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美しいウッドフェンスで観光客を迎える~おごと温泉「湯元館」「木もれび」~
台風のあとウッドフェンスをスピーディーに美しく甦らせる
働く女性のコミュニケーションサイトコラムなどを執筆しています。毎日忙しく頑張っている野球息子と吹奏楽娘を応援する日々の中、ときに“おいしいもの”を目指して旅に出て、温泉にゆったりつかるのが至福のときです。
撮影 加瀬利彦
琵琶湖のほとり、自然とともに建つお宿
琵琶湖大橋の近くにある「湯元館」。お宿の中で湯めぐりが楽しめます。
2018年9月に日本に上陸した台風21号。近畿地区を中心に多くの被害が出たことは、記憶にも新しいのではないでしょうか。この台風によって倒れてしまったウッドフェンスを美しく甦らせた温泉旅館があると聞き、滋賀県大津市に行ってきました。
琵琶湖の西南に位置するおごと温泉。温泉宿が集まるその一角に、「湯元館」がありました。湯元館の特徴は、なんといっても温泉。館内には琵琶湖を一望できる最上階の露天風呂を初めとする7つのお風呂があり、地場のブランド牛「近江牛」ほか旬の食材を取り入れたおいしい料理と併せて人気を集めています。
また隣接する姉妹館「木もれび」は、リーズナブルな料金設定が魅力。プラスαの料金で湯元館の温泉が利用できるそうです。
姉妹館「木もれび」は、企業の研修利用や海外からのお客様も多いそう。
四季折々の自然を肌で感じられる露天風呂
露天風呂側から見上げるウッドフェンス。青空や木々の緑と調和しています。
こちらのウッドフェンスは、「日本庭園」と「露天風呂」が融合する「湯幻逍遥(とうげんしょうよう)」と名づけられた露天風呂にあります。このお風呂は、目隠しのために3方向から高いウッドフェンスで囲われています。
木々や岩などが趣深く配置された空間を決して邪魔することのない、国産杉の塀。その上には隣地の緑が覗き、そして青空が広がります。かなりの高さがありながら露天風呂の開放感を削がないのは、自然木のなせる業といったところでしょうか。
人気の露天風呂「湯幻逍遥」。男女日替わりで利用できます。
ふんだんに使われている国産木材
かけ湯コーナーも木の温もりが溢れています。
「湯幻逍遥」では、宿泊エリアからの通路や脱衣所、露天風呂からの上り口などにもふんだんに“木”が使われていました。「お客様にせっかく自然の風景を味わっていただくのだから、塀や壁もそれに調和するものを」という想いからだそうです。湯元館のおもてなしの心がここにも込められています。
通路の壁や扉、椅子など、各所に惜しげなく木が使われています。
大切な通路となる木の壁の渡り廊下
湯元館にお客様を誘導する、木もれびから続く渡り廊下。
隣接する「木もれび」は、もともと運営の異なる宿泊施設だったものを2006年に湯元館の姉妹館としてオープン。このとき同時に「湯幻逍遥」が新設されました。湯元館と木もれびを行き来する渡り廊下の壁や屋根にも、美しい木が使われています。
露天風呂の塀とは違ったシックな黒い壁は、あえての色調加工かと思いきや、そうではないと聞いてビックリ。経年による自然な変色と、保護塗料の影響から徐々に現在の雰囲気ある色合いになったのだそうです。保護塗料の塗布は、この13年の間に1回のみ。「木はメンテナンスが大変なのでは?」というイメージも払拭されました。
年月を重ねたことで、新たな味わいが生まれています。
木もれび駐車場から見る、長く高いウッドフェンス
高さ3m(一部客室からの視界に配慮し4~4.5m)、全体長さ40mを超えるウッドフェンス。圧巻です。
渡り廊下を抜け木もれびの駐車場に出ると、そこには「湯幻逍遥」を囲む壮大なウッドフェンスが! 青空と、そして周囲の自然と融和した長く、高い、美しい塀に、思わず「カッコいい!」と声が出ました。
こんな立派なウッドフェンスは、今まで見たことがありません。そしてこの塀が、台風21号の被害を受けて新たに建て直されたものなのだそうです。もともとあったのもウッドフェンスでしたが、これが暴風にあおられて倒壊。再建を余儀なくされました。
木もれび客室からの美しい風景。露天風呂への視線も、きっちり遮ります。
施工会社の協力によるスピーディーな復旧作業
「湯幻逍遥」から木もれび側を望む。
台風が去った後、すぐに復旧作業が開始されました。優先したのは、「お客様をなるべくお待たせしないこと」。その想いを施工会社が受け、わずか2日で仮塀を建て、1日のみ露天風呂の閉鎖のみで営業を再開できたそうです。
その後、1カ月にわたり本格的な再建工事が行われました。今回の被害をふまえ、新しい塀には内部に鉄骨を入れて強度をプラス。かつて露天風呂側にあった「控え柱(塀を支える斜めの柱)」が不要になり、見た目もすっきり。木もれびの客室からの視界に配慮して一部分を高くするなど、機能的な改善も図ったということです。
塀の目的は露天風呂の目隠しですが、浴場だけに通気も重要です。そこで用いられたのが「大和張り(やまとばり)」という手法。互い違いに板を張り合わせていくことで、視線を遮りながら空気の通り道を確保しています。間近で見ると、その作業の丁寧さに感嘆するばかり。露天風呂につながる通路の壁にも、この手法が用いられていました。
「木」に対するこだわり
6_img_7.jpg湯元館の山本専務と、ミノベ建設の斉京専務。施工を依頼する側とされる側の信頼関係が、お二人の笑顔からにじみ出ています。
廃材と樹脂を掛け合わせたリサイクルウッドや、自然木を模倣した人工木も多用されている昨今、館内・館外ともに惜しげなく自然木を使用している湯元館。「木」に対するこだわりなどについて、本工事担当者である湯元館の山本専務と、施工会社「ミノベ建設」の斉京常務にお話を伺いました。
その中で見えてきたのは、「お客様に本物を味わっていただきたい」という想い。そしてその想いをきちんと受け止め、カタチにする施工会社との絶妙な“あうんの呼吸”が、この湯元館と木もれびを支えているのだと感じました。
「木」は融通がきく扱いやすい材料
実は木は、扱いやすい上にコスト面のメリットも多いそう。初期費用は人工木よりも安く、メンテナンスも5年に一度程度。これは人工木でも必要なため、ランニングコストも変わらないといいます。また「釘止め」ができることで用途も自在。制限が少なく、さまざまな使い方ができる点も大きなメリットなんだとか。
見た目にやさしく、暖かく、手を触れたくなる木がふんだんに使われた湯元館。自然のエネルギーが心と体をほぐし、明日への力をチャージしてくれる……。木に囲まれることの魅力を、再確認させてくれるお宿でした。
湯元館 https://www.yumotokan.co.jp/
木もれび https://www.komolebi.jp/