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地元の木で、地元の人たちが建てた木の学校
(兵庫県 香美町立村岡小学校)

兵庫県北部、日本海に面した香美町は、日本有数のズワイガニの水揚げ量を誇る海の町であるとともに森林率86%という森の町です。また、神戸牛、松坂牛、近江牛などのあらゆるブランド牛の素となる但馬牛のふるさとでもあります。豊かな自然に囲まれた香美町では、町内の全小中学校で、地域の人・自然・文化を活用した「ふるさと教育」を実践しています。その一環として、村岡小学校の校舎改修と改築時に地元の木をつかった「木の学校」が建てられました。今回は、「木の学校」づくりの基本計画案と木材調達支援を行ったNPO法人サウンドウッズ代表の安田哲也氏にお話を伺いました。

「木の学校」でふるさと教育を具現化

木質化改修された教室での授業(写真提供 NPO法人サウンドウッズ)木質化改修された教室での授業(写真提供 NPO法人サウンドウッズ)
NPO法人サウンドウッズは、公共建築の事業化企画の支援から木材調達までのコンサルティングや、森とまちをつなぐ木材コーディネーターの育成に取り組んでいます。

兵庫県内でいくつかの公共木造施設の支援実績があったことから香美町より相談を受け、地元の木を使った「木の学校」づくりに参画し、設計の基本構想から木材調達をプロデュースしました。香美町では“ふるさと教育”を実践していて、当時の教育長さんが、“地元の学校を、地元の大人たちが、地元の木をつかってつくる”というコンセプトを立ち上げました。また、地元の森林組合さんも地元の山の木を学校づくりに活用できないかと考えておられました。

そこでサウンドウッズが、様々なプレーヤーをコーディネートして、香美町立村岡小学校の鉄筋コンクリート造3階建て校舎の木質化改修と、幼稚園舎・特別教室のための木造平屋建て校舎を改築をお手伝いしました。
小学校校舎と特別教室・幼稚園舎は渡り廊下で行き来できる小学校校舎と特別教室・幼稚園舎は渡り廊下で行き来できる

企画構想からの参画が成功の鍵

「もくもくホール」と名づけられた広々とした食堂棟「もくもくホール」と名づけられた広々とした食堂棟
地方の小さな自治体では、建築専門の担当者を置いていないところが多く、担当者を置いていても木造建築に関する知識や経験のある方はごく少数です。

そこで、木造建築や木材調達の実績がある私たちが企画構想の段階から参画し、設計はプロポーザル方式で全国から募り、木の建築に理解と意欲のある設計事務所を選ぶことを町に提案しました。実際に公募をかけ、30件のご提案をいただきました。審査員の選出に協力し、審査員の方々に、町としての考えや方針に基づいて「木の学校」をつくりたい!という想いを伝えることに注力しました。

企画構想の段階から関わらせていただくことができたので、木の設計への造詣と意欲がある設計事務所を探し選ぶことができたのが成功の鍵だったと思います。
学校のシンボルキャラクター「ロボキー」学校のシンボルキャラクター「ロボキー」

建築に使用できる木材供給量を事前調査

積雪の荷重に耐える重厚な構造積雪の荷重に耐える重厚な構造
大規模な木造建築の場合、木材調達の事前調査がとても重要になります。

山の木は伐るのに適した時期があり、伐った木も製材や乾燥、仕上げなどの工程を経ないと建築材料になりません。必要量を工事が始まってすぐに調達できるとは限らないのです。一般に鉄筋コンクリート造や鉄骨造では、設計が固まって工事の発注をしてから資材の調達に入りますが、村岡小学校のプロジェクトでは、森からの原木生産量や製材乾燥の工程を確保することが難しいと事前の調査でわかりました。そこで、北但西部森林組合の協力を得て、事前に香美町内の山林にどれくらいの伐採可能な立木があるか、どのくらいの量を伐採して供給できるかを綿密に調査し、木の学校づくりで使用できる木材供給量を前もって設計側にお伝えすることができました。

それでも、実際に調達する際、土砂災害があって山から木材の搬出ができなくなり、調達に支障をきたしやきもきした記憶があります。また、香美町は豪雪地域なので、通常よりも使用する木材の量は多くなりました。
建設用の木材は香美町の森から伐り出された(写真提供 NPO法人サウンドウッズ)建設用の木材は香美町の森から伐り出された(写真提供 NPO法人サウンドウッズ)

地元の木を使う「木の学校」は地元の産業も育てる

内装を木質化することで体育館も温かい雰囲気に内装を木質化することで体育館も温かい雰囲気に
基本設計と全体的な監修は東京の設計事務所にお願いしましたが、それ以外の仕事はなるべく地元の設計事務所や木材業者、建設会社、大工が担えるように配慮しました。

使用する木材は香美町内の森林から伐り出し、粗挽き製材までを町内の製材所で行いました。乾燥・仕上げは町内に乾燥設備がないため隣接した豊岡市の製材工場で行いました。また、町内の各業者の負担を減らすため、工期を分けて、順番に工事に関われるようにしました。木造建築なら地元の大工さんたちも手仕事で工事に参加できるのもメリットです。地元の設計事務所の建築士も貴重な経験を積むことができました。

まさに地元の人が伐った地元の木を使って、地元の人が作った「木の学校」になり、地域を巻き込んだプロジェクトになりました。
木の温もりにあふれた幼稚園舎の内部木の温もりにあふれた幼稚園舎の内部

ふるさとを知る教材となる木の学校

6年生が幼稚園児に読み聞かせをする「木の学校」の紙芝居6年生が幼稚園児に読み聞かせをする「木の学校」の紙芝居
この学校を作るにあたって我々が提示したのは「教材となる木の学校」です。

木の学校で学びながら、子どもたちに“ふるさと”を体感してもらいたいと思い、企画構想段階に先生方とワーキンググループを立ち上げ、子どもたちに“ふるさと”を知ってもらう空間をどうやったらつくれるかを何度も討議しました。そして可能な限り見えるところに木を使いました。木造ですから床や壁に傷がつくこともありますし、使っているうちに経年変化で劣化もします。それを安易に塗装等でメンテナンスフリーにするのではなく、汚れたり傷ついたりすることも経験として学べるようにしたいと考えました。年月が経ってみすぼらしく見えるのではなく、ここで過ごした子供たちの思い出が積み重なり愛おしくみえるような、教材としての建築を目指しました。

裏の山から木を伐り、地元の人たちが力を合わせて学校をつくったストーリーをオリジナルの紙芝居にして、次の世代の子どもたちにも「木の学校」の物語を語り継いでいます。
床の傷の一つひとつは、子どもたちの成長の足跡でもある床の傷の一つひとつは、子どもたちの成長の足跡でもある

木の学校の校長先生からのコメント


香美町立村岡小学校
村岡幼稚園
校園長 中村秀男氏
「村岡小学校は、地元の木をつかって地元の人たちが建てた「木の学校」。その特色を生かした教育活動をめざしています。木は使い込んでくると色も変わり、傷もつきます。しかし、それは子どもたちがこの木の学校で過ごした足跡でもあると思います。「木の学校」ができたときの新入生も来春、卒業していきます。当校では、卒業していく6年生が春に入学してくる幼稚園児に「木の学校」づくりをテーマにしたオリジナルの紙芝居を上演するのが毎年の恒例になっています。カエルが主人公で、森から木を伐り出し、学校が作られていった様子を伝えています。また、5年生が参加する4泊5日の自然学校では、林業体験も実施しています。こうした行事でも「木の学校」のフィロソフィを子どもたちに受け継いでいってもらおうとしています。
村岡小学校は、地元の山の木をつかって、地元の人たちが建ててくれた「木の学校」です。村岡の豊かな自然や住む人たちの暖かい心、まさに“ふるさと”に抱かれて子どもたちは学校生活を送っています。香美町がめざす「ふるさと教育」に合致した学校だと思います」。


NPO法人サウンドウッズ
代表理事 安田哲也氏
兵庫県出身。大学で建築とデザインを学び、建築設計事務所勤務を経て青年海外協力隊に参加。帰国後、2005年に自分自身の建築設計活動のかたわら地域産木材活用と森林保全に取り組む「加古川流域森林資源活用検討協議会 KAKOGAWA WOOD(s)」の立ち上げに参加。2009年にはNPO法人サウンドウッズを設立し代表理事に就任し現在に至る。一級建築士として全国の木の建築の企画、設計、地域産木材の調達支援に関わっている。

NPO法人サウドウッズ(兵庫県丹波市)
https://www.soundwoods.net/

できごとが始まる木の建築(兵庫県丹波市)
https://soundwoods.design/

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