住むほどに愛着が生まれる地域材と自然素材を生かした飯能のスギの家埼玉県南西部に位置する飯能市は、江戸時代に入間川、荒川や隅田川を利用して木材を江戸に送っていました。飯能の木材は、江戸からみると西の川から来る木材なので「西川材」と呼ばれ、江戸の町づくりになくてはならない木材でした。林業地としての長い歴史と文化を持つ飯能市で、地元出身の建築家が地元のスギ材をふんだんに使用して建てた仕事場兼住宅を訪れました。 目次 地域材と自然素材をつかった家づくり倉庫にあった木材を1棟分購入焼杉加工と左官のモダンな外壁室内空間は“抜け感”を意識木の家は生きているスギの家を建てるには
地域材と自然素材をつかった家づくり 2023年に竣工した仕事場兼住宅、モデルハウスとしても活用している 設計室enは飯能市を拠点に、地域材や自然素材をつかった家づくりを実践しています。代表の小野和良(かずなが)さんは、2023年に自らの手で設計した仕事場兼住宅を新築しました。小野さんが建築家としてこだわった木の家づくりやノウハウについてお話を伺いました。 「設計室enは、代表の僕が一人でやっている小さな設計事務所です。自然素材の家づくりをモットーとしていて、無垢材や自然素材をつかった地産地消の家を建てています。木の家は竣工したときが完成ではなく、その後に家族がそこで暮らしながらだんだんと完成していくものだと思っています。“暮らしを刻む家”っていうのですかね、床や壁に傷がついてもそれが味になる、家族の思い出が刻まれる家を建てたいと思っています。 私は、設計の仕事の他にNPO法人 西川 森の市場で、森と街をつなぐ活動をしています。森や製材所の見学会などを通して、森から木材が出されて家になるまでの流れを知ってもらい、顔が見える木の家づくりをしています。この家は仕事場と住宅を兼ねていますが、モデルハウスとしてお客さまにも見ていただいています。大きな建設会社のモデルハウスは新築の状態のままで見せていますが、うちは実際に生活をして経年変化していくところもお客様に見ていただけます」 施主件兼設計者の小野和良(かずなが)さん
倉庫にあった木材を1棟分購入 外壁は、焼杉加工した西川材のスギ板 地域材を使って家を建てる場合、最初のポイントとなるのが木材の調達です。森で伐った木を木材に加工するためには、木を十分に乾燥させる必要があります。また木を伐る時期も木の活動が休止し水分が少なくなる冬の時期が適しているといわれています。木は自然素材なので工場で生産する工業製品のように注文してすぐに手に入るわけではありません。小野さんは、木材の調達はどうされたのでしょう? 「3年前に仕事場兼自宅を新築するときにNPO西川 森の市場のメンバーでもある林業会社さんに木材の調達について相談したところ、うちの倉庫に在庫があるよと言ってくれたので、家を建ててもらう予定の大工さんと一緒に見に行きました。倉庫の中に何年も置いてあったのでよく乾燥していた西川材のスギやヒノキを住宅1棟分購入することにしました。 購入した木材で足りないものは地域の製材会社さんから購入しました。大黒柱には240mm角で長さが約6mのクリ材を使っていますが、こちらは地域の材木屋さんに頼んで探してもらい、岩手県まで買いに行ってもらいました。土台にはヒノキを使っていますが、あとはほとんどがスギ材を使った家です」 ※飯能市、日高市、入間郡毛呂山町、越生町などの入間川、高麗川、越辺川流域を「西川林業地」と呼び、そこで産出されるスギやヒノキの木材を西川材といいます。 240角の無垢のクリ材の通し柱、棟木は西川材のスギ
焼杉加工と左官のモダンな外壁 ドアを開けると反対側に広い窓があり解放感がある 小野邸の外壁は、焼杉加工の落ち着いた色合いの板張り壁と左官仕上げの白い壁の対比がとてもモダンな印象です。 「外壁は耐久性などを考えて焼杉にしました。そのまま使うと白い壁とのコントラストが強すぎるので表面の炭化した部分をブラシで少しそぎ落として使っています。耐久性を考えると落とさない方がいいんですけどね。軒を深くして、木の壁に直接、雨水がかからないよう配慮しています。 左官仕上げの壁は“そとん壁”という南九州のシラス台地の“シラス”※を主原料とする自然素材です。防水性と透湿性を兼ね備え、基本的にはメンテナンスがフリーです。リビングルームの窓の前には小さなウッドデッキを設置しています。こちらもスギ材です。コンクリート基礎の上に金属製の床束を設けて、デッキ材には木材保護塗料を塗っただけで、特に防腐防護処理はしていません。3年経つのでデッキの日が当たるところや雨がかかるところは色が変わってきていますが、その変化を楽しんでいます。傷んだら板を交換すればいいと思っています」 ※シラスとは、マグマが噴火と同時に冷やされて火砕流となってそれが堆積したものです。 リビングルームとの一体感があるウッドデッキ
室内空間は“抜け感”を意識 吹き抜け空間や大きな窓の存在で解放感があるリビング 小野邸は、仕事場部分が1階建て、住宅部分が2階建てとなっています。それぞれに玄関を設けていますが、仕事場と住宅は室内で行き来できます。 「住宅部分の1階はリビング・ダイニング・キッチンになっていて、薪ストーブを設置して、吹き抜けの空間もつくっています。2階は寝室と子供部屋などです。室内は“抜け感のある空間”を意識して設計しました。視線の先に窓を設けたり、ドアなどの建具をできるだけ減らしたりしてオープンで解放感があり、実際よりも広々と感じられる空間をめざしました。仕事場部分は、作業する部屋と打ち合わせをする部屋を設けています。ドアを減らしたのは薪ストーブの暖気をまわして各部屋を暖かくするという狙いもあります。 しかし、どこもかしこも開放的だと落ち着かない家になるので、天井は通常の家よりも25㎝ほど低くして落ち着いた感じを演出し、開放的な空間との変化をつけています。天井には小幅板風羽目板を採用。羽目板ですが、細い木を貼り合わせたように見えます。木の家はともすると野暮ったい印象になりがちですが、デザイン性の高い部材を使うことでモダンな印象にしています。内装の壁は薩摩中霧島壁というシラスからつくられた自然素材の壁材です。床材はスギで、オイル系の保護塗料を塗っただけで使っています」 天井を低く設計し、落ち着きがあるキッチン
木の家は生きている 2階にはオープンな空間が広がる 「スギは材質がやわらかいので、手触り、足触りがいいですね。うちは床もスギなので裸足で歩いた時、とても気持ちがいいです。傷がつきやすいのですが、傷は家族の暮らしを刻み込んでいる、と思うようにしています。西川材のスギは、森の手入れがよくされているので年輪が細かく均一で色、艶がいいのが特長です。強度も全国平均を上回るものが多いと聞いています。 あと木材は、調湿効果に優れていることも住みやすさにつながっていると思います。木材は適材適所に使い分けていくべきだと思います。 左官仕上げの壁は調湿性の高い自然素材を採用しているので、木と相まって調湿効果はとても高いです。また、家を建てるときに断熱性能にも配慮しました。窓サッシはすべてLow-Eペアガラスにして断熱等級は6です。夏はエアコン1台で過ごせますし、冬も薪ストーブで十分。家の中が暖かいので外に出ると寒さを感じます。 夜、寝静まった頃に構造材が割れるパリっていう音が聞こえることがあります。その音を聞くと、なんか家が生きているんだなって感じます」 2階から見た吹き抜け空間
スギの家を建てるには 仕事場部分の明るい打合せ室 木材と自然素材をふんだんにつかった小野さんのお宅は、とても暮らしやすそうです。建築家である小野さんに上手な木の家の建て方をお聞きしました。 「通常の家づくりではプランを立て、構造図を書いてから木材の調達をはじめることが多いと思います。しかし、地域材をつかって家を建てようとした場合、基本設計と同時に構造図を検討してプランが固まったところで木材の調達に入った方がいいと思います。設計側から製材や木材会社、山主さんなどに、こういう家を建てるからこのくらいの量の木材が必要になるという情報を流すことが大切です。 私はNPO 西川 森の市場のメンバーだったので、そのあたりはスムーズに行きましたが、日ごろから設計側と川中、川上との信頼関係をしっかり築いておけるといいですね。お施主様も、木は自然素材なので乾燥に時間がかかるので、一般的に思っているより少し時間がかかることを知っておいていただけるといいですね。 今後、私は、木の家の建築の依頼があったときには、プランを進めると同時に、施主さんと一緒に森に行って木を見ていただくことができるような家づくりをしていければと思っています。家を建てる機会というのは、一生の中でそう何度もないので、少し時間をかけても損はないと思います」 小野和良(かずなが)さん設計室en代表、埼玉木づかいコーディネーター、埼玉建築士会会員、NPO法人 西川・森の市場理事
Story 住むほどに愛着が生まれる地域材と自然素材を生かした飯能のスギの家 人口500人の関東でいちばん小さい村の構造材から内装、外壁までスギをふんだんに使った村営住宅 中庭に開くスギの家――タイムレスな素材が第二の人生を彩る 木に魅了された施主とデザイナーが共同設計したウッドフェンス おすすめ記事 古くて新しい?国産木材をふんだんに活用できるCLTログハウス構法で建てた「上滝(かみだき)こどものもり」 長野県産スギ材で建てた、住み心地のいい木造住宅 カテゴリー SDGs エクステリア 木の家 木の街づくり タグ ウッドデッキ ウッドフェンス オフィスビル グランピング 開発秘話 学校・保育園 古民家 公園 公共スペース 雑誌掲載 対談 木の家具 木の雑貨 木の中高層建築物 木造住宅 遊具 JAS構造材 エリア 全国 北海道・東北地方 関東地方 中部地方 近畿地方 中国地方 四国地方 九州地方