Story 大型パネル工法による県産材を活用した永く愛される高性能な木造住宅づくり
大型パネル工法による県産材を活用した 永く愛される高性能な木造住宅づくり 株式会社サトウ工務店は、新潟県三条市にある木造住宅を得意とする工務店です。社長の佐藤高志さんは、設計から現場管理まで一貫して担当し、地元の新潟県産材を活用した家づくりに取り組んでいます。2019年からは、いま注目されている木造大型パネル工法を導入。現場で働く大工さんの重労働を大幅に軽減し、断熱性に優れた高性能な家づくりを目指しています。取材は、2020年11月に木造大型パネル工法で建てられた、新潟県加茂市で造園業 EN GARDEN WORKを営む小川俊彦さんのご自宅にお伺いしました。
いつまでも住み続けられる家づくり 木造大型パネル工法で建設した小川邸
佐藤さんは、在来工法(木造軸組工法)にこだわった家づくりをしています。その理由をお聞きすると「在来工法は将来、弊社以外の工務店や大工さんでも面倒を見ることができる工法だからです。家は永く持たせなければいけないと考えているので、将来、補修や改装が必要になったときに大工さんが手を加えやすい在来工法にこだわっています」。
木造住宅の主流である在来工法は、柱や梁、を組み合わせ軸組(骨組み)をつくって家を建てる伝統的な工法です。建築現場で大工さんが基礎の上に柱を立て、梁を渡している姿を誰でも一度は見たことがあるのではないでしょうか。しかし、在来工法にも課題がありました。「在来工法では、骨組みをつくった後に壁をつくっていきますが、昔は筋交いだったのが今は耐力面材というボードを使います。さらに近年、断熱性能を向上させるため壁に断熱材を厚く組み込むようになりました。またサッシも断熱効果が高いトリプルガラスのサッシが多くなり資材はどんどん重くなっています。現場でこれらの資材を運んで取り付けるのは重労働です。大工さんも高齢化しているので何とか労力を軽減できないかと思っていたときにに出合いました」。
参考:ウッドステーション株式会社の製品ページ
https://woodstation.co.jp/service/product.html 施主の小川俊彦さん(左)と設計者の佐藤高志さん(右)
設計の自由度が向上し建物が進化 解放感のある明るいダイニングルーム
サトウ工務店は3年前から大型パネル工法を導入しています。「パネルという言葉を最初に聞いたときは、メーカーが製造したパネルを利用して家を建てなければいけないのかなと思ったのですが、よくよく話を聞いてみるとそうではありませんでした。パネルに使用する木材、サッシなどの建材も、も、すべて工務店が指定したり、納入したりすることができるのです。要するに工務店が考えたデザインや性能を設備の整った工場でパネルに加工してもらえるわけです。これは今までのパネルとはまったく違う!と驚いたのが導入のきっかけです」。
導入してわかったのは、大型パネル工法のメリットは現場の重労働の軽減や工期の短縮だけではないということでした。「今までは現場で作りやすい仕様で設計しようとしていたんです。サッシも本当はこちらを使いたいけど、重すぎるからこれにしようとか…、断熱材も作業しやすい厚さにしておこうとか…。大型パネルになると、これらはすべて工場で事前に作り込むことができます。今まで現場で難しかったことが可能になり、設計の自由度が向上して建物を進化させることができました」。
玄関の脇にあるお客様との打ち合わせコーナー
高い断熱性が木造住宅の魅力を倍増 ゴミ置き場の目隠し用、茅葺(かやぶき)の塀は、施主の小川さんが作成。
施主の小川さんに木造の家を建てた経緯についてお聞きしました。「家の新築を検討し始めたときに、サトウ工務店さんのオープンハウスを見に行ったんです。佐藤さんがデザインする家は、僕らがイメージしていた木造住宅とはまったく違っていて、木造でこんな斬新なデザインができるのか!と関心しました。佐藤さんはSNSで家の断熱性能などについても発信されていて、とても勉強になりました。それで家を建てるときは佐藤さんにお願いしようと決めました」。
小川邸は2020年11月に完成。2年間住んでみた感想をお聞きすると「冬でもあったかいですね。家中どこにいても温度が一定です。自然素材の木の質感や肌触りも関係しているのかもしれませんが、とても快適です。すぐ近く実家があって、たまに実家で食事をするのですがもう寒くて、すぐに家に帰りたくなります。それと断熱性能が高いので防音効果も優れています。家の中で大きな音でテレビをつけていても外からはぜんぜんわかりません。すぐ隣が小学校なんですが、外の音も入ってこないのでとても暮らしやすいです。家に遊びに来た人は、温度からの居心地のよさを指摘されますね」ととても満足されています。
サトウ工務店のFacebookページ
https://www.facebook.com/sato.home.65/ 施主のEN GARDEN WORK代表の小川俊彦さん
外からも庭の植物を楽しんでもらえる 回廊のような大きな軒は奥行きが1間(1.8m)。
小川邸は、サトウ工務店の佐藤高志さんと新潟市の木造住宅専門の設計事務所、ネイティブディメンションの鈴木淳のお二人による共同設計です。設計の際にこだわったポイントをお聞きしました。「鈴木さんと建設予定地を見た時に、小学校の隣という立地が特徴的だと思いました。校舎の窓から家の中が見られるというデメリットもあるのですが、造園業を営む小川さんは子どもたちに植物のやさしさや木のよさを見せてあげたいという思いを持っていました。
そこで、あえて家を塀で囲まずに、外回りを植物を植えた庭にして、さらに奥行き1間(いっけん 約1.8m)の大きな軒をつくりました。庭と家との距離をつくることでプライバシーを守り、家の外からも、家の中からも、庭の植物を楽しめるようにしました。軒裏や外壁には県産材を使って木の素材感をアピールしています。外壁は県産のスギ板にウッドロングエコという木材防護保持効果もある天然由来の塗料を用い落ち着いた色合いにしています」。
サトウ工務店社長の佐藤高志さん
小さな工務店の大きな使命 家の中からも外の庭を見て楽しめる
新潟県の人工林は、そのほとんどがスギで占められているのが大きな特徴です。佐藤さんが新潟県産材のスギの活用にこだわっている理由をお聞きしました。
「新潟産のスギは、全国的に有名というわけではないので地元の工務店が積極的に使っていく必要があると思っています。僕らが使うことで地域にお金が回り、大工さんたちも働くことができますし、自然環境のためにもなります。いま、建物の値段がどんどん高くなっていますが、そのお金を県外や国外に流すのではなく、少しでも地元に落とせたらいいですね。それを可能にするのが、我々のような小さな工務店だと思っています。大きなハウスメーカーにはできないことを我々がやらないといけません。大型パネル工法で、住宅の性能を高め、現場の過酷な労働を軽減し、内装の造作に時間をかけて大工さんの技術を活かせます。世代を超えて永く住んでいただけるよう、先を見た家づくりをしていきたいと思っています」。
在来工法を進化させた木造大型パネル工法は、時代のニーズに応える高性能、高機能な住宅づくりへの地域木材活用を大きく拡げるものとして期待できます。地域の木材を有効に利用していくための鍵は、地域の小さな工務店さんが握っているといっても過言ではないでしょう。
木の質感を生かした外壁と軒裏
木造大型パネルの施工風景
木造大型パネル施工中の小川邸。工場で製作された大型パネルはトラックで現場に運搬され、クレーンで設置。ほぼ一日で屋根まで完成させることができます。(写真提供:株式会社サトウ工務店)