所があまりないんです。若い人たちがここに来て美しい海を見て、青春を語ってくれたらうれしいですね。こういう場所があることで、故郷を誇りに思う心が芽生えてくれればとも思います」。“木のこスツール”は思わず手で触ってみたくなります。人々の意識変容や行動変容を生み出すのも木材の持つ魅力の一つかもしれません。
多彩な使い方に応えるウッドフェンスとウッドデッキ
ゾーンBのベンチ付きの格子ウッドフェンス
ゾーンBは、薄汚れた販促用テントや無計画に作られた植栽帯があり雑然とした空間でした。ここにシンプルな縦格子のウッドフェンスを道路と施設の敷地の間に設置することで景観に統一感を与えています。フェンスの施設側にはベンチが併設してあり、人々が集えるように配慮してあります。また、歩道に沿って木製サインポールを17本立て国道から見た施設の表情を一新しています。サインポールは4mの角材を用い、強風の影響を考慮して約80cmを地中に埋め込み、地際には金属製のブーツを施しています。
ゾーンCも物品置き場やゴミ捨て場があり歩道とスチールフェンスで仕切られていた場所だったのをウッドデッキを配することでオープンで居心地のよい雰囲気を感じさせます。設計者の野口さんは「フェンスで閉鎖され、雑然とモノが置かれていた空間の外構を木質化することで開かれた空間にし、人が滞留できくつろいで楽しめる空間に変えることがデザインの入口でした。ゾーンB、ゾーンCのベンチは、既に施設や歩道の利用者の休憩や交流に活用されていて、歩道側からも開かれた親しみのある空間になっています」。
様々な用途に応えるゾーンCのサブデッキ
木材がつくる快適な空間が、地域の活性化に役立つ
ロングカウンターの下の柵は波をイメージした動きのあるデザイン
このプロジェクトの目的は、「あいおい白龍城」の屋外空間を木材を活用しながら相生湾の美しい景観を取り入れ、ぬくもりを感じる快適性の高い空間に再生することにありました。今までは「入浴をする」、「食事をする」、「買い物」をするという行為のみが目立っていた複合観光施設を「のんびり過ごしたい」、「行ってみたい」、「誰かに教えたい」と思える利用者にとって求心力のある空間に変えようとしています。
オープンに先立ち、4日間にわたり利用者にウッドデッキ部分に入っていただいてアンケート調査を実施し、またその他にも「木を守るペンキ塗りワークショップ」と「みんなで“カキ・オブジェ”を作ろう!ワークショップ」を開催しました。野口さんは、「アンケート結果は、神戸芸術工科大学 環境デザイン学科 川北健雄教授に評定していただきました。とてもいい感触をもっていただいていますが、住民よりも観光で訪れた外部の方の方が高い評価をしてくださっていました。また、木材保護塗料を塗るワークショップは、大人も子どももペンキ塗りという行為自体が初めてという方が多く、とても楽しんでいただけました。牡蠣殻を使ったアートづくりも市民の方や学生の皆さんにお手伝いしていただき、若い方が面白いと感じていただけたようです。こうした取り組みが、こぢんまりと内輪で完結していた相生の風土に、新しい視点をつくっていくためのいい刺激になったのではと思います」。
利根さんは「今まで海の駅と名乗っていながら、海とのつながりが希薄でした。大きな階段のあるウッドデッキや40mもの長いカウンターがあるデッキを活用して、海の魅力を取り込みながら、人々のふれあいが生まれる施設にしていきたいと思います」と締めくくりました。木材が持つ力を活かした外構設備が利用者にどのような意識変容、行動変容をもたらすか、今後がとても楽しみです。
左から内海組の内海さん、野口さん、支配人の利根さん