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製材所の挑戦!SDGsを掲げてSNSで情報発信
県産材の販路拡大に取り組む瑞穂木材
長野県木島平村の瑞穂木材株式会社は、2023年に創業70年を迎える地域の実績ある製材所です。一時期はロシア材、ベイマツなど輸入木材の製材が中心でしたが、15年ほど前から県産材中心にシフト。一昨年からSDGs(世界を変えるための17の目標)をキーワードにSNSで情報発信を行ったり、木育事業を展開したり、地域の工務店と積極的にパートナーシップを組むなど、今までの製材会社にはなかったユニークな手法で県産材活用推進に取り組んでいます。今回のレポートは、瑞穂木材社長の宮崎正毅さん、専務取締役の宮崎淳貴さん、パートナー工務店の松村デザイン建築事務所代表の松村大介さんにお話を伺いました。
15年前から県産材の製材にシフト
カラマツの2×10材を製材中
瑞穂木材社長の宮崎正毅さんに、瑞穂木材の概要をお聞きしました。「当社は、1948(昭和23年)年に飯山市瑞穂地区で宮崎製材所として創業して、1953年(昭和28年)に木島平村に移転して瑞穂木材株式会社と社名を変えました。創業当時は社内にがいて、山主さんからをして、木を伐って製材しそれを地元の大工さんに販売する地産地消の製材所でした。
その後、ロシア材、ベイマツなど輸入木材の製材事業に移行し、10年前から国産材に再転換して、現在は北信エリアのスギやカラマツの製材を中心に行っています。年間の製材量は5,000立米ほどです。9割が県産のスギで、残りの1割がカラマツです。カラマツは2×10のJAS認定を取得しています。現在、製材機が2台、乾燥機が3台、モルダー、ツインリッパ―、グレーディングマシン、木屑ボイラーなどの設備があります」。
国産材にシフトした経緯をお聞きすると「外材では大手製材会社に太刀打ちできないという事情もありましたが、やはり木材は地元の材を使って地元で家を建ててもらうのがいろいろな意味でいいだろうと考えました。しかし、県産材を買ってくださいと営業に回っても、なかなか売り先が見つからなくしばらくは苦戦しました」。
瑞穂木材社長の宮崎正毅さん
流れを変えたSDGsというキーワード
山積みされた県産スギの原木
現在、専務取締役として瑞穂木材の事業をリードしている宮崎淳貴さんは、大学卒業後、住宅建築用資材大手販売会社で経験を積み、2012年に瑞穂木材に入社しました。入社当時は、もう製材事業はだめではないかとも思ったそうです。「社長からは実績をつくらないと部下はついてこないぞと言われ、まずは営業に力を入れました。その頃は製材所が稼働しない日も何日かあるようになり、いっそ製材部門をなくして木材販売だけにしてもいいのではと思ったこともあります。
そんなときにSDGs(世界を変えるための17の目標)という言葉に出会い興味を持ち青年会議所や長野県木材青壮年団体連合会でいろいろ学びました。あるとき瑞穂木材の事業内容を発表する機会があり、自社の事業内容に、該当するSDGs、17のゴールのアイコンを当てはめてSDGsの視点から事業内容を説明してみたんです。それが注目を集めて、SDGsを知っている人たちからは、とてもいい試みだからそれで突き進めと言っていただき、もしかしたらSDGsを掲げることで、県産材に対する価値を高め販売につなげることができるかもしれないと考えました」と話します。社長の正毅さんも「それまでは安く仕入れて安く売ることばかり考えていました。専務が価格だけではない県産材の価値を訴えたことで、何かが変わっていったように思います」。
モルダーによる仕上げ作業
Column
木育からスノーボードまで、製材所らしくない瑞穂木材の取り組み
瑞穂木材は、木育事業にも取り組んでいます。その一環として新潟の仏壇屋さんに依頼して県産スギのお名前積み木を制作。また木島平村のスノーボードビルダー「木島板工房」と協力してスノーボードを開発、林内に捨てられている枝払いした枝のスギの葉からアロマオイルを抽出して商品づくりをするなど、およそ製材所らしからぬ様々な取り組みに挑んでいます。さらに長野県のプロバスケットボールチーム「信州ブレイブウォーリアーズ」のキーホルダー等のグッズ開発も進めています。
淳貴さんは「本業とは関係がないように見えますが、関係人口を増やして少しでも木のことを知ってもらいたいという気持ちで取り組んでいます」と話します。
1年かけて社員全員にSDGs研修
出荷を待つ柱材
淳貴さんは、2019年に創設された長野県SDGs推進企業登録制度の立ち上げにも尽力しました。しかし、自社の登録申請はすぐにしませんでした。その理由を淳貴さんは「自分だけがSDGsをわかっていてもだめだと思いました。社員一人ひとりが理解して、志を共有することが大事だと考えました」。
瑞穂木材では1年間、社員に対してSDGs研修を実施しました。「製材業界では、製材機を止めて社員研修をやることは今までなかったと思います。それでも社員みんなで取り組むことが大切だと考えました。幸い、当社には自分と同年代の社員が何人かいて、若い人には僕の言葉が届きやすかったです」。しかし、SDGsをどう仕事に結び付けるかは課題も多く、そもそも自分は何のためにこの仕事をしているのだろうと半年近く考えたそうです。
「最終的には、この土地で生まれ育ったことが大きかったです。製材所に生まれた自分は、山の人が伐った木を製材し、それを地域の大工さんが家を建てるために買ってくれたことで生活できていましたから、山の木を製材することで商品価値を高め、地域の工務店さんがその木材を使って地域の人たちの家を建てる。そうすることで山の人たちにも利益を還元できて地域全体がよりよくなっていく。そのために僕らが存在しているという考えに辿り着きました」。淳貴さんはその想いを届けるためにSNSを活用しようと考えます。
専務取締役の宮崎淳貴さん
SNSで想いを発信してみた
淳貴さんは2021年7月からInstagramとFacebookで情報発信を開始。さらに2022年3月からはYouTubeでミズモクちゃんねるを開設。また、若い世代に向けてTikTokで瑞穂木材で働きたいと思ってもらえるような投稿を行っています。
「周囲からはお前、暇だな?と言われましたが、自分にしかできない仕事だと思ったので突き進みました。昔から地域の木を使えば、その地域の山や製材所が潤い、地域経済も回っていくと言われていましたが、ちょっときれいごとを言っているように聞こえていて、現実は他より安く仕入れて、他より安くすて売るという商売をしていたと思います。SDGsという考え方が出てきたことによって、地域の木材を使うことが製材屋のためだけでなく、地域の環境や経済をよくするためだ、ということを堂々と言えるようになりました。なので遠回りになるかもしれないけどSNSを使って発信していこうと考えたんです」。しかし、その反応は予想外に早く訪れます。SNSを見て、同じような志をもつ工務店から一緒に取り組みたいという連絡が入ってきました「SNSをやったことが大きなきっかけになりました。今は北信エリアを中心に上田市や長野市の工務店さんともパートナーを組ませていただき、県産材活用に取り組んでいます」。
【パートナー工務店の声】
工務店の想いにパートナーとして応えてくれる製材会社
瑞穂木材で調達・製材した県産材をふんだんに使った「丁寧に暮らす家」。
設計・施工・写真提供:松村デザイン建築事務所
淳貴さんが取り組みを進める上で、大きな励みになったのが松村デザイン建築事務所の松村大介さんの存在です。松村さんは、光や風といった自然エネルギーを最大限に活かすパッシブ設計をドイツで学び、高断熱・高気密・高耐震+計算された換気計画によってより少ないエネルギーで永く快適に暮らせる家づくりに取り組んでいます。瑞穂木材とパートナーを組もうと思った理由をお聞きしました。
「当社も家づくりを通じてSDGsに取り組むという共通点があったので、一業者としてではなく仲間として同じ取り組みをしていこうと思いました。瑞穂木材さんも同じ考えを持っていて、パートナーとして、一緒に考え提案をしてくれます。家づくりはたくさんのプロの力を結集して行うものです。元請け、下請けという関係ではなく、同じ目線を持ったパートナーとしてでないと、施主様に喜んでいただける家づくりができないと考えていたので、瑞穂木材さんはその想いに応えてくれています」。
専務取締役の宮崎淳貴さん(左)、松村デザイン建築事務所の松村大介社長(右)
木材サプライチェーンを意識した関係づくり
瑞穂木材の本社社屋
瑞穂木材では、パートナー工務店と一緒に、お施主さんと山の伐採現場を訪れるツアーも企画しています。社長の正毅さんは「外材から県産材にシフトしたことで森林組合さんとのつながりが強くなりました。さらに長野県が募集している「意欲と能力ある林業経営者」に認定された会社の若者とも新たにつながりができ、今後は森林組合さんの原木市場だけでなく山から直に原木を調達する試みも始めようとしています。
「森林組合さんは絶対量がありますが、林業経営者さんは小回りが利くので、両者の良さを生かして原木調達することで工務店さんのニーズにもっとお応えすることができると思います」。淳貴さんは「SDGsを武器に、新しい木材販売への道が開けたと思います。今後は工務店との連携で必要な木材の量を山側へ伝え、山側からも供給可能な木材の量を把握することで、木材のサプライチェーンを活性化させられればと思います。それには関係者が情報をオープンにしていくことが必要ですね」。
SDGsという考え方から価格だけに捉われない県産材の価値をアピールしたことで、地域の製材会社と工務店がパートナーとしてつながり、さらに林業会社とも連携を拡げ持続可能な地域材活用を目指す瑞穂木材の今後の取り組みに期待したいと思います。
伐採現場を見学するツアー
写真提供:瑞穂木材