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日高産広葉樹の有効活用を試みる
ひだか南森林組合の新たなチャレンジ
北海道、道央南部の日高地方は、西側に太平洋、東側に北海道の背骨にあたる日高山脈が連なり、平取町からえりも町までの7町にまたがっています。面積は和歌山県や福岡県とほぼ同じで、その8割が森林です。そして、その森林の6割を天然林が占め、ミズナラ、シナノキ、ハリギリ(別名センノキ)、エゾヤマザクラ、カツラ、ヤチダモ、ニレノキ、カンバなどの広葉樹が自生しています。ひだか南森林組合は、2020年から北海道木材産業協同組合連合会(全木連)と連携し、豊かな広葉樹の利用拡大に取り組んでいます。組合長付専務の盛孝雄さんにお話を伺いました。
バイオマスチップ生産が組合の主力事業
自走式の大型木材破砕機(チッパー)
ひだか南森林組合は、廃校になった小学校の校舎を事務所に使っています。敷地のすぐ隣が海岸という、おそらく日本でいちばん海に近い場所にある森林組合です。組合の事業内容は、森林整備・治山事業とバイオマスチップ生産の二つが主力です。2015年に日高地域木質バイオマス資源利用推進協議会が設立され、ひだか南森林組合を中心にバイオマスチップ生産のシステムが構築されました。
近隣の町や森林組合から伐採されたチップ用原木は、ひだか南森林組合に集積されバイオマスチップに加工されています。生産されたチップの大部分はバイオマス発電用として江別や苫小牧のバイオマス発電所に供給されています。また、一部は浦河町役場や消防署、温水プールの暖房用として利用されています。
盛さんは「鵜苫(うとま)小学校が2011年に様似小学校に統合され、廃校となった跡地に森林組合の事務所を移転し、自走式の大型木材破砕機(チッパー)を導入してバイオマスチップの生産を始めました。発電用チップはチッパーで粉砕したものをそのまま出荷し、暖房用チップは小学校の25mプールを改修した乾燥場で含水率30%になるまで、約1ヵ月間乾燥させてから出荷しています」と説明します。
- 北海道の南に位置する日高地方
25mプールを改装したチップ乾燥場
「もったいない」から始まった広葉樹活用への取り組み
直径60cmぐらいまでの原木を製材できる傾斜式製材機
日高地方は昔から広葉樹の資源が豊富で、終戦後から昭和40年代までは欧州やアメリカに家具材や壁材、フローリング材として大量に輸出されていました。現在では以前に比べ大径の広葉樹は数が減ってしまいましたが、それでも間伐や皆伐時に山からチップ用原木に混じって出てきます。
あるとき組合を視察に来た方がそれを見て「これをチップにして燃やしてしまうのはもったいない」と言ったのを組合長の小野哲弘さんが聞きつけ、大径広葉樹を燃やさずに利用する方法はないだろうかと考え、木工をやっている人や一般の人がDIY用に買い求めやすいに加工して販売することを計画し、直径60㎝ぐらいまでの大径木を製材できる製材機を組合に導入しました。
「チップ用として集めた原木の中から素性のいい広葉樹を選別して製材機で長さ2m40㎝、厚さが5mmと3mmの原板に加工しています。乾燥設備はないので、自然乾燥のままです。家具などをつくる場合はお買い求めになった人が乾燥機に入れるなどしていただければと思います。導入した製材機は、傾斜帯鋸盤と傾斜送材車を組み合わせて使うもので、鋸で挽いた面が斜め上になるので木肌を確認しやすい利点があります」。
組合長付専務の盛孝雄さん
大反響があった札幌駅前通地下広場での展示即売会
2階の日高産広葉樹展示場
森林組合では、2階の教室だったスペースを広葉樹原板の展示場として開放し、日高産広葉樹の原板の販売を開始しています。展示・販売している主な原板は、ヤチダモ、アサダ、キハダ、ホオノキ、ミズナラ、センノキ、シラカバ、エゾヤマザクラ等で、内装材や造作材、家具や建具材、壁材、彫刻、まな板など様々な用途に使うことができます。「展示場には誰でも自由に入ってきて、現板を見て購入していただけます。買いに来るのは近隣の木工作家さんが多いですね。最近、平取町からアイヌ工芸をやっている方が木を見に来てくれました」。
また、札幌のチ・カ・ホ(札幌駅前通地下広場)でも展示即売会を2回開催しました。「札幌で展示即売会をやっても買う人はいないだろうと思っていましたが、少しでも日高産広葉樹のPRになればと、エゾヤマザクラ、タモ、イタヤ、ニレ、センノキ、ホウノキなどの原板を、持ち運びやすいように長さ1m20㎝の厚さ3cmに加工して50枚ほど持っていきました。しかし予想を裏切る大反響で持って行った50枚は完売してしまいました。
ひだか南森林組合の事務所
広葉樹活用が広がると共に職員の意識も変化
展示即売会で原板を買った方に用途を聞くと特に目的があるわけではなく「猫が昼寝をする場所をつくりたい」、「めずらしいから何となく持っていたい」という声が返ってきたそうです。「広葉樹の原板は、一般の方が目にすることがなかったので珍しいということもあるのでしょうが、暮らしの中に北海道の木を取り入れたいという気持ちもあるのではないかと思います」と盛さんは話します。
また、「山で木を伐っている職員にも展示即売会に来てもらったんです。今までは人工林の針葉樹にばかり目がいっていて、チップぐらいしか用途がないと思っていた広葉樹が飛ぶように売れるのを見てとても驚いていました。それ以来、現場で広葉樹の伐採に気を遣うようになったようです。我々も建築用材としては欠点だとされていた曲がった材や変色した材をあえて欲しがる人がいるのを知って意識が変わりました」と予想外だった反響に驚いたようです。
また、個人の買い手だけでなく企業とのお取り引きも始まっています。「大阪のある会社が定期的に買い付けてくれて、2ヶ月に1回ほどトレーラーで出荷しています。他にも特定の樹種をトラック1台分欲しいという問い合わせも来ています」と成果は徐々にでているようです。
山を荒らすことなく広葉樹を利用していきたい
原板に製材された広葉樹
「当組合で広葉樹の利用促進を始めたのはチップにして燃やしてしまうのがもったいないと思ったのがきっかけですが、もう一つ、日高産の広葉樹のことを一般の方に知ってもらい、道産材に関心を持って欲しいという気持ちがありました」。
盛さんに広葉樹の魅力をお聞きすると「針葉樹と違って、木によって色合いも匂いも違い、それぞれの個性があります。いろいろな顔を持っているのが魅力だと思います。しかし売れるからといって広葉樹を一度にたくさん伐って山を荒らしてしまうようなことはしたくありません。通常の間伐や皆伐の業務で山から出てくる広葉樹を、燃やしてしまうのではなく、その価値を見出してくれる方にお売りしてモノづくり等に役立てていただきたいと思っています」。
日高地域木質バイオマス資源利用推進協議会は、チップ用原木や林内残材を使用するルールを定め、伐採後再造林されなかったり、残材が大量に伐採跡地に放置されたりすることを防いでいます。「もったいない」をきっかけに始まったこの取り組みが、道産材の多彩な魅力を人々に伝え、新しい木材利用のきっかけになればと思います。
組合長付専務の盛孝雄さん
ひだか南森林組合
所在地 北海道様似郡様似町字鵜苫201番地
電話番号 0146-36-2031
北海道木材産業協同組合でも、ひだか南森林組合と2020年から連携し、日高産広葉樹の一部を家具、木工品、建具、内装、DIYなどに使っていただきその価値を高める新たな取り組みを始めています。
北海道木材産業協同組合連合会(外部リンク)
https://doumokuren.jp/
※人物写真は、撮影時のみマスクを外して撮影しています。