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- 子どもたちの健やかな育ちに寄り添う飫肥杉の大径材を活用した大型木製遊具
子どもたちの健やかな育ちに寄り添う
飫肥杉の大径材を活用した大型木製遊具
宮崎市南部の木花地区は、宮崎市に22ある地域自治区の一つで、海と山に囲まれた豊かな自然に恵まれた地域です。木花こども園は「よく食べ、よく遊び、よく眠る」をモットーに、子どもたちの健やかな心と体を大切にしている幼保連携型認定子ども園。この1月に大型木製遊具が完成し、園児たちを喜ばせました。遊具の企画、設計、施工に関わった方々からお話をうかがいました。
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木の遊具は、五感を通じて感性を磨く
巨大なパーゴラに覆われた木の遊具
何本もの太い柱に支えられた印象的なパーゴラが、遠くから目に付き、近づくとその大きさに改めて目を見張ります。施主である木花こども園の園長、吉田かおるさんに大型木製遊具の建設に至る経緯をお伺いしました。
「2年前に木製の遊具とウッドデッキをつくったのですが、そのときの木に対する子どもたちの反応に驚かされました。今の子どもたちはプラスチック製のおもちゃや電子音が鳴るようなおもちゃに囲まれて育ってきていますが、木の遊具やウッドデッキで自然にごろごろ寝転んだりすり寄ったりしているのを見て、木は子どもたちの育ちにきっといい影響を与えると思い、これからも木の遊具を増やしていきたいと思っていました。そうしたところいい機会に恵まれ2年前につくった遊具に併設するかたちでさらに大きな木の遊具をつくりました」。
木花こども園を運営する社会福祉法人 木花福祉会 理事長の山路政里さんは「子どもたちが自然物に触れ、五感を通じて感性を磨いていけるのが木の遊具の魅力です。自然物の中で私たちの暮らしにいちばん身近なのが木という素材だと思います。木という素材は、子どもの育ちの環境の中にもっともっと活かされるべきだと思います」と話します。
木花こども園 園長の吉田さん
形容詞をたくさん使える子どもに育って欲しい
子どもたちは思い思いに遊びまわります
子どもたちにとって、木製の遊具はどんなな魅力や保育上での効果があるのでしょう。園長の吉田さんにお聞きしました。
「木材は、鉄やプラスチックなどの素材に比べ熱伝導率が低いので、夏でも熱くなりすぎず、冬でも冷たくなりすぎず、手触りがやさしいのが魅力ですね。木の色や光沢が子どもたちにソフトな刺激を与えてくれると思います。今回の遊具は宮崎の杉を使っていますが、杉の香りには鎮静効果があるといいますし、感触もやわらかく、子どもたちが安心して遊ぶことができると思います。
新しい木の遊具が完成してからまだ日が浅いのですが、子どもたちが遊んでいるのを見ると明らかに変化がみられます。子どもたちの間での会話が多くなっていますし、私たちが思いつかなかったさまざまな遊び方を工夫しています。木という自然の素材に触れて遊ぶことで、柔らかな言葉遣いができる子どもに育って欲しいと思います。形容詞をたくさん使える子どもに育てるというのが私の願いの一つなんです」。
木のトンネルでゆったり
二重、三重の腐れ対策を施し安全性・耐久性に配慮
柱は大黒柱に使う七寸角(210×210㎜)の芯去り材
遊具の設計から木材の調達、施工まで一手に引き受けた堀正製材・建設の堀内さんに木製大型遊具をつくる際に配慮した点についてお聞きしました。
「遊具は安全であることが第一条件です。さらに木の遊具の場合は “腐れ”への配慮も重要です。宮崎県の日南地方には、飫肥(おび)杉という杉があります。樹脂を多く含み、昔は船を造るのに使われ、水に強いと言われています。戦後の拡大造林で植えられた飫肥杉は、いま伐採期に入っています。
飫肥杉は生育が早いので太い丸太がたくさん出てくるのですが、もったいないことに有効利用されていません。この大径材を使い、芯去り※1に製材して使用することを前提に設計に入りました。芯持ちの柱は干割れ※を起こします。屋外で使用する場合、その割れ目から雨水などが浸み込み腐朽の原因になります。そこで干割れを起こしにくい芯去りの状態で使用することにしました。
太い丸太があるので、大黒柱に使う七寸角(210×210㎜)の柱を芯去りでとることができました。そして安全性が確保されている薬剤を2度にわたって加圧注入しJAS規格のK4相当の性能を持たせました。さらに撥水性の防腐塗料で塗装し、二重、三重の“腐れ”に対する配慮をしています。パーゴラを支える柱だけでなく桁梁や床、階段などすべての材を芯去りにしていますす。大径材が豊富に調達できる宮崎ならではの事例だと思います」。
※1 芯去り:丸太の中心(芯)が含まれるように製材した木材を「芯持ち材」、中心を外して製材した木材を「芯去り材」と呼びます。「芯去り」の方が、割れが少ないといわれています。
※2 干割れ:乾燥するときにできる「割れ」や「裂け」のこと。
堀正製材・建設の堀内さん
飫肥杉の大径材を有効に活用
波打つ形状のパーゴラの屋根
さらに意匠や遊具について堀内さんにお聞きしました。
「大径材が有効活用されていないのは宮崎の飫肥杉だけではなく全国的な問題です。巨大なパーゴラは子ども達に安心感を与えたいという意図でつくりましたが、もう一つ、大径材を使った事例として日本中にアピールしたいという気持ちがありました」。
格子状のパーゴラの屋根は波打つような曲面になっています。そのデザインの狙いをお聞きすると「波打つようにしたのは、昔からあの形を作りたかったんですよ。(笑)木造でこんなカタチも造れる!ということをアピールしたいという気持ちがありました。
屋根は“千本格子”という縦の目が細かい格子にしています。昔のお店の引き戸などに用いられていた意匠です。夏は強い陽射しを和らげ、冬はやわらかい木漏れ日が入るように格子の間隔を考慮しました。この下に入ると格子の間から空が見えて解放感があります。
遊具は、2年前につくった遊具と連動感を持たせ、子どもたちが走り回って遊べるように動線を考えて構成しています。 “丸太すべり台”と“丸太登り”は、吉田園長さんからの依頼で製作しました。丸太をくり抜くのは大変でしたが、子どもたちがとても喜んでくれているのでつくってよかったと思っています。床下のスペースも隠れ家的な遊び場として考えました。そこでおままごとをして遊ぶ子どももいますね」。
- 天井には千本格子の意匠を採用
年に1,2回の定期点検を実施
先生方による毎朝の目視点検を励行
まるでフィールドアスレチック!
メンテナンスに関して堀内さんは「計画表を作成し園に提出しています。いちばん大事なのは先生たちが毎朝目視で点検していただくことだと思っています。年に1、2回は定期点検を行うつもりです。先生方が何か異常や不具合を発見したときは遊具の使用を中止して、私たちに連絡していただきすぐに問題を解決するようにします。
また、木材は湿気を嫌うので、泥や砂ぼこりがついていたら、こまめに掃除していただくことが必要だと思います。塗装に関しては5年に1回ぐらいは塗り直した方がいいだろうと思っています。地下20㎝のところにコンクリートで基礎がつくり、20cm土埋めして子どもたちが基礎のコンクリートにつまずくことがないよう配慮しています。基礎工事のときに確認したのですが、子ども園がある土地は、水はけがよく、ほとんど水分を含んでいないので、腐朽の心配はないと思っています」と話します。
床板も芯去り材を使い干割れを防止
地域の子どもたちにも、この遊具で遊んで欲しい
床下は秘密基地的な遊び場
木の遊具を今後どのように役立てていくのかを理事長の山路さんにおたずねしました。
「せっかく立派な施設ができたので、これを有効活用していかなければと考えています。木花こども園の子どもたちだけでなく、木花の地域のたくさんの子どもたちに遊具を開放する日を定めて、保護者の方と一緒に遊んでいただければと思っています。また、木花地域に植樹ができる場所があるので子どもたちと一緒に木を植えたいと考えています。木の成長と自分の成長を一緒に重ねて、自然の大切さを知ってもらえるといいですね。また、他の施設の方々にも木の遊具のよさを知っていただき、木の遊具が広まっていけばいいなと思っています」。
園長の吉田さんは、「木の遊具で子どもたちの心の育ちや遊び方がどう変化していくかを確かめていきたいと思います。それと保護者の方々の意識が変化することにも期待しています」と抱負を語ってくださいました。
木の遊具で元気に遊ぶ子どもたちを見ていると、大人も何か力をもらえる気がします。木の遊具の大きな可能性を感じました。
木花福祉会 理事長の山路さん
https://love.kinohei.jp/_files/story/48_07.jpg左から 園長の吉田かおるさん、理事長の山路政里さん、堀正製材・建設の堀内義美さん、堀内久義さん
令和3年度 外構部の木質化支援事業(企画提案型実証事業)
宮崎県宮崎市 木製遊具の耐久性及び杉材が与える遊ぶ子供への感触の検証
木花こども園
http://kibana.or.jp/
※人物写真は、撮影時のみマスクを外して撮影しています。