加圧注入処理と保護塗料に熱圧加工処理を加えて 過酷な環境下での外構木質化促進の未来を占う実証実験株式会社saiブランドは、水辺、海辺に使用される建材や製品の提供、様々な外構の設計・施工、ならびに木造構造物の劣化診断などを行っている会社です。2年前に本社を沖縄県糸満市に移転し、木造の新社屋を建設。今回は、木材劣化の実証実験を兼ねてウッドフェンスとウッドデッキを新設しました。風や陽射しが強く、木の外構にとっては過酷な環境の沖縄で実証実験を行い、国産材の利活用拡大につなげていきたいと話す施主の結城拓士さんと設計・施工、木材調達を担当した物林 株式会社 環境・景観事業部の前田広紀さんにお話を伺いました。目次:・国産木材による木質化促進の可能性を検証・沖縄の自然環境に国産材はどこまで耐えられるか・3タイプのウッドフェンスで耐久性、デザイン性を検証・地域の人々の交流の場になるユニークなウッドデッキ・耐久性・耐候性向上にも期待できる熱圧加工処理・ショールームと実験室を兼ねる外構設備・付加価値を高め、木材利用の需要を拡げる 360°パノラマビューで見る
国産木材による木質化促進の可能性を検証 敷地の海側を塀で囲い、“舞台”をコンセプトとしたデッキを設置 沖縄県の南部にある糸満市、名城ビーチの近くにsaiブランドの本社があります。モダンな木造社屋の隣には、ユニークな形の大きなウッドデッキと敷地を囲むウッドフェンスがありました。saiブランドの代表取締役で木材劣化診断士でもある結城さんに設置の経緯をお聞きしました。 「木は、二酸化炭素を吸収して酸素を出し、それ自体が資源となって家や家具やいろいろな製品になっていく、そういう循環性が好きで木に関する仕事にずっと取り組んでいます。2年前に沖縄に本社を移転しましたが、沖縄の住宅はほとんどが鉄筋コンクリート造なんです。戦前は木造でしたが戦争で灰塵に帰し、戦後の米軍統治下で、台風などの風雨被害に強い鉄筋コンクリート造が主流になりました。高温多湿な気象環境で台風も多い沖縄で防腐・防蟻処理、保護塗装に加え、表面硬度が上がる熱圧加工処理を施した木材でフェンス、デッキをつくりその耐久性を検証し、さらに意匠面での効果なども検証していくことで、沖縄でスギなどの国産材利用促進につなげていきたいと考えています」。 木材劣化診断士でもある施主の結城さん
沖縄の自然環境に国産材はどこまで耐えられるか 都会の風景にもマッチするスマートな印象のウッドフェンス 敷地の海側に建てられたウッドフェンスは延長38m。一見、同じ構造の縦格子の塀ですが、実は3タイプの塀が設置されています。その狙いを物林の前田さんにお聞きしました。「いま、地震などで倒壊しやすいブロック塀、コンクリート塀から軽量な木柵、木塀が見直されています。しかし耐久性の問題や意匠が単純でデザイン性が欠けるという課題があってあまり事例が増えていないのが現状です。 そこで都市部でも設置しやすい構造と意匠を検討し、JAS性能区分K4相当の処理をしたスギ材に2種類の造膜型水性塗料を使い分け、それぞれの耐久性の比較検証を行うことにしました。沖縄県では森林面積に対するスギ、ヒノキが約0.3%しか植えられておらず、一般には流通していません。そこで沖縄と距離が近く、定期的な船便も出ている鹿児島県から鹿児島産のスギを調達し、鹿児島で加圧注入や熱圧加工の処理を行いました」。 設計・施工、木材調達を担当した物林(株)の前田さん
3タイプのウッドフェンスで耐久性、デザイン性を検証 断面が平行四辺形の材を使用し、目隠し効果を高めた 塀の柱には鋼材を採用し、基礎はコンクリートではなくsaiブランドが開発した“螺杭”(http://www.sai-brand.jp/products/screwpile/)という鋼管杭を採用して施工の簡易化、工期の短縮を実現しています。同じように見える縦格子の塀ですが、一つ目は板の間を開けたスマートな見え方で野暮ったい木の塀のイメージを打破しました。二つ目は断面が平行四辺形の材を使い、目隠し効果を考慮したもの。三つ目は板の表面に凹凸波型の模様をつけデザイン性をより高めた塀をつくりました。さらにその隣に再生木材を使った塀をつくり、夏の炎天下で木の塀と表面温度の比較をしようとしています。K4処理材を使っていますが、高温多湿で陽射しが強い沖縄の気候を考慮して造膜型水性保護塗料を3度塗りしました。また2種類の塗料を塗り分け、どちらの塗装が長持ちするか検証ができるようにしています。 設置場所は海岸に近く、台風時には猛烈な強風が吹きます。そこで風速60mを想定して構造計算を行い、風を受ける面積が広い2つ目のタイプの塀は、横桟の太さを変えています。また木口から雨水が浸み込むのを防ぐため金属製の笠木で覆いました。板はビス留めとし、万一傷んだ場合は簡単に交換できるようにしてあります」。 表面に凹凸加工を施し、沖縄の波をイメージ
(左)板は、交換が容易なビス留め (右)板金で塀の上部を覆い雨水が木口から浸み込むのを防ぐ (左)斜めから覗きにくくし目隠し効果を高める (右)2種類の保護塗料を使い、耐久性を検証。また、風を受けやすいので横桟を太くしている (左)表面に凹凸加工を加えデザイン性を高める (右)再生木材を使った塀を右側に併設。無垢材と夏の表面温度の差などを検証する
地域の人々の交流の場になるユニークなウッドデッキ ウッドデッキは、近隣の人たちが三線や民謡の練習や披露の場としても活用 “舞台”をコンセプトにデザインしたウッドデッキには、スロープや、客席にもなる渡りデッキ、ステージとなるメインデッキ、ステージからの退路となる階段など、利用する人の導線を意識したつくりになっています。結城さんは「沖縄には余興文化があって結婚式などで三線や民謡、踊りを披露する習慣があります、それを練習するための“舞台”が各地域にあるそうです。このデッキも地域の人たちが交流の場として活用できることを考慮して計画しました」と話します。 デッキの構造について前田さんにお聞きすると「基礎はフェンス同様に鋼管杭とし、主構造は鋼材とし大引きは溶融亜鉛メッキ処理をしたH鋼材を使用し強度と長寿命化を図っています。使用した木材はフェンス同様鹿児島県産のスギ材に加圧注入処理したK4相当の処理材を使い、表面に熱圧加工を施しているのが特徴です。メインデッキは地上から600mm高くしデッキ下を仮の資材置き場として利用できるようにしています。メインデッキの正面の渡りデッキは、観客が座って舞台を見ることを想定しているため、強度確保と意匠性を考えてあえて角材を使用しています。強度があるので束柱の数も減らせ構造がシンプルになるという利点があります。芯持ちの角材を使っているので割れから水が浸透する心配もありますが、その場合は角材ごと交換すればいいという考え方です。 スロープは、あえて地面に接するようにつくりました。これも劣化の具合を検証するためです。また退路の階段とそれに続く渡りデッキには熱圧加工をせず、熱圧加工をした部分との経年変化を比較検討できるようにしてあります」。 基礎は鋼管(螺杭)とし、主構造は鋼材で長寿命化を図る 大勢の観客が座ることを想定した渡りデッキには角材を使用 渡りデッキに上がるスロープの末端は、耐久性を検証するため、あえて接地させている 大引き(梁)は溶融亜鉛メッキ処理したH鋼材
耐久性・耐候性向上にも期待できる熱圧加工処理 右側は熱圧加工した材、左側はしていない材 木材の熱圧加工について前田さんにお聞きしました。「熱圧加工は“木材表面加工機ヒートローラ”で木材表面に200℃の熱と圧力を加え、木材の表面組織を密にすることで硬度や強度を高くし、さらに木材の油分が表面にでることでコーティングされ艶を出す処理です。このプロジェクトを行う前に当社で表面硬度測定試験※を依頼したところ硬度が、ヒノキで約2倍、スギで約1.5倍に上がっていることが確かめられました。また表面に傷がつきにくいことも検証できたので、耐久性、耐候性の向上が期待できます。今回のプロジェクトでは、従来から採用されている加圧注入処理と保護塗装に加え、熱圧加工を施した木材を高温多湿で陽射しが強い沖縄の自然環境下で外構に使用し、その性能を検証することにあります。そこでよい結果が得られれば、沖縄での国産材利用した木質化促進に向けて大きな弾みになると思います」。 ※鹿児島県立工業技術センターにてJIS Z 2101「木材の試験方法」21 表面硬さ(ブリネル硬さ)の測定を実施
ショールームと実験室を兼ねる外構設備 計測器を設置し、紫外線量や日射量も測定している 沖縄における木材の利用促進検証を目的としたこのプロジェクトでは、耐久性や劣化に関する科学的なデータを集めています。結城さんは「京都大学大学院農学研究科の藤井義久教授の研究室と協力して木材の保存処理や塗装などの暴露試験をしています。使用した木材と同様の保存処理をした試料を現場に設置し、温湿度、日射量、紫外線量、風速などの環境量を測定できる計測器を設置して観察中です。試料は半年毎に藤井教授の研究室に送られ木材表面の劣化具合を測定し、環境量データとの相関を導き出すために、現在も継続して計測を行っています」。 今後のメンテナンスや外構の利用方法を結城さんにお聞きすると「私自身が木材劣化診断士なので、ある意味、毎日チェックします。今回は熱圧加工の耐久性を検証することが目的なので、時間をかけて経過を観察していくつもりです。フェンスに関しては塗装が褪せたり剥げ落ちたりしてきたら塗り直しを検討します」と答えられました。 保存処理、保護塗料などを施した木材の暴露試験
付加価値を高め、木材利用の需要を拡げる 写真提供:株式会社 saiブランド 結城さんにこれからの利活用についてお聞きしました。「ウッドデッキは、地域の方々にも利用していただく舞台をコンセプトにしているので、今後、さまざまなイベント的なことを実施していきたいと思います。今、メインステージにはテントを設置していますが、グランピングのようなこともできればと考えています。ウッドフェンスは、何種類かの構造や意匠を用意しているので、その耐久性・耐候性を検証していくとともに、ショールーム的な役割も考えています。いろいろな方に実際に見て、触っていただいて沖縄でも、こうすれば木の外構を長持ちさせて使って行けることを知っていただき、国産材活用促進に役立てることができればと思っています」。 地域住民の交流の場でもあり、耐久性・耐候性やデザイン性の検証を行う場であるsaiブランドのウッドフェンス&ウッドデッキ。耐久性や意匠性の向上は、木材の付加価値を高め新しい用途や需要を広げることも可能です。この実証事業の今後の展開と成果がとても楽しみです。
令和3年度 外構部の木質化支援事業(企画提案型実証事業) 沖縄県・木質化普及に向けた熱圧加工処理による耐久性及び意匠性検証事業 株式会社saiブランド(沖縄県糸満市) http://www.sai-brand.jp/ 物林株式会社(東京都江東区) https://www.mbr.co.jp/ ※人物写真は、撮影時のみマスクを外して撮影しています。
Story 木の街づくりTALK 「都市(まち)の木造化推進法の目的と今後の展開」(前編) 木の街づくりTALK 「都市(まち)の木造化推進法の目的と今後の展開」(後編) 360° 加圧注入処理と保護塗料に熱圧加工処理を加えて 過酷な環境下での外構木質化促進の未来を占う実証実験 生け垣からウッドフェンスへ。ウッドタウンならではの悩みを解消!