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- 住宅を彩るウッドフェンス。施主の想いを叶えた風景に溶け込むデザイン
住宅を彩るウッドフェンス。
施主の想いを叶えた風景に溶け込むデザイン
岡山県の中西部に位置し、広島県に隣接する高梁市は盆地となっていて、その昔物流にも使われたとされる一級水系の高梁川が貫流しています。川向こうにある集落、落合町は四方を山々に囲まれた静かな町。この町を今から約4年前の夏、平成30年豪雨(通称西日本豪雨)が襲いました。備中高梁駅から車で5分程の距離にある「元長邸」も床から2mの高さまで浸水し、建て直しを余儀なくされました。家屋の建て替えから3年後の昨年10月、古くなった木塀を新たに作り変えたそうです。その当時の様子を施主の元長様と施工会社の株式会社影山設計工匠・代表取締役影山淸信氏に詳しく聞かせていただきました。
長年住宅を守って来た木塀を安全なウッドフェンスに一新
住宅を囲む重厚感のあるウッドフェンス
施主の元長様は、お祖父様が林業を営んでいた関係で幼い頃から木に触れる機会が多かったそうです。木が近くにある環境で育ったため、今の頑丈なウッドフェンスに作り変える前も木塀にしていたそうですがそもそも木に対する不安はなかったのでしょうか?
「近くの真庭市は昔から林業が盛んな町で、そこで祖父が林業に従事していました。当たり前のようにあった天然木の温もりや香りが好きで、被災する前も木の塀にしていました。子供達が遊びに行く時に塀を乗り越えて行き来していたため、以前の塀はかなりぐらついて危険な状態でした。少しでも長持ちさせようと自分たちで紫外線防止の塗料を塗り、メンテナンスしていましたが建築を依頼した建築会社から影山さんを紹介して頂きまして、そこで新しい木の塀の提案を詳しくお聞きし、ぜひにとお願いをしました」とウッドフェンスにリニューアルした経緯を語られました。
山村風景に自然と馴染む塀に施された工夫
洋風建築に似合うシックな黒塀。これは建物のデザインに合わせて、地場で創業15年の総合建築業を行う株式会社影山設計工匠の影山淸信氏がオリジナルで制作しました。板材は厚さ30mmのブランド材、真庭産美作桧(みまさかひのき)を使用。厳しい冬を乗り越えたヒノキは強さを増すと言われ、耐久性に優れて木目が美しく、香りは強い特徴があります。
ウッドフェンスに採用した木材は全てクリーンウッド法が定めた認定業者から仕入れ、品質が安定しているJAS製品を選定。防腐処理薬剤は、タナリスCUZA-2を加圧注入をしています。性能区分K4相当とあって強風にもびくともしない丈夫な板は、夏場38度超える盆地特有の過酷な気候にも十分耐えられます。
「今回、保護塗装にもこだわりました。木材専用塗料『ウッドガード』を施工前に工場で2回塗り、十分に乾燥させてから施工しました。色は住宅に使われている板材の色に合わせ、近似色を選びました。既設のブロック基礎と羽子板と呼ばれる支柱の取り付け金物を再利用することで制作コストを抑え、施主様に喜ばれる設計を目指しました」と影山氏は制作時の苦労を語っていました。
住宅のデザインに合わせて、ウッドフェンスもチャコールグレーに塗装。
実用性を併せ持つ考え抜かれたデザインの妙
通常、塀やウッドフェンスには板と板の間に隙間が空いています。これは風通しを良くするだけでなく、外部と遮蔽した空間に閉塞感が産まれるのをなくすためです。あえてそこに埋め木を行った意図を影山氏に伺いました。
「よくぞ、気づいてくれました。これは計画の際に苦慮した部分なんです。作るからには格好いい物をつくりたいし、洋風建築にマッチするよう設計しました。既設の塀より若干高くし、圧迫感がない丁度良い高さに調整しました。埋め木した部分は四角い板を45度傾け、光が当たると陰影がシャープになるよう考えました」。
単に横板を走らせるだけでなく、意匠としての美しさを求めたウッドフェンスは洋風建築と山村風景に溶け込んでいました。雨が降った時には水切りの役目も果たしてくれる設計は、デザイン性と実用性を兼ね備えています。ここに影山氏の長年培った技術力の高さが伺えます。
被災を機に生まれ変わった美しい木塀を代々受け継いでほしい
既設の木塀から新たにウッドフェンスにリニューアルした元長様。感想を伺うと、「前回の塀は木の塀に自分たちで塗料を塗っていましたが、今回はしっかりした耐久性のある専門塗料を塗ったヒノキを使ったウッドフェンス。家の雰囲気に合う濃い色を選んで頂き、大変満足しています。この先、何十年も持つと言われていますので、息子にこの家共々受け継いで欲しいなと思います」。
設計施工を担当した影山氏は、「今後は5年に1回の割合で塗装が剥げた部分か、もしくは全体に塗装を施して頂きたいと思っています。笠木の部分に板金屋さんにお願いして鋼板を貼ると長持ちしますので、それも検討頂けたらと思います」と今後のメンテナンスについてアドバイスしていました。
被災を機に変貌を遂げたエクステリア。施主様と作り手の想いが代々受け継がれることを願っています。
株式会社 影山設計工匠(岡山県真庭市)
※人物写真は、撮影時のみマスクを外して撮影しています。