自然素材にこだわり、無垢材のよさを最大限に引き出す「未来工房」の木の家づくり福岡県久留米市に本社を置く未来工房は、福岡県、佐賀県を中心に無垢の木材や天然素材にこだわった独自の木の家づくりを続けている住宅建設会社です。創業は1997年、今までに約1,400棟の木の家を建てています。今回は2022年2月に竣工した福岡県福津市の中村さんのお宅を訪れ、中村さんご夫妻と設計担当の坂本孝之さんに木の家づくりへの思いや住み心地をお聞きしました。 目次 九州産の無垢材だけで建てる家違和感なく環境や暮らしに馴染み、永く暮らせる家づくり無垢のスギをつかった床の足ざわりのよさに感激自然素材を生かして快適に暮らす無垢材だけで安全性・耐久性を確保木の家づくりでできること
九州産の無垢材だけで建てる家 木造2階建ての中村邸。裏の土手の向こうは海岸。 中村邸が建つ福津市は、福岡市の北西、玄界灘に面した風光明媚な土地です。家の裏の土手を登るとその先は勝浦浜海岸。波打ち際に立つとほぼ180度にわたり水平線が見渡せ、一年を通して水平線に沈む夕日を眺めることができます。敷地にはもともと古い母屋と納屋があり、母屋を解体して更地にした後に新居を構え、納屋はリノベーションして奥様とお母さんがコミュニティカフェを経営しています。周囲は趣のある木造の民家が多く、落ち着いた海辺の町という雰囲気です。 ご主人は、家を建てるなら木の家と最初から考えていたそうです。「自分は田舎育ちで縁側があって大きな座敷のある昔の家で育ちました。社会人になってからはずっとマンション住まいでしたが、やはり木の家に愛着を持っているので家を建てるなら絶対に木の家にしようと決めていました」。奥様は「木の家がいいね!というのは二人の共通意見でした。いくつもモデルハウスを見て回り、その中でいちばん無垢の木や自然素材にこだわっていて、自然が持つ力を信頼した家づくりをしている未来工房さんの考え方に共感しました」。ご主人も「無垢材の構造あらわしは、とても印象に残りました。僕はサーフィンが趣味なので、自然環境のことはとても気にしています。九州の木をつかったり、自然素材をつかったり、環境に配慮した家づくりに好感を持ちました」。 施主の中村さんご夫妻
違和感なく環境や暮らしに馴染み、永く暮らせる家づくり 隣接する古い納屋と違和感のない佇まい 設計を担当された未来工房の坂本さんに中村邸についてお聞きしました。「中村さんのお宅に限りませんが、私が設計をする上でいちばん気にかけているのは違和感が生まれないようにすることです。最初に敷地の周辺を見た時に、周辺の古い民家の町並みやお隣の納屋とのつながりに違和感がないようにしたいと思いました。そこで外装は古くから日本にある伝統的な焼杉をご提案しました」。 焼杉とは、杉板の表目を焼いて炭化させた日本の伝統的な外装材です。表面の炭化した層が被膜になって優れた耐久性を発揮します。「見た目が真っ黒なので好き嫌いが分かれますが、優れた外装材です。天然漆喰を採用した2階の部分の白壁とのコントラストも美しいと思います」。 自然素材をつかうことを大切にしている未来工房は、塗料やワックスも安全性が高く木材の呼吸を妨げないものしか使用していません。焼杉は塗装をしなくても耐久性を高めることができる、自然の摂理にかなった外装材といえます。「構造的な意味でのいい家を建てることも重要ですが、そこに住む人の未来の暮らしを思い描いて家を建てることが大切だと考えています。10年、20年後でも違和感を持たれることがなく、木の家にしてよかったなと思っていただける家づくりをしていきたいですね」。 落ち着いた風合いになる焼杉の外壁 中村邸を設計した未来工房の坂本孝之さん
無垢のスギをつかった床の足ざわりのよさに感激 2階から見たリビングの吹き抜け空間 「中村邸は在来工法で建てた木造2階建てですが、室内に大きな吹き抜けがあり、天井板を張らずに柱や梁などの構造が見えるようにしているのが大きな特徴です。床は一般的に15mm厚の床板をつかうケースが多いのですが、当社では30mm・35mmの無垢材をつかっています。天井、床、構造材もすべて地元・九州のスギ材です。土台はヒノキですが、当社では横架材もスギをつかっています」と坂本さん。 集成材や構造用合板を使わず無垢材だけで大空間や大きな窓を持たせるのは難しいことですが、様々な工夫からそれを可能にしています。その一つが燻煙乾燥です。未来工房の構造材は隣県の熊本県球磨郡産のスギ材で、乾燥させるときに煙で燻すことで木の割れや曲がりを少なくする燻煙乾燥という乾燥方法を採用しています。80度前後の低温で乾燥させるので、木材の中の細胞を壊すことがなく、調湿効果などの木の特性を最大限に引き出すことができるといいます。 床板や屋根板は福岡県の八女で調達したスギ材です。無垢の床材には、一般的にウレタン塗装をすることが多いのですが未来工房は自然塗料しか用いず、木の持っている特性や温かさを活かしています。すべて九州で育った木で、ヒノキ材の土台以外すべてスギ材というのも大きな特徴です。 中村さんの奥様も「出来上がって最初に家に入ったとき、足の裏の床の感触がとても気持ちよかったんです。冬でもずっと温もりがあります。もちろん暖房を消せばだんだん冷えていきますが、するどい冷たさではなく、冷たさの中に柔らかさがある感じです。1年暮してみて、それが木の良さなのかなと感じています」と木の家の住み心地に満足されています。
自然素材を生かして快適に暮らす 蓄熱効果も期待できる溶岩石を敷いた土間スペース 木造住宅で快適な暮らしを実現するために気になるのが断熱性能です。住宅の断熱材というとグラスウールを外壁と内壁の間に入れるのが一般的ですが、未来工房は羊毛100%の断熱素材をメーカーと共同開発して、改良を重ねて採用しています。「1階の床下と外周壁に羊毛100%の断熱材を入れています。性能はグラスウールと遜色はありません。自然素材の羊毛は、断熱効果だけでなく調湿効果があるのが大きな違いです。九州北部は高温多湿な気候なので、調湿効果がないグラスウールだと結露する可能性があり、室内側に防湿気密シートを貼って室内の湿気が入らないようにします。羊毛は調湿効果があるので貼る必要がありません」と坂本さんは羊毛100%断熱材のメリットを説明します。 壁の中で結露が発生すると、その水分が溜まって土台や構造材を腐らせてしまうこともあります。しかし羊毛100%断熱材なら結露しないので、家を長持ちさせることができます。また、羊毛は消臭効果や防音効果もあり、天然素材なので有害物質が発生することもありません。ご主人は「断熱性が高いので夏もクーラー1台で過ごすことができました。窓を大きくとってもらっているので、自然の風が入ってくるし、天井板がないので屋根裏部屋的な遊びの空間があってもとても楽しいです」と新居の魅力を語ります。 写真提供:未来工房 写真提供:未来工房 写真提供:未来工房 床下や壁には羊毛100%の断熱材を入れています写真提供:未来工房
無垢材だけで安全性・耐久性を確保 無垢材の床面の強度実証試験写真提供:未来工房 午後からは福岡県の久留米市にある未来工房のモデルハウス「温故知新」に場所を移して、未来工房の金原さん、片多さん、三城さんから九州職業能力開発大学校(九州ポリテクカレッジ)と共同で進めている無垢材構面の強度実証実験や木の家づくりで大切にしていることをお聞きしました。 片多さんは「熊本地震があってから、永く住み続けていただくには耐震性能にもしっかりエビデンスをとっていかなければいけないと考えました。未来工房は無垢材、天然素材の家づくりを進めていて、接着剤をできるだけ使いたくないので構造用合板や集成材を使わずに、無垢材だけでどうやって耐震等級を満たす性能を持たせるかが大きな課題でした。そこで木造の構造に詳しい山辺構造設計事務所の山辺豊彦さんのご指導の下に、九州職業能力開発大学校(九州ポリテクカレッジ)と共同で研究と実験をつづけています」と話します。 三城さんは「二階の床面に、今までは910mm間隔で梁を入れていたのを455mmのピッチに改め、固定するためのビスも構造用ビスに変更するなどの改良を重ねています。その結果、従来の約3倍の強度を持たせることに成功しました」と実験の成果を教えてくれました。片多さんは「構造用合板やCLTを使えばもっと簡単にできるのですが、私たちは調湿効果や見た目の表情など無垢材のもつ様々な利点を生かした家をつくろうと思っています。自分たちのいちばんの強みである無垢材で、どこまで強度を担保できるか、これからも実証実験を続けていきます」と話しました。 左から未来工房の三城崇裕さん、片多和也さん、金原望さん
木の家づくりでできること モデルハウス「温故知新」の構造あらわし 「未来工房の家づくりで大切にしているのは、いつまでも心地よく安心して暮らしつづけることができることです。人が感じる心地よさにはたくさんの要素がありますが、目に入る光や音、肌ざわりや匂いも大切な要素です。九州で育った木材や自然の素材をつかって、断熱性、蓄熱、耐震性、省エネなどを工夫と技術でクリアし、この土地の気候風土を知る先人の知恵を組み合わせて本当の快適さを持つ家をつくっていきたいと思っています」と金原さんはおっしゃいます。 片多さんは「ここ10年ほどの間で、家を建てる人の考え方に変化が見られます。コロナ禍もあって家にいる時間が増え、家に対する価値観も変わってきたのでしょう。お子さんが成長してからもずっと住める家にしたいと、長いスパンでものごとを考える人が増えてきているように感じます。しっかりした考えの下に建てられた木の家は、そのニーズに応えることができます。僕たちがずっと続けてきた木の家づくりが、やっと時代とリンクするようになったと感じています」と未来への展望を述べました。 未来工房は、その土地で育った木を無垢のまま使い、様々な自然素材を巧みに利用して、高温多湿な北部九州の気候でもさらっと快適に暮らすことができる家づくりに取り組んでいます。地域の木材を活用することは、環境にも、地域経済にもいい効果を与え、持続可能な社会づくりのための重要なファクターとなるでしょう。 モデルハウス「温故知新」の吹き抜け空間
Story 外構・外装木質化による新たな木材利用の可能性 地場産スギ材でつなぐ、家族の思いと地域林業の未来 長野県産スギ材で建てた、住み心地のいい木造住宅 鹿児島県産材をふんだんに使った木造施設で地域の未来の生き方を切り拓く小浜ビレッジ おすすめ記事 はじめてのウッドフェンス&ウッドデッキのメンテナンス 木を使うことで、日本の自然と社会が豊かになる。子供たちへのメッセージ カテゴリー SDGs エクステリア 木の家 木の街づくり タグ ウッドデッキ ウッドフェンス オフィスビル グランピング 開発秘話 学校・保育園 古民家 公園 公共スペース 雑誌掲載 対談 木の家具 木の雑貨 木の中高層建築物 木造住宅 遊具 JAS構造材 エリア 全国 北海道・東北地方 関東地方 中部地方 近畿地方 中国地方 四国地方 九州地方