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- 木材コーディネーターの発想で地域の森林資源を価値高く利用するウッズの取り組み
木材コーディネーターの発想で
地域の森林資源を価値高く利用するウッズの取り組み
兵庫県丹波市は、兵庫県の中央部に位置し、東は京都府に接しています。市内を流れる加古川は瀬戸内海へ注ぎ、由良川水系の竹田川は日本海へ注ぐ日本で一番標高が低い中央分水界がある場所としても有名です。丹波市氷上にある有限会社ウッズは、育林・造林から製材、加工まで自社で一貫した独自の木材生産体制を構築し、地域の工務店と連携して地域材の価値高い利用に取り組んでいます。
製材所の枠組みを超えて地域材の利用促進を
(有)ウッズの製材設備
日本の国土の3分の2は森林に覆われ、戦後の拡大造林で植えられたスギやヒノキが生長し、いま伐り時を迎えています。日本にはこれだけ豊富な森林資源があるはずなのに、国産材を使いたいけどなかなか入手できないという声も聞きます。なぜ思うように木が使えないのでしょう。それには様々な要因がありますが、その一つに木材サプライチェーンの問題があることを見逃すことができません。木材の流通は、川の流れに例えて、森で木を伐り原木を生産する「川上」、原木を製材して柱や板などの木材製品に加工・販売する「川中」、そして木材製品を使って家を建てたり、家具を作ったりして消費者に届ける「川下」に分けられます。木材の需要と供給を考えた時に、川下側では必要な木材が必要な時期に調達できるかということがとても重要です。
一方、川上側ではどのような素材、製品がいつ、どれくらい必要なのかという情報がなければ生産に取り掛かれません。しかし、この需要と供給の情報が、川上、川中、川下で分断してしまっていてミスマッチが起きています。平成30年度の森林・林業白書では「供給可能量情報等を活用して、個別需要者のニーズに対応した原木を供給するのに適した森林の選定、生産された原木の取りまとめ、あっせん、調整等を実施するコーディネーター役が必要である」※と指摘されています。兵庫県丹波市の有限会社ウッズの能口秀一さんは、木材コーディネーターとしての観点から、製材所という枠を超えて木材流通をコーディネートし、地域の森林と経済を循環させようと取り組まれています。
※参考:森林・林業白書(平成30年度)第Ⅰ章 5.森林・林業・木材産業や木材の利用に関わる人材
https://www.rinya.maff.go.jp/j/kikaku/hakusyo/30hakusyo/attach/pdf/zenbun-2.pdf 有限会社ウッズ代表の能口秀一さん
森林所有者の顔が見える木材利用からスタート
能口さんは、28年前にIターンで丹波市に移住してきました。「何の当てもなく来て、とりあえず見つけた仕事がたまたま製材所だったんです。成り行きで木材流通や製材の仕事に携わるようになりました」。あるとき丹波市在住の一級建築士 安田哲也さんが、地域の木材について話を聞くために能口さんの務める会社を訪れました。ちょうどその頃、兵庫県県民局から「かみ・裏山からの家づくり」(2002年)という立木販売システムの運用を手伝って欲しいという要請があり、能口さんと安田さんの二人が参画することになります。その後、その成果を実証・研究する任意団体として「加古川流域森林資源活用検討協議会」(2003年)が結成されました。
立木販売システムというのは、住宅建築用木材を森の中に立っている“立木”の状態で分譲し、森林所有者の顔が見える木材利用を推進するためのもので、地域の素材生産業者、製材所、工務店、設計事務所などがプロジェクトに参画していました。「この立木販売システムをsound wood(s)(サウンドウッズ)と名付けました。soundには音という意味の他に健全なという意味があります。その後、2004年に勤めていた製材所を退職して、安田と二人で木材供給と建築設計監理を業務の柱にした有限会社ウッズを立ち上げました。そして協議会の上部団体だった流域林業活性化センターが廃止されたのをきかっけに、協議会の業務を引き継ぐかたちで2009年にNPO法人サウンドウッズを設立しました。ウッズの代表が私で安田が取締役、サウンドウッズは安田が代表で私が副代表になりました。木材活用を通して森とまちをつなぐ仕組みづくりと人材育成に取り組むサウンドウッズ、木材供給という実業の部分に取り組むウッズの両輪で地域材利用に取り組んでいこうとしていました」。
偶然が重なり、製材から森林整備まで業務を拡大
「ウッズを立ち上げたときは、製材設備は持っていなかったんですが、2009年に廃業した製材所をたまたま購入することになりました。最初は製材と木材販売の両立は難しかったのですが、徐々に経験のある人材が集まってきて自社製材をスタートさせました」。ここからウッズは、木材の調達と販売という業態から、原木を調達して製材・加工し木材製品として販売する業態に変化していきます。
そして、次の転機が2017年に訪れます。「地元の財産区の森林整備を依頼されたんです。最初は無理だと断ったのですがいろいろ経緯があって引き受けることになり、人材を集めて森林管理部を設立し林業にも着手するようになりました。最初の年は、森林調査や整備計画立案に費やしました。
どうせやるなら既存の林業とは違う、木材利用の視点から“森林在庫”を調べて、製材と森林と地域をどう組み合わせていったら地域に開かれた森林ができるかを考えていました。とにかく地域の皆さんも巻き込んで一緒に森づくりを考えるべきだと思い、ワークショップを開いたり講習会を開いたり、地域の人が森に興味を持っていただけるように意識しました。ウッズの林業は、森から木材を生産するだけではなく、森を再び地域の人たちの暮らしの一部に戻すことを目指しています。製材と林業を結びつけることで、木材の価値を高め、森林所有者へのフィードバックを大きくできるのではないかと考えました。それが最初のチャレンジです」。
一貫生産体制から見えて来た地域木材の利用方法
ウッズの低温乾燥設備(完成時)
写真提供:有限会社ウッズ
そして、さらに次の転機が2020年に訪れます。「ウッドショックの兆候が出始める少し前に、地元の乾燥加工施設が廃業してしまったんです。それから自社で乾燥機を製作して低温乾燥を始めました。加工については2021年に中古のモルダーを譲り受けることができ、自社一貫体制を作ることができました」。
丹波地域は、歴史ある林業地ではなく、人工林のほとんどは戦後の拡大造林によって植えられたもので、これから1回目の収穫を迎えます。その中で持続的に林業や木材産業を続けていくには、森林の木材生産機能を維持することが課題になります。「森林の価値を高める木づかいをすることが大切です。丹波は大きな林業地ではないし、ウッズも大きな製材所ではありませんから、スケールメリットを生かして効率化を図るようなやり方は向いていません。手間がかかっても、一本いっぽんの木を吟味して、その木の良さを少しでも生かしていくことが必要です。手間をかけると生産スピードは遅くなりますが、その分価値高く使えます。そのバランスをとるのがポイントです」。ウッズでは製材した木材をプレカット工場に出す際に、すべての材に番号を打ち、木裏、木表、天地などを記載し、家を建てた時に柱や梁のこの面がどちらを向くのかをわかるようにしています。「木材の使用場所を指定することで、その木材のいい部分をちゃんと使っていけます。これは見た目だけではなく、構造的なことも考慮してやっています」。
2021年に導入したモルダー
森林在庫を管理し、小さな循環をつくる
ウッズが管理している森林では、作業道開設時の支障木を伐る際や間伐の際に、伐った木を指標木として伐採後に自社に持ち帰り試験製材をして品質の確認をしています。「これをやることで、この山のどこにどんな素性の木がどれだけあるか、森林の立木の在庫をデータ化しています。間伐も選んだ木を伐るのが仕事ではなく、伐った後にその森がどのように育つかを見極め、択伐ができる状況を作ることが大切です。ウッズでは、地域の人が気軽に森に入れる環境をつくるための計画も重ねて進めています。木材生産機能からの転換が必要な人工林の活用は、重要な課題です。地域が主体となり進められるように、作業道を整備しその準備をしています。小規模な製材所が森林を管理して、常に良質な原木を仕入れられる状況をつくり、地域の工務店さんが必要とする木材量を供給できることを目標とした森林整備です。林業だけをやっている人だと、その先にどんな木づかいの提案をするかまでは考えていないかもしれません」。
今後の課題は、今のビジョンを山主と共有し「いい山ができた」と言ってもらえるようになること。「これはひじょうに息の長い仕事になります。そのためにはしっかりと信頼関係をつくっていかないといけない。また、木にこだわった家づくりをしたがっている建て主さんへの情報発信も重要ですね」。
丹波と同じような状況の地域は日本にたくさんあります。そこで小規模な製材所が生き残っていくためには、地域の人たちとの信頼関係を築いた上で一緒になって森林整備を進め、森林在庫を把握し、一手間かけた製材・加工による付加価値の高い木材を供給し、地域の工務店との連携していくことが必要となるのかもしれません。森から家づくりの現場まで、木材の流れをコーディネイトする能力が求められます。
工務店と一緒に実施した「森の見学会」の様子
(写真提供:有限会社ウッズ)
地域の工務店とのパートナーシップによる木材利用
ウッズが供給した木材で建てられたモデルハウス「森の舟」
ウッズとパートナーを組んで地域材を使った木の家づくりしているKOTOS(コトス)株式会社由良工務店 代表の由良俊也さんに、KOTOSのモデルハウス「森の舟」でお話を伺いました。
当社の事業内容はほぼ100%が木造住宅建設でリフォームも手掛けています。その他、建設時に出る端材をつかって家具作りをしています。また今後の計画ですが分譲住宅を販売していく不動産関係の仕事も考えています。会社は昭和40年(1965年)創業で、私が二代目です。
父が大工だったので、その影響で子どもの頃から木に親しんでいました。5、6年前に、工務店として地域のブランドになっていくためには、丹波の地域の木材を使った家づくりをすることが必要だと考え、丹波の木を扱っているウッズさんに行って能口さんとお会いしました。お話を聞いていて、意気投合というか、目からウロコというか…、それまでは何も知らずに、ただ木を使っていましたが、いろいろ知るとさらに木への愛情が湧いてきました。ウッズさんと出会うまでは別の業者さんから木材を調達していましたが、いまはウッズさんにお任せしています。うちのスタッフと打ち合わせをしていただき、図面から木を拾いだしてもらっています。
私が家づくりでいちばんこだわっているのは、大きな開口部です。性能だけを追いかけると、窓は小さい方がいいのですが、丹波は空気がきれいだし、山の景色もきれいです。開口部から入ってくる、光や風、匂い、音などの自然の情報を楽しめる家にしたいと思っています。当社の家づくりに丹波の木とウッズさんはなくてはならないものです。
KOTOSのモデルハウス「森の舟」
丹波の蒼き森の波間をゆく、一艘の舟がコンセプト。住まうことは、生きること。生きることは、旅すること。五感を研ぎ、櫂を握り、日々を渡っていくための、あなたの暮らしを運ぶあなただけの舟です。このモデルハウスに使われている木材はすべてウッズが調達した地元、丹波の木材です。
株式会社由良工務店 代表の由良俊也さん