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- 子どもの力を引き出す保育を支える、無垢の地域材で建てた保育園
子どもの力を引き出す保育を支える、
無垢の地域材で建てた保育園
2020年春に竣工した100%地元埼玉県の無垢材を使って建てられた社会福祉法人わらしべ会「桑の木保育園」。園舎に求められる防火や耐震の性能の問題、木材調達の問題を乗り越え、職員も子どもも健やかに過ごせる空間が誕生しました。「子どもの力を引き出す」保育方針に沿って、無垢の木材の良さが最大限に生かされています。わらしべ会の創設者で前理事長の長谷川佳代子さん、園長の青木梨恵さん、設計を手掛けた建築家の古川泰司氏にお話をうかがいました。木の保育園、桑の木保育園の魅力をじっくりお確かめいただける360°パノラマビューもぜひご覧ください。
360°パノラマビューで見る
「木も子どもも自然そのもの」直感で木の空間を求めた
桑の木保育園 施設利用アンケートで保護者から寄せられた声
Q どうして木造の園舎を建てようと思われたのですか
―前理事長 長谷川佳代子さん
子どもがそれぞれに持っている良さを引出したい、というのが私たちの保育です。子どもは山に生えている木と同じで一人ひとりがまったく違います。子どもたちの個性を生かす園舎には、木の家がいちばんふさわしいと思いました。保育園は親が子を「入れる」場所ではなく、子自身が「いたくなる場所」でなければいけません。木の家も子どもも、自然そのもの。性質の違う木を組み合わせて、ひとつの空間をつくり上げる古川さんの設計は、私たちの保育とイメージと重なります。
私たちの園には決まったカリキュラムはありません。子どもが一つの遊びを始めたら、飽きるまで続けさせます。木の床の上だと、小一時間くらい子どもたちの集中力が持続します。座り心地のいい、柔らかさがあるスギ材の床が、子どもたちの集中力を持続させているように感じます。
前理事長 長谷川佳代子さん
職員・親も快適さを実感!子どもがありのままの姿でいられる場所
桑の木保育園園長 青木梨恵さん
Q 子どもたちの様子はいかがですか?また働く場としてはどうでしょう。
―園長 青木梨恵さん
子どもたちははだしで走り回るのが大好き。大人と違って足の裏にセンサーがあるかのように、いろんなものを感じ取っているようです。木の床は転んでもさほど痛くなさそうなので、思い切り遊べている感じがします。
私はホールの広々とした空間が好きです。木組が現しになった吹き抜けと園庭への開放感が気持ちよくて、事務所や廊下からふとホールを眺めたときに、ああ、いいな!と思います。子どもを幸せにするためには、大人自身も幸せである必要があります。この園舎は、子どもたちの保育環境だけでなく、働く私たちのストレスのない職場環境を提供してくれます。
法規や調達の問題をクリアし地場材で保育施設を建てる
アトリエフルカワ一級建築士事務所 建築家 古川泰司氏
Q 設計のコンプトや建築のポイントを教えてください。
―建築家 古川泰司氏
桑の木保育園は、「子どもたちに木の家を」という長谷川さんの熱い思いに応えて設計した、2棟目の園舎です。保育施設は防火規定から内装材に制限があり、無垢の木を現しにするのが難しい建物です。表面だけ木にしたり、不燃化された木を使ったりするのは、ありのままを受け入れ個々の力を引き出す保育の趣旨と合いませんし、私自身も子どもたちに自然な木の空間の心地よさを伝えたいと思いました。そこで、通常より太い材を使う「燃え代設計」を行うことで耐火基準をクリアしつつ、本物の木に囲まれた空間を実現させました。
地元の山の木を子どもに届けたかったので、100%埼玉県産の木材を使用しています。構造材には木材の強度を1本ごとに測定するJAS機械等級区分製材を用いました。それによって構造計算がより正確に行えるようになり、耐震性を客観的に担保することができます。
平面計画としては、
事務室兼職員休憩室から園舎全体を見渡せるように、L字型の建物の中心に配置しました。桑の木保育園は、全職員がすべての子どもを把握し関わる「全員保育」です。ガラス面で部屋から部屋に視線を通すことで、見守りやすい環境と一体感を生んでいます。
耐震性を保ちつつ天窓を設けるため、
構造設計家とともに特殊な木組みを編み出した
―建築家 古川泰司氏
自発的な育ちをじっくりと待つ保育では、保育者が気持ちにゆとりを持つことが大事だと感じます。また、子どもたちの様子を把握しやすい見通しの良さが必要です。それらを設計で担保し、保育士さんがストレスなく、楽しい気持ちで過ごせる空間になるよう心がけました。ホールの開放感は特に長谷川さんと一緒にこだわったところです。 開放感をもたらすために、外周壁に水平連続窓を設けていますが耐震性が損なわれます。加えて自然光が降り注ぐ大きな天窓が開放感を決定づけますが、これも耐震性を損なうことになる。水平連続窓と大きな天窓を実現するために構造設計者と相談しながら、木材が繊維方向の軸力に強い事を生かして、梁と方杖を合わせトラスを組んで支えるかたちを考えました。それが空間のアクセントにもなり見どころにもなっています。
―前理事長 長谷川佳代子さん
子どもは、大人が余計な手出しをしなければ力が引き出されてどんどん成長します。知識より感覚をフル稼働して、目の前にいるその子と向き合います。上から引っ張るように教えるのではなく、子どもたちがもっている力を引き出すことが教育です。
子どもは、まず土台を横に広げてから、上に伸びていきます。木の園舎はその土台をつくる大切な場なのです。
施設利用アンケートにて、その快適性が高く評価された