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- 間伐材に再び価値を与える、シンプルで奥の深いパネル化の知恵
間伐材に再び価値を与える、
シンプルで奥の深いパネル化の知恵
日本の間伐材に再び価値を与えられないか――。試行錯誤を25年間続け、ついに方法を見出した神山建設株式会社の協力会社の渡辺保氏。アイデアはシンプルそのもの。しかし、誰も成功しなかったこと。大規模なウッドフェンスもコストを抑えた施工が可能になったいきさつをうかがいました。
簡単そうだけど、誰もやらなかったこと
神山建設の所有地に、施工の実験場としてウッドフェンスを巡らせた
「昔は間伐材も大切に使われていて、捨てるなんてありえませんでした。でも、一時はそのまま山に捨てられてるようになってしまったんです。その光景を見て、なんとか本来の価値を取り戻したいと思い続けてきました」。そう語るのは、一級建築士の渡辺保氏。値段の安いスギ・ヒノキのグリーン材(含水率の高い木材)は、主に間伐材を利用して製材されます。渡辺氏はその根太や垂木を用いた耐久性能の高いウッドフェンスの開発に成功し、日々奔走しています。
渡辺氏はこれまで、材木商を経て設計事務所に勤務。大手建設会社での現場管理経験もあります。木造・鉄骨造・コンクリート造の施工に携わった経験を生かし、木材加工・防腐処理・簡易な取り付け工法をたった一人でプロデュース。今までにない、まったく新しいウッドフェンスを開発しました。
このウッドフェンスが画期的な点は、角材に精度の高い穴を空け、同径の丸棒を串刺しにしてパネル化したこと。「このシンプルな木組工法は、現代の木工機械での丸棒精度の向上と、日本古来の木組技術を融合させた工法です」。雨に濡れる湿潤状態での使用や防腐処理への対応が可能な、木材の屋外利用に大きく貢献する技術です。
反りやすい小径木こそが適材。防腐処理で長期の使用が可能に
基礎付きの支柱を立ててパネルをはめ込むだけなので、短時間での施工が可能
スギやヒノキの未乾燥材(グリーン材)に精度の高い穴をあけ、この穴と同径の乾燥した丸棒を差し込み、穴の周囲の摩擦力によって物理的にパネル化。未乾燥材は乾燥してくると変形(収縮・反り)が出ますが、串刺しにした丸棒が変形を抑え込み、そればかりか変形力でパネルは堅固になります。
「国産小径木(間伐材)の利用を難しくしている乾燥時の変形を逆に利用するこの工法は、現在ほとんどがバイオマス発電の燃料となってしまっている間伐材の価値を、大きく向上させることができます」と渡辺氏。ところがバイオマス発電が数多く建設され、間伐材の入手が難しくなってきているそうです。
これによって、接着剤を使用しなくても強度が向上するため、雨に濡れる屋外での利用に適しているとともに、防腐剤の加圧注入処理を行いやすいという利点もあります。パネルに組んだものを丸ごと釜に入れて防腐処理を行うことで耐久性が増し、メンテナンスなしでも20年以上もつだろうと、渡辺氏は予測しています。
安価な木材の活用と手間の削減でローコスト化を実現
コンクリートブロックの穴にパネルの支柱を挿し、モルタルで埋めるだけの簡易施工
乾燥材より割安なグリーン材や間伐材の利用は、ウッドフェンスづくりのローコスト化につながります。パネルのサイズは、防腐処理用の釜に入る90センチ幅で統一。女性が一人でさっと持ち上げられるほど軽量で、運搬や現場での取り付けも容易なため、施工時間や手間を節減でき、よりコストパフォーマンスが高まります。支柱をコンクリートブロックの穴に合わせた幅にしたのも、すぐれたアイデア。古いブロック塀の付け替えの場合、下の1~2段を残しておいて基礎として利用すれば、基礎工事分の費用を抑えることができるのです。基礎付きの支柱も軽いので持ち運びや施工が簡単。支柱を立てて横板を張ることもできるので、パネルが使えない斜面での施工も簡便に短時間で行えます。
和風にも洋風にも対応できる、自由度の高いデザイン
とある住宅のウッドフェンスでは、板の隙間を空けずリブ状のデザインに
素朴なカントリースタイルや和風、モダンスタイル等、「角材を丸棒で串刺しにする」シンプルな工法は、角材の形や大きさ、間隔を変えることで多種多様なデザインが可能。ウッドフェンスを板材ではなく角材でパネル化することにより、下地を必要としない一つの構造体となります。このため現場での設置作業を大幅に削減できます。また、裏と表が同じリバーシブルのデザインは境界に利用しやすいという利点もあります。「国産材の価格低下を見据え、板材ではなく角材で利用することは画期的な発想」と渡辺氏は語ります。大量の木材需要を掘り起こすことができ、CO2の固定化と日本の林業に大きく貢献するのでは、と思っているそうです。
国産材の利用拡大を目指し、DIYも可能に
軽量なので、女性も無理なく支柱にパネルを取り付け可能
渡辺氏は、このウッドフェンスの特徴である「軽さ」「施工の容易さ」を生かして、誰もが気軽につくれるDIY用ウッドフェンスの販売も考えています。目的はもちろん、間伐材をたくさん使ってもらい、多くの人にその価値を知ってもらうため。「今、間伐材は驚くような安値で売られ、バイオマスの原料として燃やされてしまうことが多くなっています。しかしそれでは、せっかく木の中に固定化されたCO2が放出されてしまう上に、まったく山に利益が還元されず持続性がありません。このウッドフェンスはそうした問題をクリアし、山の循環を支えられる可能性があるんです」。
失敗しても諦めずつくり上げた、知恵の集大成
置くだけで設置できるウッドデッキパネルは、高さ調節も簡単でガッチリとしたつくり
「これまで数えきれないほどの失敗を繰り返し、やっとここまで来られました。やめずに続けてきてよかった……」と、苦労の日々をしみじみ振り返る渡辺氏。実は、最初にウッドフェンスづくりに取り組んだのは25年も前のこと。様々な社会状況の変化を経て、産業の持続可能性に注目が集まるようになった今こそ、国産材利用の広がりを推し進めていくチャンスだと感じています。
「塀だけではなく、置くだけで簡単に設置可能なウッドデッキパネルも開発しました。これらを通じてスギやヒノキといった国産材の大量使用を実現させたいですね」。この技術を日本全国に普及したいと考えている渡辺氏。「興味のある方はぜひ連絡をください」と仲間を募っています。