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これからの「木の街づくり」の一つの指針となる
木質ハイブリット造のフレーバーライフ社本社ビル

中央線 国分寺駅北口から駅前通りを歩いてすぐ。商店やマンションが立ち並ぶ一角に建つフレーバーライフ社本社ビルは、2017年7月に竣工した国内初の7階建て木質ハイブリッド造のオフィスビルです。低層階は鉄骨造で4〜7階が木質ハイブリッド造となっています。高層階の窓越しに見える太い木の柱や梁や外装の木製ルーバーがひときわ目を引き、街のランドマークとなっています。施主のフレーバーライフ社社長の興津秀憲さんと設計者の株式会社スタジオ・クハラ・ヤギ一級建築士事務所の八木敦司さん、施工を担当した住友林業の山木一彦さんにお話しを伺いました。

働く環境にも自然を取り入れたい

鉄骨のジョイント部は後から集成材で覆い隠す国分寺駅前通りに建つフレーバーライフ社本社ビル
施主のフレーバーライフ社の興津さんに本社ビルを木造にした想いをおたずねしました。

「当社は、植物の香り成分を抽出したエッセンシャルオイルを扱っていて、自然のものを自然のまま取り入れる、そんな生活を取り戻したいと考えています。人間は自然の中で生かされている存在なので、働く環境にもなるべく自然を取り入れたいという想いがあり木造で建てたいとつねづね考えていました。

もう一つのきっかけは、以前、奥多摩のある学校が、教室を一つだけ木質化し1学期ごとに生徒さんを入れ替えてみたら木質の教室の生徒さんの方が落ち着いていたというお話を聞き、暮らしの中に自然を取り入れることは大切だと確信しました」。

しかし、計画した当時(2015年)はまだ木造の中高層ビルの事例が少なく、実際に建てるまでにはご苦労もあったようです。
「建設予定地を手に入れてから1年ぐらいの検討期間がありました。普通の鉄筋コンクリート造にすれば簡単なのですが、そうはしたくなかった。いろいろ模索してやっと八木さんと巡り合うことができ、設計をお願いしました」。
フレーバーライフ社の興津社長フレーバーライフ社の興津社長

仕事場ではなく社員の「第二の家」に!

5階のオフィスは好きな場所で仕事できるフリーアドレス5階のオフィスは好きな場所で仕事できるフリーアドレス
設計を担当された八木さんに木質ハイブリッド造を採用した経緯をお聞きしました。

「設計に取り掛かる前に興津さんの想いを聞かせていただいたんです。そのとき印象に残ったのが、単なる仕事をする場をつくるのではなく“社員の第二の家”にしたいという言葉でした。オフィスは一日の大半を過ごす空間だから、できるだけ気持ちよく過ごしてもらいたい。社員はもちろん近隣の人たちともコミュニケーションがとれる場所にしたい。

そして、自然がいちばん大切という想いから木を使って建てたいとおっしゃいました。それは、当たり前のことではあるのですが、今までのビル建設ではコストや工期のことに重きがおかれ、そこで働く人の心地よさを希望する方はあまりいなかった。やっとこういう方が日本にも現れてきたなと感動しました」。
設計者の八木敦司さん設計者の八木敦司さん

都市木造の新たな可能性を示す木質ハイブリッド造

ハイブリッド集成材が“あらわし”になっている室内ハイブリッド集成材が“あらわし”になっている室内
「木造のビルを建設するには大きく3種類の手法があります。一つは『燃え代被覆型』で中心の木材の周りを不燃材で囲み、その外側に燃え代層として木材で覆う方法。もう一つが『鉄骨内蔵型』で中に鉄骨を入れたハイブリッド集成材を使う手法。最後が『被覆型』で木材の周りを耐火性のある石膏ボードなどで覆い隠してしまう手法です。木を“あらわし”で使いたいというご希望だったので『燃え代被覆型』か『鉄骨内蔵型』の二つの選択肢になりました。

そこで、コストや現場の状況、工期などを考慮し、また当事務所のパートナーの久原が『鉄骨内蔵型』の開発に携わった経験があったので、工夫をしてコストダウンや施工の簡略化、設計の標準化が期待できる『鉄骨内蔵型』を採用することにし、7階建てのうち下層の1~3階までは通常の鉄骨造で4~7階までを鉄骨を内蔵したハイブリッド集成材による木質ハイブリッド造で建設することにしました」と八木さんは話します。
内部に鉄骨を内蔵したハイブリッド集成材内部に鉄骨を内蔵したハイブリッド集成材

木の魅力を引き出すデザイン

地域のランドマークとなっている質実剛健なデザイン地域のランドマークとなっている質実剛健なデザイン
オフィスやイベントスペースがある4~7階は、太い構造材が“あらわし”になっていて力強い印象を受けます。八木さんにデザイン・意匠面でのお考えをお聞きしました。

「デザイン面での考え方は、これも興津さんがおっしゃった『質実剛健』がヒントになっています。柱や梁を隠さずに見せ、壁面は木質化せず珪藻土を塗ったシンプルな壁にして木の美しさがより引き立つようにしました。床のフローリングと外壁のルーバーは、興津社長のご希望もあって多摩産の杉材を使っています」。

興津さんに実際にこの空間で仕事する感想をお聞きすると「執務中、他に人がいないときは靴を脱いで木の床の感触を楽しんでいるんですよ。(笑)床材や柱や梁は元の木の色のままで使っているので、だんだん木の色が深くなり味が出てきました。その変化を楽しんでいます。太い木の構造材が見えますが、これが鉄骨やコンクリートだと圧迫感になると思うのですが、木だと落ち着きや安心感をもたらしてくれますね」。
フレーバーライフ社の商品を販売する1階のショップフレーバーライフ社の商品を販売する1階のショップ

都市型・駅前型の中小木造ビルのモデルケースに

鉄骨のジョイント部は後から集成材で覆い隠す鉄骨のジョイント部は後から集成材で覆い隠す
次に施工を担当した住友林業の山木さんに施工面でのご苦心された点をお聞きしました。

「現場は、昼間の交通量が多い駅前通りに面していて、敷地内にトラックが入る余地がありませんでした。近隣の住人や工事関係者の安全やコストと工期に配慮しながら施工計画書をまとめるのは、正直かなり大変な作業でしたが、各位のご協力もあって無事、竣工まで漕ぎつけることができました。

ハイブリッド集成材は、国産カラマツを使っています。長野産が50%、北海道産が50%です。鉄骨部分は埼玉県で製作し、石川県の工場でハイブリッド集成材に加工し、現場に搬入しました。柱や梁のジョイント部分に着目してジョイント部分を従来の位置から変更することで施工がしやすくコストも軽減できました。また集成材製作の簡易化や運搬の効率化など見えないところで工夫を凝らし都市型・駅前型中小ビルのモデルケースとすることができました。搬入された部材を現場で組み立てるだけでいいので、端材等のゴミがでず、工期も短縮することができたと思います」。
施工を担当した住友林業の山木さん施工を担当した住友林業の山木さん

地域コミュニケーションの場としても活用

子ども食堂を企画している7階のイベントルーム子ども食堂を企画している7階のイベントルーム
八木さんは「ビルを建てた時からずっと思っていたのは、このビルだけで終わらせたらいけないということです。こういう建物が、普通に街の中に建っていくことが木の建設の普及につながると思っています。普通だけどよく見るとすごい!というのが設計のコンセプトにもなっていて、興津社長の『質実剛健』という言葉にもつながっています。ここは東京なので東京の木を東京の街で使っていく“地産都消”ができれば、山側の人たちも潤い、大きな流れができて社会も変わると思います」と話します。

一方、住友林業の山木さんは「駅前の狭い敷地でも、様々な工夫をすることで木質ハイブリッド造の中高層ビルをちゃんと建てられることが実証できました。この事例がきっかけとなって同じような形で木質ハイブリッド造のビルを建てる案件がいま進んでいます。今後も木造・木質化の中高層の建物が増えていくことを期待しています」とおっしゃります。

フレーバーライフ社では7階にあるイベントホールを社員だけでなく近隣の住民たちともコミュニケーションが図れる空間と考えています。興津社長は「このスペースに近隣の方もお招きして落語会を開きたかったんですよ。しかしコロナ禍で実現させることができませんでした。でも、いま国分寺市役所と相談しながら、ここで『子ども食堂』をはじめる計画を練っています」と夢を拡げています。子どもたちの笑い声が聞ける日も遠くはないようです。
アロマセラピー教室などを開く4階のスクールルームアロマセラピー教室などを開く4階のスクールルーム

写真左から 住友林業 山木一彦さん、フレーバーライフ社社長 興津秀憲さん、株式会社スタジオ・クハラ・ヤギ一級建築士事務所 八木敦司さん

株式会社フレーバーライフ https://www.flavorlife.co.jp/
株式会社スタジオ・クハラ・ヤギ一級建築士事務所 http://www.s-k-y.jp/
住友林業株式会社 https://sfc.jp/

※人物写真は、撮影時のみマスクを外して撮影しています。

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